オレは今年のセンター試験で落っこちて、予備校へ行く羽目になった。 正直イイ事なんて一つも予想してなかった。
その予想はピッタンコで、頭悪いなみたいな目で、年下のヤツらに見られる。
そんななか、途中から、かわいい女の子が入ってきた。 見た目はチャラチャラした、いかにも現代風な女の子で、彼女も浪人組だった。
彼女と話すうち、彼女の人生は波乱に満ちたことが分かった。 家庭はままならぬ状態で、男に騙された事もあったと言う。
「だから、あたし男の人怖くって」
彼女は優しくて、まっすぐで、見かけによらず真面目で、明るくて、誰とでも仲良く出来て、強くて、かわいくて……。
いつのまにか、オレは彼女のことが好きになっていた。 どう考えても、彼女は美形で、オレなんかと釣り合うわけがなかった。 他の人も、彼女に惚れている人はいた。
でも
多分
多分だけど
「うぬぼれ」とかじゃなく
彼女もオレに惹かれていたと思う。
お互いに想っていても、どうしても越えられない壁があった。 ここは予備校だ。恋をするところじゃない。それに、一年でお互い受かってしまえば、それぞれバラバラに進む。一緒に居たいと言うことは、落ちろと言っているようなものだ。
その壁が、オレにあと一歩踏み出す勇気をくれなかった。
受験が近づいてきたとき、彼女は言った。
「ねぇ……映画、みよっか」
コレまでもデートはしてきたけど、彼女の弱そうな発言に、予備校の限界を感じた気がした。
「いいね、行こう」
予備校を抜け出した。雨が降ってて、傘を差して一緒に歩いた。 何観ようか、とか明るい話が先行した。
「怖いのはやめようね!あたしムリだから!!」 「もしかして、怖いシーンだと抜け出しちゃう?」 「そうそう、友達からやめろって言われてるんだけどねぇ〜」
昔、であったばかりの頃、「オレは子供のころから運がなくて、車に3回ぶつけられたんだ」と話したことがあった。 それが原因で、今も車恐怖症だ。笑い話にしてた。
でも、確実に青信号をわたっていた時。傘が視界を邪魔してて、よく見えなかった。
「キャアアァア!!」
彼女が、俺の手を握った。引っ張った。
「え?」
左を見ると、曲がってきた車が数十センチの所で止まっていた。
「どこ見てんだ、バカヤロー」
彼女が、遠く通り過ぎていく車に叫び、石ころをけった。 その姿は、怒っていると言うよりオレを守っているように見えた。
その後も、車がフっと動くたびに、彼女はオレの手を握った。 まるで男女が逆転したみたいで、おかしくなってきた。
映画を観てしばらくたった。 話も佳境、感動のシーン。
彼女は泣いていた。
初めてだった。
明るくて、強くて、やさしい彼女が涙を流すところを見たのは。 その涙は、映画の涙?お別れの涙?
と、問う勇気もなく、感動のシーンを、感動の現実を、オレも涙に乗せた。
お互いに合格して、別々の道に進んだ。
会いたくてどうしようもない時に限って、彼女から電話が着たりする。
もう、離したくないよ。次会うときは、もう壁はないよ、ね?
そうだ
また映画みよっか。
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