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堕天使の街 作者:yasu

第16回   16
 地下二階、地上六階のビル全てが、駐車場という形態がとられている。一階から三階までの部分がベージュの外壁になっており、四階から六階までの白い外壁より新しさが目立つのは、恐らくこの部分が改装されたためだろう。丁度、交差点の角に立っているため、入り口が南向きに、出口が東向きに設置されている。ここから、スロープ式で車両が上り下りすることになる。入り口部分、出口部分それぞれに駐車券によって上下するバーと警備員室がある。24時間の駐車が可能であり、「1時間500円、次の30分から200円」と表示されている。警備員は0時までは駐在するがその後は出入り口を開放したまま、帰宅することになっている。
 この建物は、俺たちが宿泊したホテルから徒歩で、25分程の距離の場所にある。立地は、深夜でも人通りが少なくなることはない大きな通りから一本道路を入った場所が其処だ。
 俺には、疑問が残っていた。殺害された柴田の死亡推定時刻は、深夜3時30分頃。そんな時間に、何故、柴田は現場となったこの駐車場へ来たのか。誰か、顔見知りの者による呼び出しがなければ、来ないはずである。それに、所持していた麻薬「ヘヴン」のことも気になった。犯人が、親父たちを殺したのと同一犯ならば、暴力団同士の抗争に見せかけようと、何処かで手に入れた「ヘヴン」を残したのだろう。そう見るのが正しいだろうが、親父たちが「ヘヴン」に関係していないとは断定できないのも真実だ。
 現場の駐車場ビルの前に立ち、暫く考えていた。隣の梓に目をやると、同じようにビルを眺めていた。
俺たちは中に入ることにした。通常は、駐車した車両の持ち主が使用するエレベーターに乗り込み、殺害現場である地下へ向かうため、B1のスイッチを押した。このエレベーターは、南側、東側に一基ずつ設置されており、俺たちは、東側のものを使用した。此方の物は警備員の目からも離れているため、部外者でも使用することは容易だった。俺たちは、エレベーターを降りた時に一人の男とすれ違ったが、気にする必要は無い、と判断しそのまま進んだ。直ぐ近くに、黒い高級車BMWが見えた。
地下一階は、約2メートル間隔に蛍光灯が四本一組というかたちで設置されているが、然程明るくはなかった。暫く歩いていくと、一番奥が殺害現場だと知った。その周りには、一切駐車車両はなく、そこから離れた場所に駐車が集中していた。
殺害の現場となったその場所の真上の蛍光灯は、切れかかりチカチカと光っていた。その近くの柱には、「B1−55」と書かれていた。血痕と、銃弾の後が残っている。そこまで、ゆっくりと近づきしゃがみ込んだ。後から梓もついて来ていた。
突然、肩をつかまれ男の声が背後でした。振り向くと一人の男が立っていた。見たことのない男だ。

振り返った俺の目の前にいた男は、鋭い眼光で睨みつけていた。髪は、短く整えている痩せ型の男が立っていた。きちんとした身なりでスーツを着用しているが、ネクタイを緩めている。
「おい、貴様此処で何をしている」
 男が突然、俺に向かって訊いてきた。
「別に何もしていませんよ」
 俺は、男の言葉をかわそうとしたが、無理だったようだ。
「何もしていないだと。此処で人が殺されたことを知っているから、現場を見に来たのだろう。何者だ」
 そう言いながら、男の手は俺の胸ぐらを掴んで引き寄せた。梓も何が起こったのか理解出来ないという表情を浮かべている。
 「警察だ。訊きたいことがある。署まで来てもらおう」
 男は、スーツの内ポケットから警察手帳を見せ付けた。どうやら、任意同行など、関係なく否応なしの連行のようだ。刑事は、梓にも一緒に来るようにと命じた。

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Novel Editor