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堕天使の街 作者:yasu

第22回   22
「見てください。海崎要一の写真です。そして、此方が宇佐美享一です」
 夏目が差し出した二枚の写真に写る男は、確かに間違いなく同一人物と言えた。夏目の話では、例の通帳を作った男は、宇佐美、いや海崎だったと言う。8年前の事件で奪った金を宇佐美という偽名で通帳を作り、その中に入れた。奪われたのは、合計で5000万円という大金であり、犯人グループが五人いたことから、一人1000万円の分け前があったことになる。親父は、かなりの額の借金があったというから、その1000万円で借金を清算しようと仲間に加わったのだろう。では、あの3000万円はどうなるのか。親父と篠崎温子が2000万円を取ったとして、川上と柴田はほとぼりが冷めるまで、などと海崎に言われ預けたのかもしれない。
「海崎の身体的な特徴のようなものってなにかありますかね」
 俺は、夏目に訊いた。
「そうですね、確か首の後ろに火傷の痕があったと、聞いています」
 夏目が答えた。
「海崎は、強盗事件の更に7年前、つまり今から15年前に傷害事件を起こしたとおっしゃっていましたが、その時海崎は、実刑を受けましたか」
 俺は、ふと浮かんだ質問をぶつけてみた。
「そうですね。資料では、懲役3年の実刑判決を受けていますね」
 黒澤が答えた。続けて、
「何故、そんなことを」
 と、夏目が言った。
「8年前の強盗事件が今回の事件に密接に関わっていることは、疑う余地はないと思います。そこで、五人が何処で出会ったか、と言う問題になるのですが、親父と篠崎は15年前からの関係ですが、柴田と川上についてはもしかすると海崎が服役中に知り合ったのではないかと考えまして」
 俺は、自分の考えを説明した。
「確かにその可能性は大きいと思うわ」
 梓が言った。
「調べさせましょう」
 夏目に指示された黒澤は、携帯電話を取り出し署へと連絡を入れた。
「そうだ、川上か柴田どちらか一人でも服役していた事実があったか知りたい。時期は、12年前、その前後だ。よろしくたのむ」
 黒澤は、電話を切ると、
「折り返し連絡するそうです」
 と、言った。
 15年前、海崎要一は新宿の路上で、喧嘩騒動を起こし二人を全治1ヶ月程の怪我を負わせた。その後、東京地裁で懲役3年の実刑判決を受けていた。海崎が服役していたのは、北関東刑務所だった。もしかすると、川上と柴田二人、もしくはどちらか一人が同じ北関東刑務所に服役していた可能性はあるだろう。
 俺は、返ってくる結果が少しながら不安だった。もし、そのような事実がなければ今回の殺人事件に繋がる何かが消えてしまうかもしれないと思ったからだ。煙草を取り出し銜え、火を点けようとしたのだが、風が強くなってきたためかマッチの火が直ぐに消えてしまった。どうにもならずにいると、
「どうぞ」
 と、夏目がライターを差し出した。俺は、礼を言い、火を点けると、夏目も煙草に火を点けていた
俺が、煙を吐き一息つくと丁度黒澤の懐から音が流れてきた。黒澤が電話に出て、暫く会話が続きやがて、
「間違いないのか」
 という黒澤の声が聞こえた。
「警部、川上篤志が12年前に北関東刑務所に服役していたという記録が発見されました。それだけではなく、同じ雑居房に入っていました。二人は、刑務所内で出会っていたようです」
 黒澤は電話の内容を報告すると、電話を夏目に渡した。夏目は、短く電話の相手に何か言い、また黒澤に渡した。
「送りますよ」
 夏目が、俺と梓を見て言った。
「ありがとうございます」
 俺は、梓の返事を聞くこともないまま、セダンの後ろの席へ乗り込んだ。梓も後に続いた。夏目が助手席に乗り、黒沢は運転席の方へ廻りこんだ。
 俺は、外の景色が流れていくのを見ながら、事件を思い返していた。真実に一歩ずつながらも確実に近づいているのだ。
「此処でけっこうですよ。ありがとうございました」
 俺は、歌舞伎町の入り口に程近い交差点付近で降ろしてもらうことにした。
 夏目と黒澤が軽く会釈したので、俺もそれに答えるとセダンは、走り去って行った
「近くに喫茶店がある。寄っていってもいいかな」
 俺は梓に訊いた。
「ええ、どうぞ」
 考える間もなく、梓から返事が返ってきた。

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