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賢者の憂鬱 作者:凪沙 一人

第12回   バンパイアのこと
 何かに脅かされているトロルたちを助けるハメになっちまった俺とポポ、それに先輩がトロルの村の入り口に着いたのは陽も沈みかけた頃だった。
「夜、危険。夜、暴れる」
 どうやら、そいつは夜行性の魔物らしいな。
「どんな奴なんだかな」
「賢者しゃま〜、あまり脅かさないれくらさいね」
 当たり前だ。こんな所で大騒ぎされたら、そっちの方が面倒だ。
「それで、どうするの?」
 先輩の方こそ、どうする気なんだかな。とは思っても、聞く訳にもいかないんだよなぁ。どうせ、3,4倍の質問が返ってくるのは目に見えている。
「お前等、相手は何匹だ?」
「1」
 なんていう、答えだかな。まぁ、通じるだけ、御の字か。
「一匹相手に、二人は多いんじゃない? 私一人で、充分よ」
「魔女しゃん、謝礼独り占めはなしれしゅよ」
「あ〜ら、バレバレ」
 まったく、油断も隙も、ありゃしないんだからな…二人とも。
「さぁて、向こうから、来てくれるとは、ありがたいな」
「せっかく賢者と魔女が、マフェールの道具とグノーメの所に居た娘を連れてきてくれたのだ。出迎えてやるくらいのことは容易い」
 おやおや、御丁寧なことだな。
「先輩、これは…」
「わかってるわよ。貴方の方が専門だってんでしょ」
「いや、ポポを頼みます」
 確かに、この手の奴を相手にするのは、魔女より賢者の方が向いてるだろうな。
「魔女しゃん、あれって人間じゃないんれしゅか?」
「バンパイアよ」
「え゛〜」
「こ、こんな所で、大声出さなくてもいいでしょぉ〜。こっちが驚いちゃうじゃないのぉ」
「しょんなころ言われちぇも、しょうがないれしゅ」
 まったく…後で賑やかだな。女二人でも充分、姦しい。
「女性陣に気を取られている場合では、ないのではないかな?」
 こいつも大した自信家だな。
「御忠告、感謝しておこうか。それより一つ聞きたいんだがな」
「届け物のお礼です。何なりと」
 誰が届けるかよ。まぁ、ここで機嫌を損ねても拙いか。
「ポポとマフェールの道具を何に使おうってんだ?」
「あの娘のことを御存知ないのですか? グノーメも無責任な預け方をしたものですね。でも、御存知ないなら、あの方のお許しがなければ、お答え出来ませんね」
 知らないから聞いてんじゃねぇか、まったく。
「その、あの方ってのは一体、誰なんだ?」
「あなたも二度、会ったことがある筈ですがね」
 …参ったな。俺が二度会ったことがあるって…奴のことか…。
「天と地の狭間において…」
「あなたの欠点は、術法の起動が遅いことです」
 ちっ!
「誘いの焔っ!」
「なっ…」
「天と地の狭間において、納まるべき器を持たぬものよ。夜を打ち消す無常の輝きよ、汝、暗闇の住人を照らしださん」
 光の法を使うことになるとは、思わなかったな。
「さっすが、専門職ねぇ。お見事〜」
「先輩の火焔魔法のお陰です…って言わせたいんでしょ」
「まぁね。でないと、ポポちゃんに値切られちゃうから」
 どこまでも、計算高いんだから。
「残念れしゅねぇ。値切り損ねまちた」
 まぁ、どっちも、どっちだな。
「さぁて、これから何処に行こうかしらね?」
「ちょうれちゅねぇ」
 ん? なんか嫌な雰囲気だな。
「先輩、何でポポと打ち合わせなんかしてんですか? まさか…」
「え? あぁ、一緒に行くわよ」
「何で先輩が俺たちと一緒に行く必要があるんですかぁ」
「だぁって、一緒の方が楽しそうなんだもの」
 ヲイヲイ…俺の憂鬱の種が、また増えるのかよ…勘弁してくれ…

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Novel Editor