誰が賢者なんて仕事を考え出したんだか知らないが、なんで『賢い者』なんて字をあてたんだか。自分で賢いなんて思ってなくとも世間じゃ賢いと勝手に思ってやがる。だが、肩書きなんて役に立たないことの法が実際は多いんだよな。 (おじさん、おばさん、奴には手を出させないし、あの娘にも力は使わせないから安心していいよ) 『でも、あいつを封じるには・・・』 (大丈夫・・・これでも賢者なんだから何とかしてみせるさ。奴を封印する力だって最初の一人が居たから能力が遺伝してんだろ? 昔の誰かに出来たんなら俺に出来ないってこともないハズさ) そうさ、俺はあの日、この村に戻って来た時に手遅れだったと諦めた。だけど、もう一回貰ったチャンスなら有効に使わせてもらうさ。 『でも、無茶はいけないよ・・・』 (無茶じゃないさ。出来る無理はするし、このくらい無理とも思ってないから) そう、奴を封じるのも、禁忌魔法を解くのも決して無理なんかじゃないさ。俺はあの娘に「超〜上級者」って呼ばれたんだから。
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「これこれ、賢者くん。もう昔話は終わったかな?」 これだから師匠って奴は、よく判らない。まるで人の頭ん中を覗いてるのかと思うよな。それとも同じ光景が見えてた・・・んな訳ないか。まぁ、難にせよ奴を倒さなきゃ進まない。 「さっさと倒してやればポポが小さい理由がなくなるんだし」 「らめれすよ」 「えっ?!」 「あたちたちのお仕事は、モンチュタァを葬ゆことやなく安ゅらぎを与えゆころなのれしょ?」 まったく言ってくれる。というか、俺が教えたんだよなぁ。 「奴はモンスターでも悪霊でもないけどな。そう言うのなら考えようか」 「おいおい、ここまで来て相手に情けを掛けるのか?」 情け・・・ねぇ。 「おやおや、師弟揃って私に情けを掛けるほど余裕があるのかな?」 「あぁ、おおありだね。というか師弟揃ってじゃなく俺ひとりで充分なほどの大余裕だ」 そう、俺はこんなとこで止まってる訳にはいかなくなったんだ。今までは奴さえ倒せればいいと思ってたけどな。ならば奴は通過点。 「燃えよ焔鳥っ、うねれ水竜っ、消えよ風聖っ、勤しめ地獣っ!天と地の狭間において至高なる源の流れよっ!悪しき存在を時空の狭間に封じんっ!」 ちっ・・・思った以上にキツイ術法だぜ・・・。だが、ここで折れるほど弱い精神力でもないんでね。こればっかりは師匠に礼を・・・間違っても言う気にはならないけどね。 「ばかなっ・・・こ、この私を・・・あの一族以外に・・・」 「煩せぇぞ。この賢者の手に掛かればこんなもんだ。あの娘が葬るなって言わなきゃ塵ひとつ残さないとこなんだからな。時空の狭間で反省してくるんだなっ」 「な・・・ぬぉ・・・」 ふぅ、やっと片付いたか。 「ほらほら、大賢者殿、もう一仕事でしょ?」 「誰が大賢者だよ」 「マフェールの力を得た賢者が大賢者でなかったら、誰を大賢者って呼ぶんだ?」 先輩やポポだけなら、力使い果たしたって誤魔化すとこなんだが・・・師匠相手にそりゃ無理ってもんだろうなぁ。それに、ポポを戻さないとな。 「ポポ・・・もう、戻れるんだろ?」 「えっ・・・な、なんのころれしゅかぁ?」 誤魔化すのは俺以上に下手な奴だな。 「奴を封じた時点で術は解けてるはずだろ?」 「らって・・・今もろったら、お洋服が破れちゃいましゅ〜」 「うっ・・・」 そりゃ確かに拙いよなぁ。 「で、これからどうすんの?」 「え? 先輩なんか用事でも?」 「用事じゃないでしょ? まさか、ポポちゃんが元に戻ったらあたしを邪魔にするつもりぃ?」 な、なんか雲行きが怪しい気がするな・・・。 「ポポは戻っても身寄りがないから・・・」 「あら、あたしだって身寄りはないわよ? まさか師匠を押し付けるつもりじゃないでしょうね?」 「あ、あのぉ・・・」 どうやら、先輩の服を借りて戻ったみたいだな。 「あら、ポポちゃん似合うじゃない?」 「でも、ちょっと胸元がキツイんですけど・・・」 「はいはい、直しますよ。ハイッ!」 スタイルはあの娘の方がいいみたいだなぁ。 「先輩、もうポポじゃないだろ?」 「あ、ポポでも構わないです」 「え? せっかくおじさんやおばさんが着けてくれた名前があるんだし・・・」 「えぇ。でも賢者様が賢者様なら私もポポでいいかなって。結構、気に入ってるし」 「・・・まぁ、生まれ変わったつもりってやつかな?」 師匠まで・・・ 「さぁて、このまま世界を廻るのもいいんじゃないか?」 「って、師匠も着いてくるつもりですか?!」 「こんな優秀なマネージャーが要るなら食うに困らないだろうしな」 「ハイっ! 優秀な稼ぎ手は沢山いても困りませんし」 いいのか・・・これでいいのか? 普通はここで俺とポポが旅立って師匠と先輩が見送るってあたりが流れってもんじゃないのか? 「ほら、賢者〜置いてくよ〜」 ・・・まだまだ俺の憂鬱はどこまでも続くらしい・・・はぁ〜
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