「せ、セーバ!こ・・・コレはなんですか?」
突然部屋の奥に引きずられるように連れてこられたレオトラードは目をコレでもかと大きく見開く。 レオトラードの質問に対しセーバは汚らわしいものを吐き捨てるかの様に言った。
「ここら一帯の土地を国王陛下から賜っている領主のお出ましですよ。」
「は・・・はぁ?それだけで何故こんなに・・・?」
訳が判らないと首をかしげるレオトラードに、セーバは溜め息をついて話し始めた。
「レオトラードは旅人だから知らないかな? ココはね、国陛下にすら見捨てられてしまった土地なんです。
始めはここの領主様は ま と も だったんですけれど、数年前からおかしくなりだしたんです。 原因などは判りません。何かにとり憑かれたみたいに、いきなり叫んだと思ったら
『貴様は私を陥れるためにココに居るのだろう!?私の全てを奪わせはしない、殺してくれる!!』
といって、ある魔術師の家族を皆殺しにしてしまったんです。 けれど、彼らは領主に対して信頼と信用、そして友情を誓ったのに・・・・
それからなんです。定期的に起きる発作の様で、町の人々を殺していくんです。」
一息つくセーバを見て、レオトラードはまだ訳が判らないという顔をした。
「ならば、国王に直訴までは行かずとも、監視役の官吏が訪ねてきた時に訴えれば・・・ いえ、待ってください、国王に見捨てられた・・・・・って、どう言う事ですか?」
「この国・・・否。この大陸には、触れてはいけない存在があるのはご存知でしょう?」
目を伏せ、何処までも暗い声でセーバがポツリと呟く。
「・・・・ええ。一応は知ってるつもりです。有名な方々ですよね・・・他大陸まで知られてます。」
レオトラードもポツリと呟き返す。 頷くのを確認して、セーバはまた声を顰めてポツリポツリと呟く。
「偏屈な魔女ローラン ダルタニス国漆黒の守護者サイノシース 魔王の眷属エフェイスト:ドラゴン この大陸だけでなんでこうも恐ろしい存在が多いのか・・・でも、彼の存在たちは、ただの領主に 縛られる事などないでしょう?みな、誇りを掲げているのだから・・・・でも・・・最後の存在は・・・・・」
最後の存在・・・・そう呟かれ、レオトラードは、はっきりと確信した。 「まさか!?」と顔に驚きを貼り付けセーバを凝視した。
「・・・・この大陸の誰もが恐怖を抱く最後の存在は・・・ 大陸の白き覇者 レガリオン 気に入らない、自分の利益以外は何ものにも容赦等しない・・・人間じゃないわ・・・きっと・・」
呪いを吐くように、皺枯れている声を一層枯れさせ苦しくうめくセーバの背中をさすり 落ち着かせようとするレオトラード。
「話からすると・・・・コレは飽くまでもワタクシの憶測に過ぎませんけど・・・ その・・レガリオン:グィドディールが、領主の傍に控えている・・・と、おっしゃるんですか?」
こくりと頷くセーバに、レオトラードは言い知れな昏い靄が胸に広がっていくのを感じた。
レガリオン---この大陸において最強を誇る人間の男の名だ。 黒髪黒眼白い肌、そして白い服を纏い双剣を扱う剣士だ。 恐れられる由縁は、二十年前におきた、とある地方での出来事のことだ。 まだ子供といっても過言でないレガリオンがたったの一晩で五万もの兵士を皆殺しにしたのだ。 魔術を一切使用せず、二つの対を成す剣で挑みそして、勝利したのだ。 レガリオンは恐れられた。時が経つに連れ、成し得た事も偉業と言っていいものばかりだった。 ついには付いた異名が 大陸の白き覇者 大陸の無数に存在する国の王達とて、彼をぞんざいには扱えないのだ。
「その・・・本人が・・・居るところを・・セーバは御覧になりました・・・?」
「私は見ていないですよ・・・こんな無傷で平然と暮らしていません。 私の友人がその・・・見たといっていました・・・片腕を切り落とされましたが・・・ 黒髪に黒眼、白い肌に真っ白な服、両手には常に、銀の剣があるそうです。」
「・・・・・・辛いですか・・・・・」
セーバは力なく首を振るう。しかし、絶望に疲れきった表情が伺えた。 もしかしたら、こんな事の所為で、セーバの声が皺枯れてしまったのでは?とレオトラードは考えた。
「・・・・・」
セーバの元から音も立てずにレオトラードは離れ そしてふわりと包み込む様に、静かに微笑んだのだ。
「お茶、ごちそう様でした。とても美味しかったです。機会がありましたら また、ご馳走になりたいですよ。でも、今度はゆっくりと・・・・・ね?」
首を傾けながら、同意を求めてくるレオトラードにセーバは呆気に取られていた。 手を戸にかけ、出て行こうとするレオトラードに気付き、慌てて止めに入ろうとするセーバ。 しかし、やんわりと微笑まれたセーバはカクンと力が抜けるのを感じた。 そして、振り向きざまレオトラードは言った。
「大丈夫です。ちょっと、領主様のところに居るレガリオンさん?にお話してくるだけですから。」
もう、セーバには立ち尽くすことしかできなかった。
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