貨物船ファルコン号は剥き出しの巨岩を縫うようにゆっくり進んで行く。 侵食されたできた岩山が果てしなく続く荒野だ。 岩山の陰から双眼鏡でじっと眺める目があった。 双眼鏡をはずすと少女の瞳が現れた。美しい顔立ちには不釣合いな芯の強い、厳しい目をしている。迷彩服のジャケットの下にボリュームのある胸の膨らみが、呼吸に合わせて小さく揺れていた。 その隣で眼だし帽をかぶり双眼鏡を覗いていた男が言った。 「ミハル、来たぜ。ファルコン号に間違いない」 「よし、総員、作戦を開始する。配置につけ。みんな気を抜くなよ。相手は貨物船だが、武装した傭兵が乗っている。手強いぞ」 ミハルと呼ばれた少女は20人の覆面姿の盗賊たちに気合を入れた。 ミハルが手を上げると、それを合図に山賊たちは一斉にエアバイク2機とホバークラフト3機、コンバットロボ3機に分乗して、荒野に散らばって行った。 少女は「さて」と言いながら、ショートカットの髪にバンダナを鉢巻きにして、崖の上の岩陰に設置した長射程狙撃銃の銃座につき、ターゲットスコープを覗いた。 このセミ・オートマチック・ライフルは12.7mm×99弾薬という重機関銃と同じ強力な弾薬を使うことで、1000M以上離れた位置から、コックピット内のパイロットをガラス越しに狙撃できる強力なものだった。
カズマは船橋で見張りを手伝っていた。 両側にせり出すように岩山が迫る。 どこからでも狙われる可能性がある難所だ。 傭兵たちはすでに全員配置に着いていた。 その時、船の後部で鈍い音が響いた。すぐに警報が鳴り響く。 「船長、推力エンジンが被弾しました」 「オオコシ隊長、どうにかしてくれ」 「後ろから来たか」 オオコシ隊長が双眼鏡で必死に敵の姿を探している。 カズマはオオコシの隣に駆け寄り、敵の姿を捜した。 傭兵たちはそれぞれの配置で重機関銃やバズーカ砲を構えていた。 「推力、80%に低下いや、70%」 航海士が船長に報告した。船長はおどおど脂汗を流すばかりだ。、 「こんなところで止めたら、袋のネズミだ。なんとかならんか」 オオコシが窓の外を見ながら怒鳴った。 「40、30、20、10、エンジンストップ。落ちます」 船底が砂を噛み、逆Gが船体を軋ませた時、船橋では固定されていない書類や図書が激しく飛び、数人が計器や壁に身体を叩きつけられた。 「敵はどこから狙っている?」 オオコシがマイクに向かって叫ぶ。 すぐさま、甲板上の兵からインカムで次々に答えが戻ってくる。 「右舷の岩山から砲撃」 「左舷後方からも来ました」 「前方に敵影あり」 「なんだと、もう囲まれているのか」 オオコシは、レーダー員に聞いた。 「レーダーに反応は?」 「岩に干渉されてレーダーが使えません」 ブリッジの窓からカズマは懸命に策敵した。 その時、遥か遠くの岩山に微かな光を感じた。 咄嗟に「来る。伏せろ」と叫んだが、その声は炸裂音とガラスが飛び散る音に遮られた。
ミハルはスコープの中で、船橋の後部窓ガラスが飛び散るのを見た。 空の薬莢が自動的に排出され、次の弾薬が装填されたのを確認して、さらに船橋を狙いさらに引き金を引いた。 山賊たちは分散して岩陰に隠れ、断続的に機関銃で攻撃を繰り返しては逃げた。 傭兵達は敵影に向けて機関砲を撃ちまくったが、敵の弾はやまなかった。 「そろそろ敵の機動部隊が来るぞ」 オオコシが双眼鏡で敵兵を捜しながら怒鳴った。 「カズマ、白兵戦になる、頼んだぞ」 「了解」 カズマは敵の攻撃が緩んだとき、船橋を飛び出し船底に走った。 「武装ゲリラの機動部隊、来ます」 スピーカーが叫んだ。艫に配属された傭兵の声だ。 オオコシ隊長は船橋の後ろの窓から、後方にコンバットロボ3機とホバークラフト2機が迫ってくるのを確認した。 「敵が艫から接近、迎え撃て」 戦闘ホバークラフトが接近して機銃を乱射した。 同時に左右の崖から敵のコンバットロボ2機が甲板に飛び降りた。 「ひるむな。撃て、撃て」 オオコシはマイクに向かって怒鳴った。 