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堕天使の街 作者:yasu

第19回   19
 5月24日 金曜日。
午後4時42分。
神奈川県横浜市 港区 東部銀行港支店

閉店となる午後5時まで、僅かに18分前のことである。覆面をした、五人組が拳銃で武装し、突然押し入った。店内には、従業員、客を合わせて17名がいた。リーダー的な存在と思われる男が、カウンターへ向かい二つのボストンバッグを差し出し、金を詰めるように要求した。もう一人が、支店長以外の行員が下手な動きをしないようにライフルで常に狙い、残りの三人は、人質を隅に集まるように指示した。
支店長が、金を詰めるようにと、女子工員に指示し、彼女は、ボストンバッグ一つにつき、2500万円、合計5000万円を詰めた。その隙に支店長は、非常ボタンのスイッチに手を伸ばそうとしたが、それに気付いた一人が発砲し、支店長は肩を撃たれてしまった。リーダーが、人質の見張り役となっていた仲間にボストンバッグを運ぶように指示した。
一味の一人が、母に連れられて銀行に来ていた女の子が泣いていたために、何やら話しかけたが、それに気づいたリーダーはその仲間を殴り倒してしまった。殴られたのは、女のようで、その女の恋人と思われる男が彼女を抱き起こし、リーダー格の男に文句を言おうとしたが、女に止められた。ライフルを持っていた男が監視カメラに向かい発砲し、全てを壊すと店の前に止めてあった白のバンに乗り込み走り去った。
犯行を終えるまでに掛かったのは僅かに10分。少々のトラブルはあったものの、見事と言える犯行であった。恐らく、何度もシュミレーションしてのことだろう。
犯行の途中で、リーダーの男が、「ウミサキ」と呼ばれていたという人質の証言から、この事件より更に7年前に起きた傷害事件の男「海崎要一」が、浮かび上がった。犯人一味に女が居たというのは、僅かだが、犯人の一人から化粧品の匂いがしたという証言からだった。
横浜署の警官が現場に到着したのは、犯人が逃亡してから15分後の6時7分のことだった。横浜署では、直ぐに検問を引いたが犯行に使われた白いバンが捕まることはなかった。翌日、現場となった銀行から、東へ3キロ程進んだ自動車修理工場に犯行に使われたと思われる白のバンが隠してあった。
 しかし、手掛かりは残っておらず、指紋すら綺麗に拭き取られていた。
 当初警察は、犯行があまりにも手際良かったため、内部に仲間がいるのではとも疑っていたようだが、銀行員、客の中にそれらしい人物を見つけることは出来なかった。唯一の手掛かりは、「海崎要一」という男だったため、神奈川県警は、この男を全国指名手配することに決定した。他の四人についても、警察は海崎の身辺からそれらしい人物を探し出そうとしたが、それが誰であったのか結局判明することはなかった。

 8年前の強盗事件の資料に一通り目を通し終えた俺は、机にその資料を置き煙草に火を点けた。煙草の煙が上へ上へと昇っていくのをじっと見つめていた。男と女、恐らくこの二人が親父と篠崎温子なのだろう。そして、残る二人が柴田と川上なのだ。篠崎と親父、宇佐美のいや、海崎と呼ぶべきか、この男の三人については関係が判っている。札幌で知り合ったのだろう。では、川上と柴田はどういう関係でこの犯行グループに加わったのか。少し考えたが、答えは出ない。桑原の情報網に頼ることになるのだろう。
 俺は、ソファーに倒れこむとそのまま深い眠りに落ちていった。明日は、篠崎温子が入院生活を送っているという病院を訪ねようと思った。ただ、篠崎と会ったからといって親父たちが殺された事件の手掛かりに繋がる何かが掴めるという、確かな思いがあるわけではなかった。今夜は、天気が良く星が空に浮かぶのが良く見えた。

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Novel Editor