5通のメールは順序正しく並べられていて、後から届いた順に読めば話が繋がるようになっていた。 別れの手紙だった。電子メールで送られてきたことを除けば、まぎれもない別れの手紙だった。 そこには、もう家庭の問題に脱出口が無いこと。精神的にも肉体的にも疲労し過ぎていること。 今いる街を出ること。 そして、「私は私のことしか考えられない人間なんです。恋愛なんてできる人間じゃないんです。 あなたが好きなのは今も同じ気持ちです。でももう耐えられないんです。ごめんなさい。」 と結んであった。 僕は文字通り頭が真っ白になった。心が空っぽになった。 マンボウのいなくなった水族館の水槽みたいにだだっ広く空っぽの心だった。 僕はすぐさま携帯から電話を掛けた。 彼女は電話に出た。 僕の携帯からは、しゃくりあげる彼女の泣き声と、嗚咽だけが聞こえていた。 彼女は泣きながら、とぎれとぎれにそしてかすかな声で「ご…め……ん………な…さ……」 最後は泣き声と嗚咽で聞き取れなかった。
僕はただ呆然としていた。彼女に何一つしてやれずに1月近くただ仕事に負われていただけだった。 彼女を勇気付けることもせず、励ますこともせず。 僕は自分が悔しかった。殴りつけたいほどだった。僕は何一つしなかったのだ。 その事実の前に僕は口をつぐむ他は無かった。気づいたとき、電話は切れていた。 午前2時47分を事務所の時計が示していた。
ドン!
事務所の壁が大きな音を立てた。僕の右手から血が一筋流れた。
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