子供連れの賢者…様にならないよなぁ。あげくに変な噂まで、ついてまわってるみたいだ。つまり、妻に逃げられた冴えない賢者って噂だ。信用商売だってのに、これじゃ今迄みたいに旨い話しが来なくなっちまうんだよな。 「ろぉ〜したのよ?」 どうしたも、こうしたもない。みんな、このポポの所為だ…だからって、犬猫じゃあるまいし、そこいらに棄てて行く訳にもいかないしな。あ、いや、犬猫を棄てていいって言っている訳でもないんだが。 「ねぇ、おじちゃぁん、ろぉ〜したのよぉ〜ってばぁ〜?」 「いいか、ポポ。俺は、おじちゃんなんて呼ばれるような、歳じゃないんだぞ」 「ろぉしてよっ!あたしより歳上れしょ?」 それは、そうなんだけどね。でもポポより年下の賢者が居たら見てみたいもんだ。 「あのぉ〜賢者さま?」 「あのじゃないだろぅ、あのじゃ…あ?」 ポポにしちゃ変な声だと思ったら見慣れない爺さんだな。 「あなた様が、数々のモンスターたちを退治なさっている賢者さまですか?」 「そ、そうだが、何の用だ?」 「ひょぉ〜っと、お待ちくだちゃいまちぇ。賢者しゃまに御用のばやいは、あたくちを通ちて頂かにゃいとこまりまちゅ」 な、なんなんだ? 「ポポ、遊びじゃないんだから…」 「だかられちゅ。賢者しゃまはマネージメンチョが、お下手れちゅからね」 マ、マネージメンチョ…じゃない、マネージメントが下手って、一体こいつ? 「では小さなマネージャーさん。賢者さまに悪霊騎士の退治を、お願いしたいのですが、お引き受け頂けますかな?」 あ、悪霊騎士だって? それって、今迄みたいに交渉して、どうにかなるような相手じゃないよな。こいつは断った方が… 「わかりまちた。お引き受けいたちまちゅ」 「なっ、なにぃ〜?」 「どうかなさいましたか? 何か不都合な事でも、ございますかな?」 「らいちょぉぶれちゅ。賢者しゃまに不都合なろ、ごじゃいましぇん」 「では、お願い致しましたぞ」
な…なんで勝手に話しが進んで行くんだ〜っ? ポポを何とかしないと、本当に命がいくつあっても足りなくなるぞ。 「ポポ、悪霊騎士っていったら、上級者でないと、退治するのは難しいんだぞ」 「らいちょぉぶれちゅ。賢者しゃまは超〜上級ちゃれしゅから」 「そう、俺は超上級者…ってなぁ」 まぁ、引き受けちまったもんは、仕方ないよなぁ。ここで契約を反故にしたら、信用に関わるからな。こっちも信用第一の商売だし。 「それではマネージャー殿、悪霊騎士の退治に参るとしましょうか」 「切り替えが早いれちゅね。いいことれちゅよ、賢者しゃま」 こ…こいつ、絶対に引き取り先を見つけてやる。でないとこっちの身が持ちゃしない。
「ここか、悪霊騎士が現われるって云う館は。いかにも出ますって感じだな。とりあえずは御登場願うとしようか。悪霊騎士っ、居るんならとっとと出て来いっ!」 呼びかけては見たものの、反応は無い。いや、別の奴が反応したか。 「幽霊甲冑…中身の騎士殿に用なんだがね。と言って通じる訳もないか」 幽霊と言っても、甲冑の方には実体がある訳だから面倒臭い。 「な、なぁ、穏便に事を運びたいんだがな。悪霊騎士に会わせてもらえないか?」 「誰が、悪霊だと云うのだ?」 やった、現われやがった。こうでないと、話しが先に進まないじゃないか。 「でも、世間では、そう云う事になっているようですがね」 「そもそも、この館はわしの物だ。そこにわしが居て何が悪い?」 ははぁん、館の主が正体かよ。と言っても立派な霊のようだけど。 「自分が、この世のものじゃないって事は、自覚されているんですか?」 「無論だ。だが、跡継ぎがおらぬからと言って、あんな悪徳業者にこの館を明け渡すなど、もっての外だ」 つまり、館に対する元主の未練が自縛霊になってるって事か。 「それで、どうすれば、この館からお引き取り願えるんでしょうか?」 「何故、自分の屋敷を引き払わねばならんのかね?」 態度は紳士的だが簡単に納得しそうにないようだな。 「悪霊騎士、あんたはもう、この世のもんじゃないんだ。つまり、この世の館の所有権もあんたのものじゃないんだ」 だいたい悪霊ってのも語弊があるよな。 「いいだろう、貴様が私を倒せたなら引き払ってやろう」 はぁ〜なんで、そうなるかな。 「その姿で散るって事は、天国でも地獄でもなく、魂そのものが霧散しちゃうんだけどなぁ。それでもいいの?」 「この私を脅そうというのか? いい度胸だな。まぁ、そのくらいの度胸もなければ賢者など務まらんのだろうな」 度胸ね、舐められたものだ。 「仕方ないな…。天と地の狭間に於いて納まるべき器を持たぬ者よ、転ずるを拒みて留まりし者よ。汝の魂は風の前の塵とならん」 断末魔など、上げる暇もなかったな。だから言ったんだ。ドラゴンもゴーレムもゴブリンも、みんな人間なんかよりずっと命を大切にしているんだ。悪霊騎士っていったって、元は人間。往生際の悪さは、その所為かもしれない。 「ろぉしたの? 倒したんらから、帰よぉよ」 「…そうだな。帰ろう」 憂鬱だ憂鬱だと思っていたけど、人間なんて奴が一番、憂鬱な存在なのかもしれないな。
|
|