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桃色の羨望 作者:暁 真珠

最終回   2
「あの・・・・失礼ですけど・・お幾つ・・ですか?」
「・・今年19になります。」
「えっ?!!私と同い年・・・・・ですか?!」
「そのようですね。」
「言葉遣いとか・・あまりに違いすぎるので・・てっきり・・年上かと・・。」
「この言葉遣いは、父親と共に過ごして得たものです。その面に関して、厳しい人ですので。」
 自分とは全く違う立ち居振る舞い、言葉遣い。こうして公で活動する為には仕方の無い事だろうが、自分と置き換えるとかなり肩の凝る事だろうと判る。
「展覧会を開けるほど・・かなり前から華道されてるんですね。」
「というより・・父親が華道家なものですから。本格的に学び始めたのは12の時ですが、幼い頃から花は好きでした。」
 父親や母親がなにか特殊な事をすると、やはり自分も刺激されるのだろうか。経験の無い私には到底、想像も出来ない世界である。
「・・5年で展覧会を開けるくらいになるんですね。」
「・・展覧会を開く意義は、貴方のような人が見に来てくれるからなんだと思っています。専門家でも、同業者でもない。初対面で、なんの先入観も持たない真っ白な状態で作品を見てもらえる。そうすると、自分に欠けた所が目立ちやすいじゃないですか。批評を頂くのは嬉しいですが、専門家の方だとあまりに私情が入りすぎる。そういう意味で、僕は展覧会、気に入っているんですけどね。」
 屈託無く笑うとちゃんと同い年に見える。
「なんか・・・すごい。会ったのが幸運のよう。私とはあまりに違いすぎるから。」
「そんな・・僕も貴方と大差変わりありませんよ。学校へ行けば同じ学年なんですから。出会いについては僕にも判りかねますが。・・・あ。ちょっとここで待ってもらえます?」
 そう言って、彼はおもむろに席を立った。残された私は、周りに少し目を向けながら大人しく待つ。しばらくすると、彼は新聞紙を手に戻ってきた。
「これ。こんな状態で申し訳ないですが・・。」
「・・・・あ・・・。」
 中身は、椿だった。艶のある葉、可憐な花。
「出会いが幸運だと言ってくださったお礼に。生けて余ったものですが。先ほどからなにが良いか迷ってたんですけど・・。これが一番、今の貴方の服に似合いそうだと思いまして。」
 そう言うと聡は、桃紅の椿を私へと差し出した。新聞紙に包まれた椿は、どんなに稀な花より綺麗で。私はきっと、顔が赤かったと思う。
「・・ありがとう。・・大事に、します。」
 歓談の一時は楽しかった・・色移りしたようなその淡い感情を、悟るほどに・・――。
その2日後。展覧会を無事終えた彼は、さらなる成長をと実家へ帰って行った。
『再び戻るまで・・』
それまで枯らさないと交わした椿が、次は私の番だと告げている気がした。
                                     END         

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Novel Editor by BS CGI Rental
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