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堕天使の街 作者:yasu

最終回   エピローグ
この数日間に様々なことが起こり過ぎていた。親父が無言の状態で俺の処へ帰って来たのが全ての始まりだったのだ。
 俺は、母と親父の三人で暮らしていたこの町に15年ぶりに帰って来た。海が好きだった母の墓は、海風が感じられ、海を眺められる小高い丘の上の霊園にある。親父を母と同じ墓に埋葬するべきか俺は正直答えを出すことができなかった。
「お袋は本当に喜んでいるのかな」 
 俺は、隣にいる梓に訊いた。
「ええ、お父さんがお母さんのことを愛していたことは真実だったのよ。お母さんもきっと喜んでいるわ」
 梓が線香に火を点けて言った。
「そうか、それなら良いかな」
 俺は、梓から花を受け取り、墓の前へ置いた。
「親父お帰り・・・」
 自分でもこんなに正直な気持ちは初めてかのしれない、と思った。海風が気持ちよかった。
「此処に残るの。思い出の町に」
 梓が言った。
 俺は、直ぐにその答えを出した。
「いや、ここには思い出しか残っていない。俺の居るべき場所は、今は新宿だけだ。俺の帰れる場所は」
 俺は、梓を抱き締め口付けをした。
「帰ろうか、俺たちの街へ」
 俺は、梓と歩き始めた。また、近いうちに来るからな。父さん、母さん。全てを許せる気持ちは出て来ない。だが、これでよかったと自分に言い聞かせるような気持ちだった。
 新聞やテレビのニュースが、倉庫の事件を取り沙汰することはなかった。風見が何らかの圧力を掛けたことは直ぐにわかる。倉庫には、死体が一体だけ。海崎のものだ。警察は、桑原を重要参考人として連行したが、正当防衛が認められるだろう。銃刀法違反により、武本と永峰、大柄な男と茶髪の男が逮捕された。三つの殺人は、実行犯の海崎要一が亡くなったため、被疑者死亡で書類送検された。俺たちは、警察到着前に桑原の指示で埠頭を後にしていた。勿論、一切の痕跡を桑原が消すことになっていた。
 かつて、「喫茶エルム」があった場所は今では、「空き店舗・募集」の張り紙が出されている。玲子は、ストリッパーを引退し、「太陽学園」で正式に働き始めたという。結局、小峰さおりとの関係は、教えて貰っていない。弦太は、桑原と風見と組を手助けするようにと言われていた。
 今、俺の隣には梓がいる。たった一度の関係だという俺の予想は見事に外れた。生まれて初めてかも知れない。隣に愛する女がいる喜びを感じているのは。

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Novel Editor