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賢者の憂鬱 作者:凪沙 一人

第17回   村のこと
 世に賢者を名乗る者は多からず。なんて言っても商売にならないんだから無理もない話だ。
「賢者君、妙に元気がないねぇ?」
 先輩も悪気はないんだろうけど、ちょっと答える気分じゃないよな。
「ほらほら、あんたが元気出さないとポポちゃんが心配するでしょ?」
 そうだな・・・。あんまり小さい子に心配掛けるもんじゃないな、実年齢は幾つだか判らないが。


         ‡‡‡‡‡


「ここね、グノーメの言っていた村のあった場所ってのは。にしても、よくあの説明で的確に場所が判ったわねぇ。さすが賢者ってとこかしら?」
 そんなんじゃない。いくら世捨て人のような隠者でも自分の生まれた村くらい覚えてるだろ。本当にポポがここの生まれなら俺が知ってる人間ってことなのか。どっちにしても物事には順番がある。ポポを元に戻すとか何とかの前に、狙ってる奴を片付ける方が先だろうな。
「おやおや、何方かお探しかな?」
 まったく・・・人の神経を逆撫でするような登場の仕方をしてくれる。
「師匠、何しに来たんですかっ?!」
「賢者しゃま、失礼れしゅよ」
「そうだ、そうだ、失礼だぞ〜」
 ポポと一緒だと調子に乗るんだからな。
「で、師匠は実のところ何しにみえたんですか?」
「ほら、先輩を見習え」
 えぇ〜いっ、どこをどう見習えってんだか。俺は先輩じゃないんだから。
「どうにも邪悪な気配が漂っていたものでね。しかも愚弟子のマネージャーが狙われてるとなれば放っておくわけにもいかないでしょう?」
 邪悪な気配ってのは判るが愚弟子ってのは何なんだ、愚弟子ってのは。だが師匠が外に出てくるってのはそうそう無いことだ。俺が弟子入りした頃も外へ出たのは見た覚えがない。つまり俺が負けるかもしれないって思ったんだろうな。というか、俺が負けたら拙い相手だということなんだろうな。でなきゃ、弟子可愛さに手助けに来るような師匠でないことは俺や先輩が保証する。ま、私怨で対峙するような相手じゃないってことか。
「そろそろ待ち人来たる、ってことのようですよ。授業を思い出して油断などしないようにしてくださいね」
 何が授業を思い出せだ、そんな授業やってないだろうが。
「おやおや、愚かなる者と書いて愚者とはよく言ったものだな。師弟共々がん首揃えて」
 なんで、こんな師匠や先輩と同じに扱われるんだかっ!
「私を不肖の弟子たちと同じに思わない方がいいですよ」
「ちょっと、師匠っ! 私だって師匠や賢者と一緒にしないで欲しいわよっ!」
 考えることは一緒かよ・・・。でも同じじゃない。そう、俺は俺、師匠は師匠、先輩は先輩。誰一人同じ人間なんてのは存在しないもんさ。
「ひとつ、聞いてやる。この村を・・・俺の村を襲ったのは何故だっ?!」
「えっ?!」
 先輩は少し驚いたようだが師匠は・・・知ってたな、あの顔は。

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Novel Editor