さぁて、朝まで間があるな。ポポも眠ったようだし。 「あぁ〜ら、また脱走?」 「おやおや、魔女殿の御登場かな?」 うちの師匠は術法を教えてくれているだけで、特定の職業の養成所ではない。俺のように賢者になる者もいれば、先輩のように魔女になる者もいる。そう、彼女は先輩だ。俺がここへ来た時、彼女は既にここにいた。まだ、ここに居るからといって成績が悪い訳じゃないのだけれどね。 「あなた、昔からよく脱走していたわよねぇ」 「あれは脱走じゃない。散歩だよ、さ・ん・ぽ」 そう、あれは散歩だ。師匠から遠くへの散歩。 「で、また、その散歩に出掛けようと云う訳? その娘を置いて」 「いや…ポポが戻るのなら、ここに居てもらった方がいいんだがな」 「クスッ」 まったく可愛らしい笑い方をするものだ。これで性格が良ければ、いい女なんだがな。 「やっぱり、あの娘が気になるのかな。ひょっとして堅物な賢者も目覚めたかな?」 「冗談じゃない。俺はロリコンじゃないよ。ポポがいると稼ぎに苦労しないで済むんでね」 「そう云えば、術法は師匠の弟子の中でも屈指のあなたが、お金儲けだけは覚えなかったもんねぇ」 まったくだ。あの頃は術法を覚えにきたのに、術法より長い金銭の計算とか、値切り方とかの方が講義より長いのに閉口したもんだ。今にしてみれば術が使えるだけで生きていける程、世の中は甘くないってことだよな。 「ま、いいや。行ってらっしゃいな。この娘は私が見ててあげるから」 「変な魔法は掛けるなよ。今でも、すでに厄介な術が、掛ってるんだからな」 「はいはい。そんなことして、あなたの怒りをかったら師匠よりも怖いもんねぇ」 …俺って、そんなに怖くはないと思うんだがなぁ。 「おやおや、彼女を置いて脱走でもしようと云うのですか?」 これだから師匠は…。先輩も、この辺は師匠に似たんだろうな。 「冗談ですよ。私に話があるのでしょう?」 前言撤回…は、しないが訂正した方がいいか。師匠の方が性質が悪い。 「判っていて、茶化さないでください。お話と云うのは…」 「マフェールのことでしょう?」 その質問するように語尾を上げるくせに、絶対にそうだろうって云う自信に満ちた表情が嫌いなんだよな。 「で、その…」 「マフェールの居場所と呼び出す方法が知りたいのですね?」 まただ…。それが当たってるのも面白くない。 「それでは、5000!」 「えっ?」 それって…まさか… 「5000です。それ以下では、御自分で捜しなさいと言うしかないですねぇ」 人の弱みに付け込みやがって… 「それでも師匠か? 弟子から金巻き上げてどうすんだよ!」 「あなた、ここでの授業料だって滞納分が…」 「判った、5000で手を打とう」 「随分と素直になりましたね。それでは…」 なんだ、見慣れない地図だな。 「ここにマフェールが居ると思われます」 「思われます?」 「妖精と云っても自場を持つタイプでは、ありませんからね。前回が、ここ、その前がここでの発見報告が来ています。ですから、次はここに現われるだろうと」 「しょんな不確かな情報で5000は、いくら御師匠様れも、ボッタクリなんじゃありましぇんか?」 「ポ…ポポ」 「おやおや、手強い方が来てしまいましたね。仕方ありません、3000にまけましょう」 「2000!」 「2800!」 「2500!」 「…仕方がありませんね。負けを認めるとしますか。2500で手を打ちましょう」 「2500れすね。お支払いは情報が正しかった時のみの後払いでいいれすよね?」 「…わ、わかりました…。明日、早く発つのでしょう? もう、早く寝なさい」 参ったな。この俺がやり込められる訳だ。この師匠がお金のことで妥協させられるとはねぇ。
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「ポポさん、気をつけて行ってらっしゃい」 「ありがとうごじゃいます。魔女さんもお達者れ」 ポポが彼女の歳を知ったら驚くだろうな。 「この不足の弟子が何かしたら私に言ってください。あなたには彼よりも才能があるようですし」 そりゃ金儲けのだろうが。 「はい。れも、賢者様には私がついていないと」 な、なんてことを… 「確かに、そうですね」 「それじゃ、行ってきましゅ」 はぁ〜・・・こんなんで、この先大丈夫なんだろうか…。
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