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賢者の憂鬱 作者:凪沙 一人

第6回   師匠のこと
 世に賢者を名乗る者は多からず。とは云うものの、俺にも二人分の生活が掛っている。と言っても家庭がある訳じゃぁない。
「ろぉしたんれしゅか?」
 …これも憂鬱な原因か。以前に引き受けたゴブリン退治の仕事の際、ゴブリンの立ち退き交渉の条件として預かったのが、このポポだ。預かった時は、どうなることかと思ったんだけどね。経済観念は俺よりしっかりしてるときてる。心なしか客からも信頼アップって感じが、どうにも複雑なところだけどね。
「賢者しゃまぁ、いったい、何処まで行くんれしゅかぁ?」
 ポポが嘆くのも無理はない。大人の足ならまだしも、この幼い足での長旅と云うのは辛いだろう。
「ともかく、俺の師匠の所に行くって言っただろ。そこに行けば、ポポの両親のことが判るかもしれないからな」
「ほんろれちゅかぁ〜〜〜!」
 あんまり期待させて、ぬか喜びさせても拙いか。師匠に探し出せる保証なんて、どこにもないんだからな。
「賢者しゃまのお師匠しゃまって、ろんな御方なのれしゅか?」
「御方? 御方なんて相手じゃない。まったく人使いばかり粗くて、ろくに術も教えないくせに金にはうるさくて、ケチでどうしようもない奴だからな」
「誰が『どうしようもない』のと云うのですか?」
 ほぅら、おいでなすった。
「ついでに地獄耳って言おうと思ってたんですがね」
 まったく、人の頼みごとや自分に都合の悪いことは聞こえないくせして、金の話と自分の悪口だけは人一倍、聞こえているんだからな。
「これはこれは賢者しゃまのお師匠しゃまれ、いらっさいましゅすか。お初ゅに御目に掛かいましゅ。あたくち、ポポと申しまちゅ。うちの賢者しゃまが大変おしぇわになっておりまちゅ」
「これはこれは丁寧な御挨拶、父に似ない可愛い娘さんだ」
 だぁっ! どいつもこいつも、まったく何処へ行ってもこれだ。
「俺の娘じゃありませんっ!」
「では、金に困って誘拐したが、逃場を失って私の所へ来たのか…私は、そんな弟子を持った覚えは…」
「あのぉ、わたちは誘拐しゃれた訳じゃないんれしゅけろ」
「騙されちゃいけないよ、お嬢ちゃん。あの男は金の為なら…」
それはこっちの台詞だ。何を考えてんだか…
「ポポ、説明してやれ」
「あ、はい」
 まったく俺の話は、まともに聞く気もないくせにポポの話だと熱心に聞いてやがる。ひょっとして師匠ってロリコンか? それはそれで危険だな。いや、このままポポを師匠に任せて逃げるってのも手だよな。
「それじゃぁ後は…」
「では、二人でマフェールの所に行ってみてはどうでしょうかね」
 な、何ぃ?! マフェールって言ったら、気難しいことにかけちゃ有名な妖精じゃないか。何だって、そんな所にまで行かなきゃならないんだよ?
「彼女の…ポポさんの魔法は…その…私たちとは系統の違う術なんですよ。かなり異質と言っていいでしょうね。何しろ、この私が判りかねているという時点で不可思議な術と言っていいでしょう…」
 なんだ? ポポの魔法? 系統が違うって、どういう意味だ? 大体、自分が判らないから不可思議とは・・・さすが自信過剰。
「なんだ、私の弟子のくせに、この程度のことも判らないと云う顔をしていますねぇ」
「何言ってんだ、ここであんたが一番に教えてくれたのは金儲けの方法じゃないかっ!」
「そうなんれすか?」
「あ、う、いや、まぁ…」
「困りましゅねぇ。賢者しゃまは、わたちがマネージメンチョしてあげないと、赤字ばかりなんれしゅよ。ひょっろして、御師匠しゃまもお金儲けが下手なのれは?」
「…す…鋭いな」
こ、こいつ…俺の苦手な師匠を飲んでやがる…
「賢者しゃまのお金のことは、わたくちが遣り繰いいたちまちゅ。しょの、あたちの魔法とは、どういう意味なのれしゅか?」
「おそらくは禁忌魔法の一種だと思うんだがな」
「禁忌魔法?」
 禁忌魔法なんて使う者が殆どいないから、かなり衰退した術法な筈なんだが…。
「そうだ。何らかの理由によって、この子は元の姿から今の姿に変えられた…というよりは戻された、か」
「戻された?!」
 容姿を変えるような魔法ならよくあるが戻すとなると時流の理に逆らうことになる。そんな魔法は知る限りには許されていない。だからこそ、禁忌か。
「この子の元の姿が10代なのか70、80なのかは知らないが、この姿が本来のものないのは事実だ」
 参ったな…気づかなかった。それが師匠がポポを預かるのから逃げる方便でないとすれば厄介な話だよな。
「今日はもう遅いからな。泊まっていくといい」
 当たり前だ。何時だと思っているんだ。こんな時間に…そう云えば昔、放り出されたことがあったっけな。まぁ、とりあえずは明日だな。

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Novel Editor