「ねぇ・・・私のこと好き?」
「突然だな。」
いつものことだ、何ら変わりない風景。 俺がソファーに陣取り、コイツはカーペットの上に座っている。 丁度、コイツの顎が俺の膝に乗っかって、既にソコが指定席とされていた。
「私のこと嫌い?」
「嫌いなヤツとこんなにのんびり過ごしたりしねーよ。」
俺は新聞紙の三面記事を読みながら、答えた。 けれどアイツは「不満ー。」と頬を膨らましていた。 何だコイツ、お前は小学校にも上がらない、ガキかってんだ。
「ねぇ・・・・」
「あん?」
「もしも、私が突然居なくなったら、貴方はどうする?」
突然の質問。 こいつは唐突に仮定ををたててくる。 最初の頃は一々真面目に答えていたけど、最近は面倒になってきた。
「・・・・・・・・さぁ?」
答えをはぐらかすように、俺は答える。 実際、どう答えていいのか判らないってのが、本当だが。
「私が居なくなっても、貴方は平気?」
じっと、俺を見つめて答えを得ようとする。
「お前が居なくなっみないと判んねーよ。」
嘘は言ってない。 事実、コイツとはいつでも一緒だからだ。 いつの頃からか、俺たちが一緒に居る事が当り前になってきて お互いが離れるなど考えてもみなかったからだ。
「じゃぁさ。私が明日居なくなたとしたら、貴方は私のこと探してくれる?」
さっきと同じ、コイツは仮定ばかりをたてる。
「判んねーよ。何?お前どっかに行きたいのかよ。」
刺々しく言い放つ。 コノ言葉に暗に、他の男がいるのか?という意味合いも含ませて聞いた。 やべぇ、俺って、独占欲強いのかもナ・・・・・・ けれどコイツの答えは、「違うよ。」と、たった一言で返事をしてきた。
「実家にね・・・・帰って来いって、おとー様が仰るの。」
「へー・・・お前に親父なんていたんだな。初めて聞いたよ、家族の話。」
初めてだ。 互いに自分のことを話すなどなかったのだし。 俺は、堅気の世界でまっとうな人生を歩んでいないし、話す事も血生臭い事ばかりになってしまうし。 だから、唐突に家族の話をされて、正直俺は戸惑った。
「おとー様とおかー様が居なくちゃ、私は生まれてないわ。」
「ごもっとも、俺も両親が居なきゃ生まれてねーわ。」
動揺を悟られないように、勤めて平常心を保とうとする俺は 新聞の文字をただ眼で追って読んだ。無論内容など理解していない。 次に何の話をされるのかと内心びくついていた。
「それでね、おにー様が祝言を挙げるといっていたの。そのために呼ばれたのよ。」
「初耳の連続だな。いいんじゃねーの里帰りくらい。」
少しホッとした。一時帰るだけで、また戻ってくるのだと判ったからだ。 なんだ、俺コイツと離れるの嫌なんだ。 今更ながらに自分の鈍感さを恥じたいきになった。
「うん。別に帰ってもいいけれど、一人で行きたくないのよ。」
「・・・・・・俺に付いて行けと?」
「そう。私一人で帰ると、物凄く嫌な予感がするから。」
コイツの嫌な予感はカナリの確立で当たる。 そう。例えるならば、重力にそって、物が落ちるのと同じくらい・・・って、つまりは百発百中って事。
「一つ聞くが、お前の言う『嫌な予感』ってのは例えばどんな事だ?」
新聞紙の次の記事を眼で追うべく、ぺらりと音を立てて捲る。
「・・・・・・私も早く結婚しろとか。」
クシャリ
勢い余って、新聞紙が皺くちゃになった。
「・・・おい・・・俺を連れて行く理由は、まさか・・・・・」
「おとー様が決めた人と結婚はしたくないのよね・・・大抵が人相悪いし。」
その口ぶりだと、既に結婚云々は決定事項のようだ。 相手も用意されているらしい。しかも、以前にも在った事なのか 顔を顰めながら、「帰るのがユウウツになってきたわ・・・」等とほざく始末だ。
「お前は俺を連れて行きたいのか?」
「そう聞こえなかった?」
「遠まわしに仮定を使って、くどくどとしすぎなんだよ。」
「あら、それはそれは。不安にさせて御免なさい。」
にこりと笑って謝罪の言葉を言ってくる。 コイツ・・・・・いい性格をしてやがるな、まったく。 俺は、読みかけの新聞紙をたたんで、テーブルの下に放り投げた。 本当のトコロ、三面記事から次の記事は頭に入っていなかったし、読むだけ無駄と思ったからだ。
「不安じゃなくて、不快だ。不快。」
「付いてきてくれるの?」
にこにこと笑いながら、首をかしげて訪ねてくる。コイツ、絶対に確信犯だ。 俺が新聞紙を畳んだ時点で、答えは決まっている事を知っているだろうに。
「付いていかなくても、お前、無理矢理引っ張っていくだろう・・・」
「うん。貴方じゃないと意味無いから。」
ああ。 コイツのコノ笑顔に俺はどうやら弱いらしい。 今まで一緒にいたのに、そんな事にも気付かなかったなんて、本当に愚鈍だな、俺。
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