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紅の槍士 作者:azumi

第12回   レナードのびっくり箱@
「ネーベルン?」
 レナードの口から発せられた意外な言葉にレオンとキリアはほぼ同時に聞き返した。
「勘弁してくれよー。あんな孤狸の巣窟に送るなんて冗談が過ぎるぞ?」
「レオン。僕の言う事が冗談じゃないかどうかはよく知っているだろう?」
 レナードの口調から浮ついた感じが消え、澄んだよく通る声になっていた。レオンは開きかけた口をつぐみ小さくうなった。
「ラシエール卿。何ゆえ旧都へ?」
 ようやく切り出されたまじめな話を待ちかねていたような落ち着き払った声でキリアが聞いた。
「うん。この間レオンと隣の可愛いユン君が北市街で襲撃を受けたね?」
 間に入った余計な冠詞は聞き流してキリアは頷いた。
「その襲撃者が残していった物からネーベルンにつながっている事を臭わせる手がかりを得たんだ。まだはっきりした事は分からない。だから直接現地で探ってほしい」
「なぁ、お前は内偵省の大臣だろう?どうして自分の部下を使わない?」
 レオンは当然の疑問をやや苛立った口調で聞いた。
「そう言うと思ったよ。実際ネーベルンには常に部下を配しているんだ。でもねぇ、あの襲撃の起きる前後から連絡がないんだ」
 レナードは綺麗な顔を申し訳なさそうに俯けて首を振った。
「だったら別のやつを使えばいいだろう?お前さんたちはそのための役所だろうに」
 レオンは今にも席を立ちそうな、うんざりした表情であった。
「レオン・・・・・・そんなにきつく言わなくてもいいじゃないか」
 顔を俯かせたまま呼びかけられたときレオンは一瞬言いすぎたと後悔したが、レナードが顔をあげた瞬間殴りかからず我慢できたのが奇跡であった。
「うぅ・・・・・・こんな爽やかな貴公子にはこの仕事は向いてないんだよ。レオンは兵の持ち場交代みたいに簡単に言うけどそんな簡単なら僕も楽さ。1人の密偵を育てるのにどれだけかかるか分かる?」
 潤んだ碧眼で見つめられ、泣きそうな声でしゃべられるとレオンはどう見ても悪役にしか見えない。
「兄さんちょっと言い過ぎー」
「レオン、控えろっ!」
「わぁったよ!その嘘泣きやめろっ!」
 ユン、キリアからも非難の声があがりレオンは渋々詫びた。
「ラシエール卿、我々が旧都に行っては何かと目立つと思うのですが・・・・・・」
 場が一段落ついたところを見計らってキリアが話の軌道を見事に修正した。
「そう。だから公の立場で行ってもらうよ」
「というと?」
「うん、皇帝勅使として旧都に行ってもらおうと思って。正使がキリアで、護衛兼副使にレオン。そして2人の従者としてユン君だ」
「あーあー大層な御役目頂戴しますよ」
 半ば自棄になった口調でレオンが遮った。
「どういう用件で旧都に赴けばよろしいんですか?」
 火種が再燃しないようにきつとキリアがレオンを見据えた。
「そうだねぇ。ま、そろそろ異母兄上が即位して5年だから式典には参加してって感じ?」
「5年かぁ。うん、ユアンに押し寄せたのが2年前だから――」
 不穏な事を指折り数え始めたユンをキリアは小さく肘で小突いた。
「あはは・・・・・・事実だからしょうがないよキリア。こんな事僕が言うのも変だけど、エイリスでの勇姿しっかり目に焼きついてるよ」
「ラシエール卿。出立はいつでしょう?」
 再びそれかかった話をキリアは強引に戻した。
「ん?あぁ、できれば早いほうがいいからーあさって!」
「はぁ!?おいおい勘弁してくれよ。俺らだって暇じゃないんだぜ?話を通すところも何ヶ所かあって準備も――」
「ご心配なくーすべて陛下の命によって許可されてるよ。準備する物は全部こっちで用意しますぅ」
 レオンの抗議の声は茶目っ気たっぷりなレナードによってかき消された。レオンはこの上なく苦い顔をして拳を握った。
