プルルルルル------------
古めかしい電話の音がたいして広くもない、けれど 殆どモノが置かれていない事務所には良く響いた。 その音のに反応し、むくりと色あせたソファーから、影が起き上がった。
「あー・・・ちょっと、誰か電話でろ。うるさいぃぃ・・・・」
男性特有の低い声で、何かの作業をしているもう一人の人物に話を振る。
「カエデ・・・アンタ、受け付け専門でしょうが。」
呆れを含ませて、カエデと呼ばれた男に言ったのは、小柄な少女だった。
「ヒイラギ・・・冷たい・・・。」
「ハッ!自分の仕事くらい自分でこなしな、馬鹿者めが。」
「うぁ・・・・」
カエデはやる気のない声をだし、未だ鳴り続ける電話へ向かって腕を伸ばした。
スカッ
カエデの手が虚しく虚空を切った。 視線を電話から上げれば、カエデの良く知った人物がたっていたのだ。
「あ・・・カラ「もしもし」
またしても、カエデの言葉は遮られた。 全身黒尽くめの青年によって、だ。
「コンニチハ。こちら『烏丸、テメェどういうつもりだ、あ”ぁ”!!?』事務所です。」
烏丸のセオリー通りの返事の途中に怒鳴りつけてきたのは 早乙女獅朔---ちとせの夫であり、倭とさくらの父たる人物。 烏丸は気分を害する事もなく、さらりと用件を聞いた。
「その、いかにも三流ヤクザが使いまわす台詞言ってるのって、早乙女さん?何の用?」
『三流ヤクザじゃねーよ!!』
「あ、そう。用件はなんですか?って言うか、もう編集部行きたくないんだけど。 そういう仕事なら僕以外の人行かせるから。あ、文句は聞けないよ、僕はこれから休暇だしね。」
『おま・・・お前、人の娘をたぶらかすな!!しかも、いつ俺の家に上がりこんだんだよ!!?』
「?だって、早乙女さん出張で捕まらないんだもの、お宅に仕事用の 資料ファイルその他諸々を届けただけだよ?怒られる筋合いはないね。」
『だったら、郵送があんだろ!?ってか、娘たぶらかした事は否定しねーのかっ!!?』
「あ・・・忘れてた。」
『・・・・・それは、どっちに対する言葉だ?』
「・・・・僕、時間外労働は嫌いなんだ。これから里帰りするんで、じゃ。」
『あ!?こら!ちょと、まて プツン
烏丸は強制的に電話を切った。 少しの間、受話器を戻そうか迷ったが、一つ頷いた後に受話器を戻し 電話回線を、引き抜いた。 そして、おもむろに左のポケットに入れてあった銀色の携帯を取り出し 暫らく操作をしていた。
「・・・何やてるのさ?」
不思議そうに、ソファーに座ったままのカエデが烏丸に聞いてきた。 「うん?」と携帯のディスプレイから顔を上げ、カエデに説明した。
「嫌がらせ対策?」
とっても、説明を省略して・・・・・。
「は?」
カエデには烏丸の意味がわからず、首をかしげている。
「ヒイラギ・・・カエデに説明ヨロシク。僕はそろそろ帰るね。」
「おう。休暇は、一週間だかんな。それ以上伸ばしたら、減給だ。」
「判った。ずる休みはしないよ。じゃぁね。」
簡単な挨拶の後、烏丸は事務所の扉を開けて外へ出て行った。 その足取りは、とても軽く見えた。 実際、烏丸は笑っていた、至極楽しんでいる、と言うように。
「結局、アイツは何してたんだ?回線引っこ抜いたら 仕事の電話とか掛かってきても判らないのに・・何してくれんだか・・ハァ。」
カエデは溜め息を一つ。 よこらしょっと、ジジくさい事をしながら立ち上がり 烏丸によって引っこ抜かれた電話回線を繋げ直した。
「早乙女はこっちの電話と、アイツの番号もしってるからな。 おおよそ、着信拒否ったんだろ。操作していたのはそれだろ。」
「へー・・・早乙女てのは、諦めが悪いのか?」
「昔は相当なヤツだったらしい・・・良くは知らないが。」
肩をすくめて言うヒイラギに、カエデは、「そんなもんか」と話題を切った。
早乙女 獅朔は叫んだ。
「チクショウ! 烏丸のヤツt着信拒否りやがった!!!」
その後暫らく、烏丸が勤める事務所の電話が鳴りつづけたのは言うまでもない。
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