賢い者と書いて賢者と読む。まぁ、本気で賢いと思われているとは自分でも思っちゃいないし、思われてもいないだろう。しかも、賢者なんてものが尊敬されるような時代でもない。この間は、竜退治に駆り出されたんだけれどね。実はこれが姫と竜の駆け落ちでさぁ、参ったよ。こっちも、食うに困って、【狂言】うってはみたものの、王様にバレてリストラされちまったって訳だ。それでも竜とお姫さまが上手い事、幸せになってくれたら、賢者としての顔は立つんだけどな。
「あんた、本当に賢者様かい?」 まただよ。いつも最初に、疑われてから入るんだから嫌になる。確かに今時、賢者なんて流行らないとは云え、失礼だとは思わないのかね。でも、ここでも自分の身が可愛いのだろうな。深くは突っ込んでこない。今度の相手はゴーレムとか言ってたっけな。 「まぁ、あんたが本物でも偽者でも、ゴーレムさえ退治してくれれば文句はないんだがね。報酬は成功報酬だがいいかね? 」 俺は軽く肯いた。今時、前払いなんて景気のいい話しは、とんと聞かない。そもそも得体の知れない賢者に前金を払う奴なんか、いるもんか。 「それで、そのゴーレムって云うのはどの辺に現れるんだい? 」 「裏山の洞窟の中だ。あそこの鍾乳洞は、この村にとっては大切な観光資源なんだ。そこにゴーレムの奴が住み着いちまったもんだから困ってるんだ」 俺は場所を聞いただけで、理由なんてのはどうでもいい。頂くものさえ頂ければね。
「ほう、一人で乗り込んで来るとは、大した度胸だな。このゴーレム様に勝てるつもりか?」 そうそう、ゴーレムなんだから、この程度は凄んで頂かないとね。でないと、こっちの威厳も薄れちまうってもの。 「勝てるつもりだから来たんだろう?」 「ま、まて…話せば判る」 「へ?」 こっちも腰の引けた相手をどうこうする訳にもいかないしなぁ。話しを聞いてみりゃ、人間達が勝手にゴーレムってだけで、悪いと決め付けていたらしい。ゴーレムはゴーレムで人間に襲われないように脅かしていたんだと。どっちもどっちだよな。 「じゃ、こうしよう。私は君を倒した事にして報酬を得る。君は山奥に引っ込んでくれれば私が人間が近づかないように結界を張る」
此処までは上手い事、行きそうだったんだけどなぁ。この時、どうやら依頼人の使用人が後を付けてたらしくて。賢者だって気づかない事もあるのさ。で、そんな気の弱いゴーレムを退治したなんて、認めないとか言って賞金を踏み倒しやがった。後で知ったんだが、ゴーレムの方を雇い入れて力仕事を任せてるって話しだ。でも酷使してるって訳じゃなくて、ちゃんと給料も食事も支給してもらって、納屋を改造した家まで貰ったって話しだ。その後、ゴーレムがお礼だって、少しの路銀と食事に誘ってくれた。これも結果オーライってもんかな。
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