賢い者と書いて賢者だが、狡賢いって訳じゃない。その点じゃぁ魔女である先輩の方が一枚も二枚も上手だろう。 「で、先輩。何処まで一緒に行くつもりなんですか?」 「何よ、私と一緒に旅するのが不服だとでも言うのかしら?」 「そうれしゅよ、賢者しゃま。ちゃぁ〜んと生活費も、入れてくれるんれしゅかや…」 「えっ? そうなのか?」 「当たり前れしゅ。働かざゆもにょ、食うべかやじゅれしゅ」 まったく、更に上手が居たんだったっけな。 「あ〜ら、あなたは?」 「あたちは、賢者しゃまのマネェヂャれちゅかや」 まったく…、いい加減にしてもらいたいもんだ。これじゃポポの親探しどころじゃないじゃないか。 「それで、今夜の宿は一体どうするつもりなんだ?」 バンパイアを倒した時にトロルからの礼金を貰っているはずだ。今夜は、ちゃんとした宿に泊まれる予定なんだがな。 「あのぉ〜、魔女しゃん。ここは一ちゅ、魔法でパパァ〜ってなりまちぇんかぁ?」 「ははぁ…私と宿屋と天秤に掛けようっていうのね?」 ある意味、ポポの方が賢者かもしれないな。そう、賢いって意味では。 「仕方ないわねぇ。経費節約ってやつよね」 結局、この日は先輩の魔法で出したテントに泊まることになった。 「しょれにちても、ちっちゃいれしゅねぇ」 「贅沢言うんじゃないの。経費が節約なら、魔力も節約よ。嫌だっていうなら、お金出して宿屋に泊まればいいじゃないのよ」 なんだか、仲がいいやら悪いやら。どうしたもんかね。 「さぁて、どうするかな」 まったく、こんな時に魔物とはね。 「大したことなさそうよ。多分、結界でも張っておけば大丈夫なんじゃないの?」 そう、二人の仲よりは、はるかに簡単かもしれないな。とは云え、デカイはデカイがな。どうやら、地系のようだが…。 「心配しなくても大丈夫よ。ポポちゃんは、ちゃ〜んと、この私が守っててあげるから」 助かる…けど、それって手伝わないってことだよな。 「ともかく頼みます」 ったく、仕方ない。ここで文句言っても時間の無駄だ。それに図体はデカイようだが、一人で手におえないような相手じゃないしな。バンパイアのような素早さもない。 「天と地の狭間において、納まるべき器を持たぬものよ、安息をもたらす堅きものよ、汝、この者を囲みて壁とならん」 これで、どんなにデカかろうと、地系の魔物なら、この結界で充分、防げるよな。 「いくや賢者しゃまれも、あんな大きいのを相手に一人れ、大丈夫れしゅか?」 「そんな心配しなくても大丈夫よ。彼は強いから」 「ふぅ〜ん」 「な、何よ、その挑戦的な目は」 「賢者しゃまは、渡しましぇんからねぇ〜」 「だ、誰がっ!」 ったく、人が戦ってるってのに中で楽しそうにしてやがるなぁ。しかしデカイくせに、この野郎、思ったより速いっ。 「天と地の…おっとぉ〜」 まったく、唱える時間くらい寄越せよな。かと言って、先輩に頼むってのは癪に障るしなぁ。 「封印の氷柩っ!」 「あ、それって私の…」 こっちだって、使いたくて使ったんじゃないってぇの。 「天と地の狭間において納まるべき器を持たぬものよ、全てを焦がす熱きものよ、汝、地より出でて焼き払わん」 「あらら。いつの間に、私の術を、覚えてたのよ?」 「門前の小僧ってね。一度見れば、あの程度の術は何とかなる」 「あの程度の術で、悪かったわね。 これでも、身につけるのに苦労してんだからね」 「仕方ありましぇんよ、賢者しゃまは特別れしゅから」 こっちが特別なら奴も特別なのかもしれねぇ。一体、何匹のワームを操っていやがるんだ…。いい加減、何とかしないと拙いよな。 「天と地の狭間において、あやかしく蠢くものよ。闇の力にて操られしものよ。汝、鎖を断ち切りて野に帰らんっ!」 ふぅ、これでワームの気配は消えたな。とはいえ、元を断たないと、また襲われるってことか。 「天と地の狭間において闇の者に紡がれし糸よ。蟲を操りし見えざる糸よ。汝、携えし者を引き出さん」 さて、鬼が出るか蛇が出るか…、って何も起きない? 「ろうしたんれしゅか?」 「どうやら、相手は天地の間には居ないみたいねぇ」 なるほど、特別な訳ね。なんで、こうも憂鬱な相手が増えていくのかねぇ。まったく。
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