鼻をつく匂いでセーバは目覚めた。 頭ははっきりしてこないし、背中の方も少しビキビキして痛い。 などと感じつつ、周りを見回し、ぴたりと視線が止まる。
「あ!起きました?」
気の抜けるような声を掛けてきたのは、他ならぬ自分が身を呈して庇ったレオトラードからだった。
「!!!!??」
一気に起き上がろうとしたセーバだったが、背を焼くような痛みに思わずベットに倒れた。
「あら・・・・無理しない方がいいですよ。傷口が塞がっているとは言え、安静にしていなければ。」
困ったように眉をハの字にし笑うレオトラードに、セーバは怒りを覚えた。 そして、怒鳴りつけた。
「何を考えているんですか!?あんな人外の人に殺されかけておいて!!!」
どれだけ心配したか、相手は悪魔より性質の悪いだとかきんきん声で言ってきた。
「人外は酷いと思うよ、彼も一応人間だし・・・でも良かった・・・・」
「いいわけないでしょう!!」
ぴしゃりと叱るセーバに、眼をしばたかせるレオトラード。 すると、突然レオトラードが笑い出した。
「ふふふふふ・・・・良かったです。だって・・・やっぱり治ったんですから。」
「何が良か・・・・・あ・・・・・」
「声・・・ソレが元の声なんですよね?」
レオトラードの言葉にはっと気付き、喉元に手を当てる。
「声・・・・元に戻ってる・・・・・・な・・・んで・・・?」
セーバの眸から大粒の涙が流れ落ちる。 ぽろぽろ。 段々顔が喜びに染まってくる。 レオトラードは「薬を少々。」といって、にこりと笑うばかり。
「・・・医者にいっても治らないって言われていたんですが・・・」
「ここの大陸の薬師はたいした事ないんですね、ふふふふ。」
大陸と言い切ったレオトラードにセーバは聞き返した。
「た・・・大陸!?大陸って、なんで・・・・」
「薬師 ツァルヴァーニス:レオトラード:アゲイジゲランとして、セーバ、アナタに安静を言い渡します。 暫らくは、過激な運動及び背中に負担を掛けぬよう心がけてくださいね。」
「!!?」
レオトラードの本名を聞き固まる。 わなわなと口を震わせ、珍獣を見るような視線でセーバはレオトラードを凝視した。
「ツァルヴァ・・・ツァルヴァーニス:レオトラード:アゲイジゲラン!?
秘境の大陸の薬師!!あの幻といわれ、伝説になてる大陸の!!? 秘境の大陸の薬師、特にツァルヴァーニス:レオトラード:アゲイジゲランが調合する 薬は正に奇跡!万能とも謳われている、あの!???
あの ツァルヴァーニス:レオトラード:アゲイジゲラン!!???貴方が!!!!????」
「そんなに大声で言わなくても聞こえますから・・・・って、ワタクシも有名になりましたねぇ・・・」 のほほんと返事をするレオトラードに、ぐいぐいとセーバはせまった。
「噂と違う・・・・身長は長く、相当なお年で武術にも秀でて、この大陸の 強豪達とも並ぶと言うう噂を聞いていたんですけど・・・・」
「長いって・・・・ワタクシは薬を自分で試す派ですから・・副作用で時々体が変形してしまうんですよ。 多少武術は心得ておかねば、旅先何かと不安がありますし、噂は所詮噂でしょう・・・・」
まさか、患者に変な者使う訳に行かないですから、とまたのほほんとのたまった。 セーバは口をぽかんと開けて、話を聞くしかできなかった。
こんこん。
「レオトラードさん、セーバはおきました・・・・おお!大丈夫かい、セーバ?」
「おや・・・リード、もう胸は平気ですか?」
にこやかに挨拶をして入ってきたのは、数時間前、白服をきた男に嬲られていた男、リードだ。 レオトラードに傷を治してもらい、元気にしている。
「はい。おかげ様で、何も心配はいりません!」
「2,3日は療養してくださいね。」
「はい。」
町は活気付いた。 領主の傍に控えていたのは、恐怖の存在ではなく一介の魔剣士にしか過ぎなく。 自分の容貌がレガリオンに酷似していたため、偽って甘い生活をしようとしたようだった。 領主においても、とある筋から手に入れたという蠢惑の妙薬で操っていたとの事。 勿論、レオトラードが解毒薬を調合し、数年ぶりの平和をこの土地に呼び戻したのだった。
事件も一段落がつきレオトラードは荷物をまとめていた。 なんやかんやで、この町に三日ほど滞在してしまったし、その間に病気の人を看たりと 何気なく忙しく立ち回っていた。 その間、セーバの家に滞在させて貰っていて、内心お金が浮いたなどと貧乏くさいことも思っていた。
「そういえば、誰かに会いにきたと言っていたのに・・・ 今更ながらこんな言い方は変だけど、こんなにのんびりしていていいの?」
何気なくセーバの言った事がレオトラードに突き刺さる。 ギギギギギときしみそうなくらい不自然な動き方で振り向くレオトラードに 思わず後ずさるセーバ。
「な・・・・・どうしたの・・・?」
「やっばいです!! 彼の出産に間に合いませんよっ!!? 」
きゃーといいながら急いで身支度を整える。 その合間にブツブツ、何かを言っているが、セーバにはさっぱり意味が理解できなかった。
そして、挨拶もそこそこに脱兎のごとくの勢いでこの町から去ってゆくのでした。
一人取り残されたセーバはふと疑問に思った・・・・・
「『彼』が出産???」
首を傾げつつも、まぁ、レオトラードだからと言う事で締めくくったのだ。 そして、今はもう見えない背中を見送るのだった。
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