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堕天使の街 作者:yasu

第24回   24
 俺は、知ってはならない余計なことに首を突っ込んでしまったのか。あの二人が言ったように。
「武本が新千歳空港から、東京行きの飛行機に乗ったらしいとの情報が」
 黒澤が言った。
 武本が東京へ・・・。目的は一体何なのだろう。
 俺は、夏目と黒澤そして、久遠にも礼を言い梓の探偵事務所へ向かった。相変わらず、床屋の回転塔は廻っているが、階段を上り、事務所に近づくと何か嫌な予感がした。ノックをして、中に入ろうとした。鍵は、閉まっていない。中には、誰もいなかった。整然と積み上げられていた本が、床に散らばっていることに不安を覚えた。直感的なものが働いた。次に俺の足が向いたのは当然のように梓の自宅であるマンションだった。五階建てマンションの最上階、一番奥の部屋であり、非常階段から近く、エレベーターからは遠い位置にある510号室が其の部屋になる。鍵は閉まっている。呼び鈴を鳴らし、何度もノックしたが、梓の返事どころか彼女が中にいる気配すら感じ取ることが出来なかった。
 暫く考えた挙句、もう一度事務所へ戻り手掛かりを探すことが賢明だと思った。隅々までどんな小さなことでも良い、そう思い探し続けたが結局何も出なかった。
 自宅へ戻ると、差出人不明の封筒がポストに挟まっていた。部屋へ入り、中を確認するとポラロイドで撮られた梓が監禁されている姿の写真と手紙が入っていた。

 『余計なことに首を突っ込むから、君の大切な女を預かった
 今夜9時、東京臨海埠頭 七番倉庫で待っている』

簡単な文面だった。しかし、はっきりしたことは梓が誘拐されてしまったことだけ。犯人は、親父たちを殺したのと同一人物か。俺は、全く何の関係もなかった一人の女を巻き込み、危険な目に遭わせてしまった。
 武器が、必要になる。このことを知らせれば、それだけ巻き込まれる人々が増えてしまうが、頼めるのはあの男だけなのだ。
至急、風見に連絡を入れると、
「心配いらない」
 と言ってくれた。
 ふと、もう一つの不安が浮かんだ。玲子は・・・。犯人が親父を殺したのと同一人物ならば、目撃者をただで居させる訳がない。彼女の行方を知る必要があった。夏目に頼み込み行方を捜してもらうことにした。ただし、梓が誘拐されたことなど話せないのだが。
「今日は仕事の日だそうですが、まだ来てないそうです。今、うちの若い者が彼女のマンションへ向かっています」
 夏目の言葉に、俺の不安は一段階上昇する思いだった。
 現実になって欲しくなかった。しかし、刻一刻と約束の時間は近づく。時計は、すでに7時を迎えていた。あと、2時間後。
 弦太が、俺の元へ約束の“もの”を届けに来た。「S&W 40F SIGMA」ともう一つ「H&K USP H.W.」の二つを机に並べた。前者が14連発、後者が25連発。どちらも小柄な銃だが威力は俺でもある程度は知っていた。
「何故、二丁も」
 俺は、弦太に訊いた。
「お前の分と俺の分だ」
 弦太の言葉に耳を疑った。
「関係ないお前を死なせるわけには」 
 俺がそう言いかけると弦太が、
「俺はプロだぞ。しかもお前の親友だと思っている。そう思っているのは俺の独り善がりじゃあないだろ。だから、ついて行く」
 と言った。
 俺は何も言わずに頷くだけだった。腰にホルスターを下げ、40Fを差し込んだ。弦太ももう一つのH&Kを腰に付けたホルスターに仕舞い込んだ。
 

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Novel Editor