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賢者の憂鬱 作者:凪沙 一人

第3回   ゴブリンのこと
 どうも人間って奴は他の生き物を信用していないらしい。ドラゴン、ゴーレムときて今度はゴブリンときたもんだ。悪戯好きの奴等だが、仲良くすれば結構、頼りになるのにな。
「それで、ゴブリンを私に退治して欲しいと?」
 村人は揃って頷いている。そんなに酷いことをしたのか?
「どうか、賢者様のお力を以ってゴブリンどもを追い払ってくださいませ。つきましては、謝礼の方は弾ませて頂きます」
 それは助かる…のだが、最近、この手の話しで、ちゃんと謝礼を貰ったためしがないんだがな。だが、くれるって言うのだから、こちらも仕事だ。
「そのゴブリンの巣は、あの炭坑か?」
「さっすが賢者さま! もう、おわかりですか。では、さっそくお願いします」
 しまった、せめて食事を先に済ませてから言えば良かったか。大体、ゴブリンなんてのは地精の仲間のようなものだ。居場所なんて相場が決まっている。


 炭坑と云っても意外に浅いんだな。しかも掘り方が雑な割りには、補強がしっかりしている。この補強は人間の技術じゃない。
「おい、そんな人間の為に補強なんかしてやっても、人間はお前らを退治してくれって言ってきたぞぉ〜」
 ここはゴブリンたちに、他へ行ってもらうのが得策だろう。ゴブリンたちは俺に退治されなくて助かるし、俺は謝礼を貰えるし。
「別に僕等は人間の為に炭坑を補強した訳じゃないよ」
 姿を見せたのは子供の…ゴブリン?
「地精グノーメか?」
「へぇ、見分けのつく人間もいるんだ」
「これでも賢者だからな」
「賢そうには見えないよな」
 言いにくいことをズケズケと言うのは、人間の子供もグノーメの子供も同じだな。
「じゃぁ何故、柱を組んだり楔を打ったりしているんだい?」
「珍しい人間だなぁ。ちょっと待ってて」
 どうも子供の行動ってのは、よく判らないな。俺にもあんな時代があったかと思うと不思議な気分だ。
「おぉ〜い、こっちこっちぃ〜」
 何だかな。まぁ、手招きをしているんだから行ってみるか。害はなさそうだ。
「珍しいな、人間のくせに。賢者などと云うのは、もっと傲慢そうなものだと思っていたんだが」
 どうやらグノーメの長らしい。ここのグノーメ達は、まだ若いグループのようだな。
「まぁいい。我々の処に、人間の女の子が居るのだが、いつまでも一緒においても置けず、困っておったんだ。」
 さっきの子供のグノーメが一人の少女を連れて来た。いや幼女か?
「このおじちゃん、だぁ〜れぇ〜?」
「こら、誰がおじちゃんだっ!」
「ふぇ〜ん、おじちゃんが怒ったぁ〜」
 ま、拙いっ。ここでグノーメにヘソを曲げられたら予定がパーだ。この女の子を預かって立ち去ってもらえば女の子は村人に渡しちまえばいいからな。
「ご、ごめんよ。お嬢ちゃん、お名前は?」
「ちやないっ!」
 あちゃぁ〜。まぁいい。話しを進めちまえば。
「で、この子を預かれば、この土地を離れて貰えるのかな?」
「この土地は我々が長年住んできた土地なのだよ?」
 もっともな話だな。
「人間なんてのは、あんたら精霊なんかより、ずっと不器用な生き物でね。この土地を離れたら生活出来ない奴等も多いんだよ」
 それは事実だ。この炭坑で採掘出来なければ他の炭坑と云う訳にもなかなかいかないのが現実だ。
「仕方あるまい。その子を頼んだぞ」
「いいだろう、商談成立だな」
 しめしめ、珍しく上手くいきそうだ。
「この子、本当に頼んだよ。ちゃんと面倒みてあげてね。約束だよ」
「あぁ、約束だ…」
 …って、えっ?
「いや、待って…行っちまったよ」
 どうすんだよ…精霊と約束しちまったら、賢者としちゃぁ破る訳にいかねぇじゃんか。
「いやぁ、本当にありがとうございました。おかげさまで、安心して採掘に掛れます。これはお約束の謝礼でございます」
 これって上手くいったって言っていいんだろうか…
「おじちゃん、どぉ〜したの?」
「だからおじちゃんじゃぁないって…」
「どぉ〜して〜」
「お嬢ちゃん、名前は?」
「なまえ?知やない」
 …だめだ、調子が狂う…。
「じゃぁねぇ・・・ポポでいいや。タンポポのポポ」
 思いっきりおもいつきかよ。でも名前が無いんじゃ困るしな。
「行くぞ、ポポ」
「行こう、おじちゃんっ!」
「だから違うって…」
「ムキんならいれよねぇ〜」
 はぁ〜どっちにしても憂鬱な日々は変わらないって事かぁ〜

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Novel Editor