雨だ。また、また雨と言ったほうがいい。 ボクが外を見つめるといつも太陽が隠れ、外を歩けば風が吹き、くじを引けば外れ、走れば転び、というかプラスがボクの体には存在しない。
高校二年生なんだ、それらしくしてろ、って親に投げつけられた言葉に愛を感じない。 テキトーに買い与えた携帯電話は、これこそまさに『猫に真珠』だ。
周りにはいい人ばかりで、仲良く接してくれる。学校は人付き合いを学ぶには最高だ、という意味が分かる。 それがボクには邪魔なだけだ。 心のどこかで、「真柴昇平」と言う自分を演じなければならない。 友達は何人もいる。よく遊んだ。 昔は携帯がないと生きていけないなんて思ってた。
遊ぶ約束を変更するとき、携帯なしじゃ絶対パニクるし、メールだって絶対必要。 肌身離さず持っていた携帯、今じゃ圧力をかけられる。
「今日も学校へ行かないのかい、いい加減にしなさい」 また母親が言う。ボクは朝が嫌で、学校へ向かう足なんてなきゃいいって思う。 布団から出た時点で『その日』は始まり、学校へ行って、また仮面を付けなきゃいけない。 それが、おっくうに感じたのはいつからだったか。 ボクは布団にうずくまり、どうでもいい過去を思い返した。
高校一年、佐々木というヤツが後ろの席に座っていた。携帯持ってる?と話しかけてきた。 持ってるよ、と言うと羨ましがり、オレまだ買ってもらえなくて、と言っていた。 晴れた空が佐々木にあっていた印象がある。佐々木のその一言は、ボクの自慢の心をくすぐった。人に羨ましがられている。携帯ってスゴイな、と。
電話帳にはクラスの友達の大半が載った。 ボクはソレを見て、RPGの主人公になった気持ちだった。
部活に入り、先輩が出来てからだった。メールを返す一字一句に神経をめぐらし、誘いを断ればいやな目で見られ、時たま送られてくる雑務をこなさなければならない。 その日からだ、間違いない。佐々木と一緒に入った部活に、晴れの日はなくなった。
携帯がうっとうしい。着信音が鳴るたびに、嫌な緊張が無意識に走る。なんで緊張しているんだろうと考えて、ああ、先輩かもしれないからか、と納得する。 二年になって、いつのまにか全てのメールが嫌になった。 そのうち、人との付き合いが嫌になった。学校が、人生が、友達が、嫌になった。全て、嫌になっていった。 何日も何日も、携帯が鳴るが中身を見ていなかった。放置。
そして、携帯が鳴った。ボクは中身を見ること無く、ついに携帯をヘシ折った。
「携帯なんて、いらないんだ」
今までは一日数回は鳴っていたであろう、少し遅れたポップソングも鳴らない日が続く。 ストレスの無い、いい日が続いた。 三日目か、四日目か、当然のような雨の日。 なぜか急に嫌な緊張が走った。 よく考えた。『いつもの先輩か』と。しかし違う。
最後のメール、中身なんだったのかなぁ……。
急に気になった。 メールの音が鳴らない日々が、逆に今を考えさせるとは、正直思わなかった。 もしかして、ボクを心配したメールだったのかもしれない。 先輩のパシリかも。 ただのチェーンメール?
今になっては分からない。 でも、寝る。
次の日、起きて少しして、正確には携帯の残骸を見て思い出した。 気になる。 あれだけ嫌だった携帯が必要になるとは思わなかった。
音を聞くことさえ陰鬱の原因だったアイツが、今となっては一度0を通り越して、マイナスに振り切りだした。全く逆に進み、またイライラを作り出した。 曇りの空がゆっくりと動く。
翌日、まだ気になり続けていた。 ふと気づいた。機種を買い換えて、誰がメールしたか聞いてみようと。 急いで靴を履いた。久しぶりにはいたから違和感を感じた。
そして新しくなった携帯で、阿川から山本まで、同じメールを送った。 「久しぶり。携帯壊れてて、最近メール観れなかったんだ。今までボクが返信してないメールあったら、悪いけどもう一回送ってくれるかな」
数分で、久しぶり、なんで学校こんの?とか、メールの中身を送ってくれた。 いつの間にか30通は一気に送られてきた。
涙が出た。一方的に雨を降らせていたのはボクだった。 友達は友達。 先輩からも、部活にいつ来るのか心配のメールが入っていた。
そして、傘無しで学校へ向かった。
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