「わーい!遠出だぁ!楽しみぃー」
 割とおとなしくしていたユンは、話の結末をずれた受け止め方をしているようだった。
「ユン君。楽しそうなのはいいけど役目も頼むよ。一応君は従者ってなってるけどね、他の2人よりは顔を知られてない――って言ったらわかるよね?」
「うん。分かってるよー」
「ラシエール卿?」
 キリアが驚いて聞き返すより先にユンは分かっているとは思えないあっさりとした返事をしていた。
「キリア、そんな心配するなよ。俺も一緒だから大丈夫さ」
「・・・・・・・・・ラシエール卿、ユンに任せて大丈夫でしょうか?」
「って無視かい!ちったぁ信頼しろよ!なぁユン」
「僕は頼りにしてるよ兄さん」
「やっぱりお前は分かってるよ!うん」
 意気投合する武闘馬鹿2人を横にキリアはレナードの答えを待った。
「そんな危険は無いよ。それに君達2人のサポートもあるしね」
「そう・・・・・・ですか。では仰せのままに」
 キリアは一抹の不安を感じながらもこの場は小さく礼をして下がった。
「さて、一応用件はこれだけなんだー、この後閲兵式があるけど見ない?」
 レナードはいたずらを楽しむ子供のような顔で3人を見渡した。

 閲兵式は宮殿の東庭園にて行われた。庭園とは名ばかりの無粋な広場だが、広さは騎馬が十分疾走できほどあり申し分ない。
 東側の城壁を正面に天幕が張られ、その下には皇帝をはじめ数人の重臣が座していた。天幕の両側には儀仗兵が立ち並んでいる。
「あ、もう異母兄上達そろってるや」
 東口から出てきたレナードは言葉とは裏腹にのんびりとした足取りであった。
「ラシエール卿、ここで閲兵式ですか?」
 キリアはいぶかしんだ様子で聞いた。
 確かに広い東庭園ではあるが、通常の閲兵式は1の郭から2の郭にかけて壮大な規模でとりおこなわれる。また閲覧する天幕の数も戦陣を思わせるほど膨大な数が張られるが、今あるのはわずか2張りであった。
「そ。あ、別に何千の兵を見せるわけじゃないよ。ま、見てて」
 天幕の一角に設けられた席へ3人を座らせながらレナードは意味ありげな笑みを浮かべて去っていった。
「うわぁー何が始まるのかな?楽しみぃ」
 キリアの隣には大道芸でも見るようなうきうきした様子のユンが座った。そしていつものように足をぶらぶらさせていた。
「ったく、何が見ててだ」
 ユンの横には憮然としたレオンが座った。
 2人が落ち着いた後キリアも狐につままれた感じを受けながら席についた。だが改めて周囲に目を向けると、この場にいるのは見知った者も含め真に帝国を動かしている人物ばかりであった。
 キリアは騎士としてなかなかの地位についていると思っていたが、そろっているメンバーを見るとやはり自分は駒の1つに過ぎないと思い知らされた。
 この風変わりな3人組へ周りから遠慮の無い視線が浴びせられた。キリアとレオンに対しては意外といった見方が圧倒的であったが、ユンに対しては露骨に顔をしかめる者や眉をひそめる者ばかりである。
 それを全く感じていないように当人は時折キリアやレオンの顔を見ながら楽しみだねと笑いかけてくる。そんなユンの笑顔を見ているとキリアは自分が何を気負っているのだろうと馬鹿らしく思えてきた。
 どんな場所でも自分らしく・・・・・・自然体で、かユン。
 ふとキリアがそう思い浮かべたとき、はっと現実へ引き戻すような鋭い号令が響いた。
 天幕の右手、方角で言うと南のほうから2列縦隊で20人ほどの兵がゆっくりと進んでくる。一糸乱れぬ動きで庭園の石畳の上を歩く兵たちは、面の無い鉄兜に薄い胴だけを纏った騎士の従者のような装備であった。そして全員同じように左肩には細長い筒状のものを掲げていた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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