俺たちは、JAL1030、新千歳5時45分発の飛行機で東京へ帰ることを決定した。羽田空港に到着したのは、7時15分だった。今日は、もう遅い、と思いタクシーを拾い帰路に着いた。途中、梓を彼女のマンションの前で降ろし、俺はいつものように「エルム」に向かった。梓は、「少し寄って行けば」と誘ったが、俺は、それを断った。梓を面倒なことに巻き込んだことを悔やんでいた。 この時俺は、まだ札幌へ行ったことがどれ程の意味があるのか判らなかった。あの、駐車場で会った男が深い関係を持っていたことも・・・。 エルムには、珍しく風見竜哉が来ていた。店の前には、真紅のフェラーリが止められている。それだけで、直ぐ判った。 普段はおとなしく、言われなければとても新宿を牛耳るという存在の「風見組」三代目には見えない。が、やはり血を引き継いでいるために彼を怒らせることほどこの街に暮らす者にとって恐怖なことはないのだ。髪はきっちり整えられて、着ているスーツもイタリア製の最高級品だ。顔の輪郭もすっきりしている。目は、切れ長で、鼻立ちはすっきりした印象が持てる。 「東京の清仁会病院」 俺の顔を見たとたん風見が口を開いた。風見の隣には、弦太の姿がある。 「何のことですか」 俺が、風見に訊くと、 「篠崎温子の入院先ですよ。桑原さんが言っていたでしょう。入院で、車椅子の生活だと」 と、答えた。 「それを知らせるためにわざわざ」 市井が驚いて言った。 「まあ、そうですかね。あなたが戻ると聞いてね」 自分の縄張りで、殺人がそれも知り合いの身内が殺されたことへのいらつきから出た言葉なのだろうか。 「横浜の東部銀行港支店の事件の資料です」 風見が俺に分厚い資料を手渡した。何故、彼がこの資料を手に入れることができたのか不思議だったが、俺は訊くのをやめた。
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