翌朝は、8時頃に外線電話の音で、目を覚ました。隣を見ると梓の姿はなく、昨夜と同じようにシャワーの音が聞こえていた。電話の相手は、桑原だった。昨日俺が、頼んでいたことの報告の電話だった。 「間違いないのですね」 桑原からの報告は、耳を疑うものだった。 「ああ、確かだ」 桑原が、言った。受話器を置くと、丁度バスルームから梓が出て来た。 「残念ながら、ここじゃあ、あまり成果は挙げられなかったな」 着替えをする梓を意識しながら俺は言った。 「ええ、残念だったわね。例の柴田って男が殺された現場見に行きましょうか」 下着姿の梓が、此方を振り返って言った。 俺は、頷き、シャワーを浴びるためバスルームに入った。熱いシャワーを浴びながら、子どもの頃、親父と一緒に風呂に入った記憶が一瞬過ぎってきた。目を瞑り、全身の汗を全て流した。 柴田朋宏の遺体が発見されたのは、すすきのにある雑居ビルの地下駐車場だった。殺されたのは、深夜だったために、警備員などはいなく、そのため目撃者もいなかった。新聞の記事やテレビニュースの報道によると、凶器は拳銃であり、額を一発で打ち抜かれていたという。どのような、種類の銃が使われたか、については詳しくは判明しておらず、未だに捜査中ということだ。 もし、俺を東京と横浜で尾行していた男たちと柴田殺しに何らかの関係があったとしたら、使われた拳銃がM36という可能性もある。 しかし、だからと言って使用されたものがM36だとしても、俺を襲った男たちに関連が必ずある、とも言えない。 俺は、着替えをしながら窓の外に目を移した。すると昨夜の雨が未だに降り続いていた。時間は、8時45分となっていた。一階にある、レストランでバイキング形式の朝食をとることにし、梓と共に部屋を出た。梓は、レストランの入り口から離れた席に着いた。俺は、軽く済ませようと、ハムエッグとトーストを手に取った。席に戻ると、梓は、食パンにトマト、レタス、ハム、卵などを持ってきており、それを重ね合わせサンドウィッチにしていた。周りを見渡すとちらほら人が増え始めていた。スーツを着た男たちが多いのは、出張中のサラリーマンだろう。 チェックアウトを済ませ、俺と梓は、柴田殺害の現場になったすすきのにある駐車場へ向かうことにした。外の雨は、それ程強くはなかったため、傘は差さずにそのままの格好で歩くことにしたが、少し肌寒さを感じた。
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