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賢者の憂鬱 作者:凪沙 一人

第11回   トロルのこと
世に賢者を名乗る者は多からず。とは云うものの、大した仕事がある訳でもない。ポポが居てくれるお陰で稼ぎに困らないが。何しろ金銭感覚に於いては師匠や先輩よりも達者ときている。これでアレさえなければ、いいパートナーなんだがな。
「賢者しゃま、あとは枯れた井戸を、元通りにしゅれば、おしまいれす」
「ったく、人使いが荒いんじゃないのか?」
「何、言ってるんれすか。ちゃんと働いて頂かないと、今晩泊まる所が無くなっちゃいますよ」
 痛いところを突くよな。まったく誰に似たんだか。確か、先輩に貰った金とか、ある筈なんだが、どこかに貯めているようだ。お陰で、フトコロ事情を気にはしないで済むんだけどさ。
「天と地の狭間において、留まることなく流れるものよ、潤いをもたらす清きものよ。汝、枯れ井戸に湧き出て救いとならん」
 これで、終わりっと。
「あ、お水だっ!」
「水が湧いてきたよ〜」
「わぁ〜ぃ、お水だ、お水だぁ〜」
 子供が喜んでくれるのは嬉しい気もするよな。かと言って偽善でやってる訳でもないんだ、貰うものは貰わないとな。
「これは、お礼でございます。宿の方も、用意させて頂きましたので、今宵は、ごゆるりと、お休みくださいまし」
「すまな…」
「はい、ありがとうごじゃいます。賢者しゃま、これは私が預かりましゅね」
 たぁ〜…いつも、これだ。そのうち、蔵でも建てる気か?
「キャァッ」
「ポポッ!」
 なんだ、なんだ? 大声出して。
「賢者しゃまっ、ありぇ…」
 あれって…
「なんだ、トロルじゃないか。大丈夫、襲ってきたりしないから」
 大人しい妖精の一種だけど、こんな場所に出てくるってのは珍しいよな。幸い、ひと気も無いようだし、トロルも町の人には気づかれていないようだ。
「さぁ、人が来る前に町から離れるんだ。お前等が見つかると、色々と厄介なんでな」
 はぁ? 首を横に振った? 何か、町に用事でも、あるってのか?
「マフェールの道具、グノーメの所に居た娘、よこせ」
 なんだ? マフェールの道具ってのは、判らなくもないが、なんでポポを欲しがるんだ? 
「お前等に、何のメリットが有るかは知らないが、どちらも渡すわけには、いかないな」
 こいつらが、ポポに一体、何の用だってのかな。
「マフェールの道具、グノーメの所に居た娘、よこせ」
「お前等にとって、何の意味があるってんだ?」
「マフェールの道具、グノーメの所に居た娘、よこせ」
 埒があかないな。
「ポポ…」
「なんれしゅか?」
「逃げるぞ」
 ったく、何でこんなことになるんだかな。
「賢者しゃま、急いれくらしゃいっ!」
 急げってなぁ。人の背中の上で勝手言いやがって。
「天と地の狭間において、納まるべき器を持たぬものよ、時と場所を司りしものよ、汝、我が前に新たなる道を開かん!」
 まったく、礼金は受け取ったから、いいようなもんの、ベッドと晩飯はパァだよな。


              ‡‡‡‡‡‡


「ふぅ…、どうやら撒いたみたいだな」
「しょうれしゅね。れも、此処は何処れしゅか?」
 何処って聞かれてもなぁ。こっちも慌てて道、開いたから…。
「あらあら、お二人さんとも、どうしちゃったのかしら?」
「げっ、先輩っ」
「魔女しゃん、御無沙汰しちぇおりましゅ」
 こいつは状況に飲まれないよなぁ。
「あんたもポポちゃん見習いなさいよね。何が「げっ」なのよ」
 いきなり説教かよ。大体、なんで先輩が、こんな所に居るんだ…って云うか、ここは何処なんだ?
「で、何かあったんでしょ?」
「あぁ。トロルが、ポポとマフェールの道具を寄越せってんだ」
「トロルが? 妙ね。マフェールの道具ってのは、トロルだって妖精の一種なんだから、ともかく、ポポちゃんを寄越せってのは、トロルの意思じゃないんじゃない?」
 確かに先輩の言う通りだ。でも、トロルの意思じゃないとしたら、誰かがトロルを操ってるってことか?
「誰か、心当たりでも?」
「そんな変な奴に、知り合いは居ないわよ」
 そりゃ、そうだろうな。先輩の知り合いは金持ちか、いい男と決まってんだから。
「魔女しゃん、ちばりゃく、一緒に居てもらう訳には、いきまちぇんでちょうか?」
「こら、先輩だって忙しいんだから、無理を言っては…」
「あら、構わないわよ」
「ほら、構わな…い?」
 なんで? 俺が何か頼んだって、いつも忙しいってのが、何でポポが頼むと構わないんだ?
「えぇ。ポポちゃんなら、ちゃんと払うもの、払ってくれるもんねぇ」
 そう云うことか…。気持ちよく出したように見せて、違約金のこと、根に持ってたんだ…。
「もちよんでしゅ。れも、ちぇい功報ちゅうれちゅよ」
「しっかりしてるわねぇ。でも、いいわ、それで受けてあげる」
 なんで、みんなポポには甘いんだかなぁ。
「キャッ!」
「どうした?」
「今、何かか、しょこに居た気がしたんれすけろ…」
 とりあえず、気をつけるに越したことはないか。
「マフェールの道具、グノーメの所に居た娘、よこせ」
 ちっ…見つかっちまったか。
「あらあら、トロルさんの、お出ましね。あんた達、この魔女のお友達をどうしようってのかしら?」
 ポポが友達だ? この二人じゃ、間違いなく悪友になるんだろうな。
「マフェールの道具、グノーメの所に居た娘、無い、困る」
 こいつら、脅かされてるのか?
「お前等を脅しているのは、誰だ?俺たちが助けてやるから」
「ホントか?」
 まぁ、これでも賢者だからな。放っても、おけないって。
「ちょっとちょっと、勝手なこと言わないでよね。そんなことは、契約外よ」
「大丈夫れすよ。ねぇ、トロルしゃん、賢者しゃまと、魔女しゃんは怒ると怖いんれすよ〜」
 でた…可愛い笑顔で俺をダシに使うんだから…
「助けてくれ。お礼、する。いっぱい、する」
「よっ、ポポちゃん、商売上手!」
「魔女しゃん、褒めてくらしゃっても、何も出ましぇんからね」
「はいはい。しっかりしてるわ。賢者と組むより、魔女と組んだ方が儲かるわよ〜」
「先輩っ!」
「じょ、冗談よ…」
 トロルより、よっぽど危険かもしれないな。ともかく元凶を断たないことには、どうにもなりそうもないか。
「それじゃ、出発〜!」
「ゴ〜ゴ〜」
 ポポも、先輩も、そんな気楽でいいのかよ…

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Novel Editor