俺は、自分の楽観的思考と、欠落しすぎている一般常識且つ、不甲斐無さを呪った。 コイツの出身に興味も何もなかった。 ただ一緒に居る事が当り前だった所為もあるが、とは言えもう少し事前に調べればよかった。 堅気の世界に足洗ってから、めっきり危機感が衰えてるってのも問題だな、こりゃ。
「ほら。ここで、おにー様と、おかー様に会うのよ。」
俺は今、コイツに連れられてコイツの里帰りに同行している。 里帰りっつっても、山奥とかではなく都会の高層ビル群の一際でかい超高層ビルの前にいた。 別にソコまではいい。強いて問題視していない。 否。問題視すべきところはもっと別の・・・・そう、コイツの実家というのがどう言うトコロか、だ。
「榊崎コーポレーション・・・・・」
「何で驚いているの?」
首をかしげて、不思議そうに聞いてくるなよ・・・・・。 そういえば、こいつの名前聞いた事なかったな・・・・・俺も名前名乗ってないけどサ・・ 俺は相手にも聞こえるくらい盛大に溜め息をついた。
「住む世界が違いすぎる。」
「?意味判らないわ。いま、同じところで生きてるのに、何言ってるの?」
「真顔で言い返してるって事は、自覚ないのか?」
「????」
榊崎---------- 表では、貿易を営んでおり、世界的に有名なやり手の貿易会社だ。 貿易だけでなく、薬品精製や環境保護団体の幹事、NASAの開発チームにも関っている。 日々、ニュースのネタにされ報道の三割を占めている。 飽くまでもそれが、『表』の榊崎の体裁だ。
「チョーお金持ちのお嬢様だったんだな、お前。」
「チョーお金持ちなのは私じゃなくて、おとー様とおかー様。」
「何言ってるのよ」って顔で返されても困るんだが・・・。 親が金持ちならって訳でもないが、その子供も親の保護下に置かれている訳で 芋づる式に生活も一緒ナ訳で、チョー豪華な生活を送っていたのでは・・・・・? いや、それよりも、コレではっきりしたことがある。
「俺、間違いなくお前の親父さんに会わせてもらえねー自身あるぞ。」
「一人娘の彼氏に会わない親が何処に居るのよ?」
「いや・・・・そうでなくて・・・・・。」
俺は、榊崎の『裏の顔』を知っている。 なぜかって? 以前までは血生臭いトコロで生きてたんだぜ?裏の情報なら色々知ってるっつーの。
「・・・私が、変なヤツと結婚させられたら、貴方の事を一生怨んでやる。」
「・・・・・・・一般常識を知ってるヤツとは結婚できるんじゃねぇ?」
まさか、自分の娘を『裏の連中』にくれてやるような人物ではないだろう。 そう言う意味で言っただけなのに、こいつはヒールのある踵でおもいっきり、俺の足を踏みつけやがった。
「!!!!!!?」
声に出して悲鳴をあげられない。周りの目を気にしているからだ。
「さ、入りましょ。おかー様たちを待たせるのは嫌だわ。早く帰りたいし。」
何もなかったかのように、涼しい顔をしてスタスタ中に入っていく。 あーチクショウ、腹が立つ。 こんな所で、一人で突っ立っているのも怪しいので、俺も続いて中に入っていった。
「帰りてぇ・・・・・」
「まだ、ロビーじゃない。もう少し我慢してよ。一時間以内に終わらせるから。」
その場所を一言で表すならロビー、俺的に言うなら無駄に広い入り口。 俺のマンションの部屋、いったい何個はいるんだろーなー。投げ遣り気味に考えたくなる。
「一時間以内に終わらせると何か良い事があるのか?」
「上手くいけば、おとー様に会わなくてすむわ。」
なんか今、おかしい事コイツほざかなかったか?
「さっき、『一人娘の彼氏に会わない親が何処に居るのよ』とか言ってなかったか。」
「・・・・・・・小さい事は気にしない。用は、おにー様にお祝いの言葉を送ればいいのよ。」
一人で頷き、エレベーターに足早に向かう。 ・・・・・・思ったんだが、別にお祝いの言葉を送るなら、手紙とかでも良かったんじゃなかろうか。 まぁ、俺が口を出すような事ではないと思うから、敢えて言わないけれどもさ・・・。
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