町の大通りに悲痛な叫び声が広がる。
「俺たちは何もしちゃいない!!領主様だってご存知でしょう!!? 税も納め、領主様の希望どおりのことをしてきた!!なのに----」
ザシュッ
「っ--------!!!?」
今まで哀願していた男が、白服を着た男の足元に蹲る。 声にならぬ悲鳴が空気を振るわせ、町の中に伝わる。 すぐ傍には、子供を抱えた母親らしき人が涙を流しながら領主に哀願していた
「お願いです!あの人が、あの人を殺さないで!!」
子を抱えたまま領主にすがり付こうとする女性を、領主の傍に控えていた 護衛兵達が取り押さえる。
「領主よ、どうする殺してしまおうか・・・?」
男の声は至って冷たく、けれど男の目には狂気じみた快楽の色が映っていた。
「お、お前のす、す・・好きにす、する、がよ、よい。れ、れ、レガリオン・・・」
おどおどした口調で、領主は答えた。 その返事に満足したのか、レガリオンは口元を歪め銀色の剣を、蹲る男に刺そうとした。 女性はやめてくれと懸命に叫ぶ、ソレを護衛兵達は押さえつける。 領主は、どこか虚ろに目をキョロキョロさせ、落ち着きがなかった。
「コンニチワ、此方にレガリオンさん?がいらっしゃると聞いて来たのですが、いらっしゃいます?」
男に銀の剣を突き刺す寸前、気の抜けた声がレガリオンの耳に届いた。 声の主を振り返り見れば、小柄な少年がフードを目深く被っていた。
「・・・町のガキじゃないな・・・。何のようだ?」
足元のに蹲る男を蹴飛ばし、少年に向き直る。 手の中で銀の愛剣を弄び、未だ口元は歪めている。
「レガリオンさん?に会いに来たんです。何処にいるのかご存知ありませんか?」
一瞬の沈黙、そして領主を取り巻いていた護衛兵達がざわめいた。 否、護衛兵だけでなく領主や、今まで嬲られていた男、その家族に当たる女性までもが この少年は一体何を言っているのか判りかねていた。 目の前に居る人物が一体どうゆう存在なのか知らないのか?とでも言いたげな雰囲気が伝わってくる。
「お前の目の前にいるだろう・・・。」
ぴくりとレガリオンの体が揺れた。 レガリオンが不機嫌に眉を顰め言った、それと共に銀色の閃光が迸る。
「は?ワタクシの目の前に、どなたがいらっしゃると?」
「!?」
間の抜けた声で返事をし、レガリオンの攻撃をヒラリと交した。 周りに居たものは皆驚きのあまり声すらも出せない。
「もう一度聞きますよ。彼は何処に居るんですか?」
少年はフードをとりさり、自分と対峙している黒髪黒眼の白服を着た男に問いただした。 その眸は、淡い色合いを放つ静かなアイスブルーではなく、悲哀に満ちた色を映していた。
「な・・・貴様っ!貴様の眼はただの飾りか!!?このオレが---」
「彼は、他人を貴様と呼ばない。自分の存在を主張することなど、ない。」
男の言葉を遮り、淡々と言葉を紡ぐ少年。 悲哀に満ちた眼はレガリオンと名乗る男から反らされてはいない。
「このオレを偽者と呼ぶか・・・・フン。いい度胸だ、貴様から殺してやる。」
レガリオンが言うと同時に少年に向かって走り出す。両手には銀の剣が握られている。 距離的にはそれほど近くもないが、大人の足ならばすぐにでも縮められる距離だ。 誰もが、この少年は死ぬだろうと思い、その場から目を反らした。
「レオトラード!!」
皺枯れた声が少年の名を呼ぶ。 レオトラードの前に影ができる、と同時に肉の絶つ音も聞こえた。
「・・・・・・セーバ・・「っち。何だ?このガキは・・・・・邪魔だ。」
レオトラードが、先ほどお茶をご馳走になった人物の名を呼ぶけれど セーバの背中からは赤く温かい血がどくどく流れ出る。 それを見て、子を抱えた女性は悲鳴をあげた。 周りに居る護衛兵達は、悲鳴こそ出さずとも、声を喉に詰まらせていた。
「貴様は調子に乗りすぎた、死んでオレに詫びろ。」
レガリオンと名乗る男がレオトラードに向かって銀の剣を振り下ろす。 レオトラードは、セーバを抱え身動きが取れない
「調子に乗ってるのはアンタの方、だったんじゃないですか。」
------ように思われた。
ガキン!!
金属同士がぶつかり合う音が町中に木霊する。
「「「「な!!?」」」」
その場に居た者、また家の中から様子を覗っていた者からも同じような驚きの声がった。
「随分と驚いているようですね。やはり、アンタは偽者だ、三流の。」
静かに冷たくレオトラードは言い放つ。 セーバを片腕に抱きとめ、もう片方の手で銀色の剣を受け止めた。
「ば、・・・馬鹿な!手に何を仕込んでやがる!?」
慌てて飛びのく男は、レオトラードの眼には滑稽と映ったのかもしれない。 鼻先で笑い、羽織っていたマントをセーバに掛け、地面に寝かした。
「特に何も。あぁ、強いて言うなら、増強薬を服用しました。」
ほら、と言って先ほど剣を受け止めた方の手を上げて、周りに見えるように ぐっと、力を込める動作をした後に、自身の爪を伸ばした。 爪は一気に30pほど鋭く伸びた。
「ね?」
「ば・・・化け物・・・!?」
「失礼な! 第一に、この程度で化け物呼ばわりするなんて、アンタ本当に三流せすね。もう一つ。 本物のレガリオンならば、この程度の増強薬の効き目なんて関係ナシに ぶった切てますから、ええそれはもう、血も涙もなく無情鬼畜のごとく・・・ね。」
この程度という部分を強調させ言う。 関節を軽く鳴らし、男に向き直るレオトラード。
「覚悟はできていますよね。レガリオンの名を使っているんですから・・・」
「き、貴様は何ものなんだ!?」
「生憎と・・・・雑魚に名乗る名前は持ち合わせていないんです。」
にこりと微笑んだ後、レオトラードの姿は消えた。 次に、ダン!!と大きな音がした所を見れば、レオトラードが男を殴り倒した後だった。
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