翌日は、すでに10月となっていた。事件の知らせを受け、3日が過ぎたのだ。こんなにも、拘るとは、自分でも思っていなかった。部屋の窓を開け、空気の入れ換えをした。この部屋から見える景色は、一面ビル群、まさにコンクリートジャングルなのだ。 その連絡は、突然だった。新宿中央署の警部・夏目からだった。 「早くから申し訳ありません。どうしても貴方に連絡しなければならない内容だったもので」 「どういうことですか?」 俺は、咄嗟に訊き返した。 「実は、先程、渋谷署から連絡がありまして、アパートの一室から川上篤志という男の他殺体が発見されまして・・・」 「それで・・・?何か親父のことと関係があるのでしょうか」 「それなのですが、部屋を捜索したところ、宇佐美享一名義の預金通帳が、発見されたということなのです」 「ウサミキョウイチって、まさか」 「そうです。戸升さんがおっしゃっていた、例の暗号の解読結果の名前です」 受話器の向こう側にいる夏目の驚く顔が、目の前にハッキリと見える。 「それはつまり、親父と川上、それにウサミキョウイチという名前の男に関連があるということですか」 俺は、核心をわざと衝くような質問を投げかけた。 「まだハッキリと断定までは出来ませんが、その可能性は濃厚ですね。それともう一つ、これは大事なことですが、宇佐美享一名義の通帳の残高は、3000万円だったのです」 それを訊き、俺は次の言葉を出すのに手間取った。 「親父が、殺されたことにウサミが絡んでいるのは、間違いないのですね。つまり、川上の死も・・・」 「・・・ええ、宇佐美享一は、重要参考人ですからね。銀行に黒澤を向かわせて、宇佐美の現住所を調べます。詳しく分かれば、連絡します」 そう言うと、夏目は受話器を置いた。 一時間後、夏目から折り返しの電話が来た。 「先程銀行へ行って宇佐美の住所を訪ねましたが、其処はある会社の所有地でした。住所は、出鱈目だったのですよ。お父さんとの事件と薄くでも繋がりが見えてきました。近いうちに渋谷署との合同捜査本部が、置かれると思います」 「3000万円の出所も気になりますね。何か、事件性のある金かもしれません」 「そうですね」 夏目の返事は、何時になく簡素なものだったが、事件解決に向けての決意も垣間見えるようだった。 「私は、これから川上のアパートへ行って来ます。それでは、失礼します」 15年間で、何があったのだろう。親父と川上、ウサミの間に何があったのだろう・・・。
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