「お早いお着きですね」 背後で、聞き覚えのある声がした。振り返ってみると夏目と黒澤が立っていた。 「このあいだは、どうも」 夏目が梶に挨拶した。黒澤も会釈する。 「実は、此方の方、亡くなられた被害者の戸升宗一さんの息子さんでして・・・」 夏目は、俺があえて名乗らなかった身分を梶と一色に説明した。 2人の表情が強張った。 「息子といっても、15年も会っていなかったのですよ」 慌てて、俺は弁解するような説明を付け加えた。 「殺害現場の部屋をもう一度見せて貰えますか」 黒澤が訊いた。 梶と一色は、顔を見合わせて頷いた。 「わかりました。お待ちください。今、お部屋のキーをお持ちします」 一色が、フロントへ走り去った。暫くして、キーを持った一色が戻ってきた。 「どうぞ、こちらへ」 梶が、案内するように、エレベーターへ向かい、俺と夏目、黒澤の3人は後に続いた。 エレベーターが、停止したのは5階だった。その廊下をずっと、歩いた先にある520号室が、その部屋のようだ。部屋の前には、まだ立ち入り禁止の黄色いテープが、張られている。それをくぐりぬけ、中へ進んだ。ごく、一般的なビジネスホテルの部屋と、何ら変わりない部屋のようだ。ベッドが、2つ並んでいる。2人部屋のようだ。その窓際のベッドの上で親父は、死んでいた。痕跡は、一切ない。警察が、証拠となりえる物は、全て持ち出している。だとすれば、此処に来ても新たな発見などある筈無いのだ。 俺は、窓の方へ歩み寄った。其処から、外の景色を眺めてみる。東京タワーも見ることが出来る。 「ダブルの部屋ということは、誰かが来た可能性もありますね」 俺は、確かめるように、夏目に訊いた。 夏目は、考えが既に纏まっていたのか、顎をさすりながらすかさず答えた。 「そうですね。我々もその可能性も視野に入れて捜査中です」 俺は、例の暗号で分かったことを夏目に告げた。 「気付いたのですが、手帳のアルファベットと数字で書かれた暗号のようなもの、五十音だったのですよ。『ウサミキョウイチ』となるのですが、親父の身辺でそのような名前の人物は浮かび上がっていませんか?」 「今のところはそのような名前は出てきていません」 夏目は、腕時計を覗き込み時間を確認すると歩きだした。 「村月さんとの約束の時間です。そろそろ行きましょうか」 夏目は、俺と黒澤を促すように部屋を後にした。当たり前のことだろうが、新たな手掛かりなどそう易々と発見できるものではない。 村月玲子のいる、「ミーナ」というストリップ劇場は、ホテルを出て徒歩で僅かに5分という近さだった。
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