傭兵たちはホバークラフトを銃座から重機関砲で狙ったが、まったくあたらない。 「腰が引けてやがる。弾丸をムダにしているだけだ。まったく、不甲斐ない奴らじゃ」 オオコシは階段を駆け下り、銃座で怯えながら乱射する傭兵をつまみ降ろした。 「どけ。対空砲火はこうやるんだ」 脇を銃弾が飛び交うがオオコシは気にもとめず、充分に引き寄せて狙い撃ちした。 ホバークラフトのエンジンが吹き飛び、コントロールを失った船は岩に激突して爆発した。 「次はどいつだ」 オオコシは自分を鼓舞するように怒鳴り、近づいてくるホバークラフトに狙いを定めた。 仲間を落とされた山賊は色めきたった。 一機のコンバットロボがファルコン号の後ろに回り、オオコシの座る銃座に向けてミサイル砲を放った。 オオコシが引き金に指を掛けたとき、ミサイルが銃座を囲う鋼鉄製の盾をを直撃した。オオコシは爆風で吹き飛ばされ壁に激しく叩きつけられた。指揮官を失い傭兵部隊は総崩れになった。 敵コンバットロボは易々と前甲板に着陸し、傭兵たちを制圧していった。 すぐに2機のコンバットロボがミサイル砲を後部甲板に向けた。 その下には燃料タンクがある。その気になれば船を燃やすというメッセージなのだ。もう1機は舳先から艦橋に向けて機銃を構えた。 「ファルコン号の乗員および乗客、そして武装部隊に告ぐ。武器を捨て投降せよ。さもなければ船を焼き払い、全員をこの場で射殺する。服従するならば白旗をマストに掲げろ。1分以内だ」 敵がハンドスピーカーで降服を促した。 船橋で震えていた船長は、甲板で血を流して倒れているオオオコシを見て、 「なんて役に立たない奴らだ」 と、怒りに震えていたが、敵の声を聞くとあきらめて船員に命じた。 「しかたがない投降しよう、白旗を上げろ」 ミハルは白旗を確認すると、エアバイクに乗った。 ミハルは白旗が上がるのを見るとエアバイクに跨り、ファルコン号の甲板に急降下した。 カズマは階段を降りる途中、敵に遭遇し銃撃戦に巻き込まれた。ようやく船底の武器庫にたどり着いたが、そこはすでに敵に占拠されていた。銃を向けられ、カズマは手を上げた。 乗務員は全員食堂に集められ、後ろ手に縛られ座らされた。 カズマが縛られて食堂に入っていくと、船長ら先に捕まった船員たちはがっかりして、ため息をついた。 「カズマ、おまえも捕まったのか、口ほどにもない」 船長は大声で罵った。カズマはそれには答えず、オオコシが頭から血を流しているのを見て駆け寄った。 「隊長、大丈夫か?」 「ああ、銃座で直撃をくらったが、かすり傷だ」 「被害は3人戦死。負傷は5人、あとは大したケガではない」 3人の覆面姿の盗賊が銃を構え、一人が次々に船内の金目の物をを奪っていった。盗賊達は略奪に夢中だった。 カズマは後ろ手に縛られた手の関節を外し縄を解いた。 「逆らわなければ命はとらない、おとなしくしていろ」 そう言いながら盗賊の頭が眼の前に来たとき、カズマは突然、飛び掛った。 二人はもつれながら倒れて転がった。 盗賊たちは銃を構えたものの、仲間に当たる恐れがあるため引き金を引くことができない。 盗賊は転がりながら、素早い膝蹴りや目潰しを繰り出してくる。 カズマの蹴りがみぞうちに決まり転倒した盗賊の上に馬乗りになり、顔面を殴りつける。 カズマは胸元を押さえつけ、覆面の上から連打しようとしたが、押さえつけた胸元が妙に柔らかいのに気が付いた。 「止めろ。止めないと撃つぞ」 銃を構えた男が怒鳴った。 カズマは素早く立ち上がり、盗賊を羽交い絞めにしながら、覆面を剥ぎ取った。 下から美しい少女の顔が現れた。 カズマに殴られ、唇が切れている。 「やはり女か」 カズマは一瞬、気勢を削がれ、押さえつけるカズマの腕の力が緩んだとき、少女は肘でカズマのみぞうちを抉った。 カズマが腹を押さえた時、顔面に膝うちを入れ、後頭部に肘うちを入れた。 その一撃でカズマは気を失い床に転がった。
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