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賢者の憂鬱 作者:凪沙 一人

第7回   魔女のこと
 さぁて、朝まで間があるな。ポポも眠ったようだし。
「あぁ〜ら、また脱走?」
「おやおや、魔女殿の御登場かな?」
 うちの師匠は術法を教えてくれているだけで、特定の職業の養成所ではない。俺のように賢者になる者もいれば、先輩のように魔女になる者もいる。そう、彼女は先輩だ。俺がここへ来た時、彼女は既にここにいた。まだ、ここに居るからといって成績が悪い訳じゃないのだけれどね。
「あなた、昔からよく脱走していたわよねぇ」
「あれは脱走じゃない。散歩だよ、さ・ん・ぽ」
 そう、あれは散歩だ。師匠から遠くへの散歩。
「で、また、その散歩に出掛けようと云う訳? その娘を置いて」
「いや…ポポが戻るのなら、ここに居てもらった方がいいんだがな」
「クスッ」
 まったく可愛らしい笑い方をするものだ。これで性格が良ければ、いい女なんだがな。
「やっぱり、あの娘が気になるのかな。ひょっとして堅物な賢者も目覚めたかな?」
「冗談じゃない。俺はロリコンじゃないよ。ポポがいると稼ぎに苦労しないで済むんでね」
「そう云えば、術法は師匠の弟子の中でも屈指のあなたが、お金儲けだけは覚えなかったもんねぇ」
 まったくだ。あの頃は術法を覚えにきたのに、術法より長い金銭の計算とか、値切り方とかの方が講義より長いのに閉口したもんだ。今にしてみれば術が使えるだけで生きていける程、世の中は甘くないってことだよな。
「ま、いいや。行ってらっしゃいな。この娘は私が見ててあげるから」
「変な魔法は掛けるなよ。今でも、すでに厄介な術が、掛ってるんだからな」
「はいはい。そんなことして、あなたの怒りをかったら師匠よりも怖いもんねぇ」
 …俺って、そんなに怖くはないと思うんだがなぁ。
「おやおや、彼女を置いて脱走でもしようと云うのですか?」
 これだから師匠は…。先輩も、この辺は師匠に似たんだろうな。
「冗談ですよ。私に話があるのでしょう?」
 前言撤回…は、しないが訂正した方がいいか。師匠の方が性質が悪い。
「判っていて、茶化さないでください。お話と云うのは…」
「マフェールのことでしょう?」
 その質問するように語尾を上げるくせに、絶対にそうだろうって云う自信に満ちた表情が嫌いなんだよな。
「で、その…」
「マフェールの居場所と呼び出す方法が知りたいのですね?」
 まただ…。それが当たってるのも面白くない。
「それでは、5000!」
「えっ?」
 それって…まさか…
「5000です。それ以下では、御自分で捜しなさいと言うしかないですねぇ」
 人の弱みに付け込みやがって…
「それでも師匠か? 弟子から金巻き上げてどうすんだよ!」
「あなた、ここでの授業料だって滞納分が…」
「判った、5000で手を打とう」
「随分と素直になりましたね。それでは…」
 なんだ、見慣れない地図だな。
「ここにマフェールが居ると思われます」
「思われます?」
「妖精と云っても自場を持つタイプでは、ありませんからね。前回が、ここ、その前がここでの発見報告が来ています。ですから、次はここに現われるだろうと」
「しょんな不確かな情報で5000は、いくら御師匠様れも、ボッタクリなんじゃありましぇんか?」
「ポ…ポポ」
「おやおや、手強い方が来てしまいましたね。仕方ありません、3000にまけましょう」
「2000!」
「2800!」
「2500!」
「…仕方がありませんね。負けを認めるとしますか。2500で手を打ちましょう」
「2500れすね。お支払いは情報が正しかった時のみの後払いでいいれすよね?」
「…わ、わかりました…。明日、早く発つのでしょう? もう、早く寝なさい」
 参ったな。この俺がやり込められる訳だ。この師匠がお金のことで妥協させられるとはねぇ。


              ‡‡‡‡‡‡


「ポポさん、気をつけて行ってらっしゃい」
「ありがとうごじゃいます。魔女さんもお達者れ」
 ポポが彼女の歳を知ったら驚くだろうな。
「この不足の弟子が何かしたら私に言ってください。あなたには彼よりも才能があるようですし」
 そりゃ金儲けのだろうが。
「はい。れも、賢者様には私がついていないと」
 な、なんてことを…
「確かに、そうですね」
「それじゃ、行ってきましゅ」
 はぁ〜・・・こんなんで、この先大丈夫なんだろうか…。

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Novel Editor