我輩は猫である。名前は…野良なんでね。特にはない。 「あら? かわいい猫さんね」 ん? 人間か。 「あ、怪我してる。うちで、手当てしてあげるね」 あぁ、この間、2丁目のクロと喧嘩した時のやつか…って、おい、こら、人を勝手に連れて帰るなよ… 「はいはい。うちまで、すぐだから、そんなに暴れないでね」 ったく、こんな怪我、舐めときゃ2,3日で治るってもんだ。 「ほら、着いたよ」 小さな家だな。まぁ、ゴロみてぇに、拾われたはいいが、アパートだからって、また追い出されるよりはマシか。 「ほ〜ら。これでいいでしょ」 …おい、包帯が団子じゃねぇか。これじゃ歩き難いったら、ありゃしねぇじゃん 「なんか、歩き方が変ですねぇ。やっぱり、お医者さんに診てもらった方が、いいのかな」 違うだろ。お前の所為だろうが。
あぁ〜動物病院だって…予防接種とかいって、針刺したりするとこだろう? やめてくれよなぁ… 「はい、次の方…」 「この、猫さんなんですけど…」 さんなんて、やめてくれよなぁ。 「おや…これは珍しい」 「えっ? 普通の三毛猫じゃないんですか?」 「えぇ。三毛は三毛なんですが、雄っていうのは、滅多に生まれないんですよ」 「そうなんですか?」 「そうだな、一万分の一くらいの確率かな」 「えぇ〜」 「その分、生殖能力が無かったり、身体が生まれつき、弱かったりするから、気をつけてあげないとね」 なんだ、なんだ? ものめずらしそうに…俺だって三毛で生まれたくって三毛に生まれた訳じゃ、ねぇってんだよ。 「はい、終わりましたよ」 ふぅ…やっと終わったか。 「ありがとうございました。さぁ、帰ろうね」 これで、あの小さな家に逆戻りかよぉ…。暫くは、餌の心配が要らなくていいか。 「ねぇ、猫さんだと、お魚かなぁ?それとも、缶詰のキャットフードの方がいい?」 んなこと聞かれたって、返事しても判らねぇだろうが。 「うん、やっぱり缶詰にしよっと。その方が無難だもんね」 どっちでもいいから、早く食わせてくれれば。 「ここで待っててね。スーパーは、ペットは入れないから」 早く帰ってこいよ。 『おや、野良三毛が、自転車籠に納まって、何してんだ?』 うるせぇのが来たな。ドラ猫めが。 『人間に拾われたのかい? 大袈裟に包帯まで、巻いちゃって』 『うるせぇな。手前ぇにゃ、関係ねぇだろうが』 『御言葉だねぇ。つい、この間まで、コンビニの残り物を争った中じゃないか』 「こらぁ〜」 『ちっ、邪魔が入ったか…野良三毛、命拾いしたな』 「猫さん、大丈夫? この辺は、野良猫が多いから…って、あなたも野良猫さんだったのよね。でも、もう野良じゃないんだから、喧嘩なんかしちゃダメですよ。また怪我でもしたら、大変なんだから」 俺が、そうそう怪我するかよ。大体、ドラ猫の野郎、命拾いしたのは、どっちだよ。俺が、あいつに負けたことなんて、ねぇじゃねぇか。自転車籠の中だって、まんざらじゃねぇんだぜ。 「そうだ、名前つけてあげないと、いけないわね。いつまでも猫さんって訳には、いかないもの」 別に名前なんて、何でも構わねぇからよぉ。 「ミケじゃ、ありきたりだよね。タマ…って感じでも、ないし…なんか、キャッチ・コピーみたいに、ピタッとくる名前ってないかなぁ」 なんで名前が、キャッチ・コピーなんだ? そういや、なんか紙の多い家だ…小さくても、一軒家に独り暮らしってのも妙だしな。 「あ、私のキャッチ、汚しちゃダメよ。明日、学校に出すんだから。ん〜キャッチか。うん、キャッチでいいかな、君の名前」 でいいかな、って、そんな、いい加減な付け方すんのかよ。 「ほら、スペルにもCATって入ってるしね。これでも、コピーライター目指してんだよ」 そりゃ将来、考え直せ。そのセンスじゃ、向かないぞ。 「あなたじゃ、話しても、判らないでしょうけどねぇ…。なんか、話し相手が出来たみたいで、これでも嬉しいんだよ」 俺は、飯の心配が無くて嬉しい。 「ここは、お父さんと二人で住んでたんだけど…単身赴任で、海外に行っちゃって」 なるほどね。それで女の子が独りで住んでるのか。しかし、人間ってのは、変な生き物だよな。返事の出来ない俺に、話し掛けても、どうにもならんだろうに。まぁ、嫌な反論もされねぇけど… 「さぁ、用意出来ましたよ」 ん? 何、急に刃物なんて取り出してんだ? まさか…そん時ゃ、引っ掻いてでも、止めねぇと… 「痛っ」 ちっ…飯に気が…なんだ? 「じゃぁ〜ん! 千穂ちゃん、お手製の爪磨ぎ〜。どう、器用なもんでしょう?」 ダンボール切るのに、自分の手まで切っといて、一体、どこが器用だってんだ? どっちかってと千穂は不器用だろ…そうか、千穂ってのか。 「ほ〜ら、おトイレも出来たんだよ。砂を入れれば、完成だからねぇ」 餌だしといて、トイレの話は、やめてくれよなぁ。飯が不味くなるじゃねぇか。 「ふぅ…なんか…疲れちゃった…」 って、おい、そのまま寝るなよ〜風邪ひくだろうが…あぁ、寝ちまったよ…。世話の掛かる娘だなぁ。しやぁねぇ、えぇ〜っとタオルケットとか云うやつがあったな。猫にゃ、ちと重いぜ〜 「ふぁ〜あ、私、眠っちゃったんだ。でも、どうして、これから縫うカーテン生地なんて掛けてんだろ?」 ちょっとした間違いだ。風邪ひかなかっただけ、有難いと思え。 「まさか、キャッチが…? まさかね。猫さんが、そんなことするって、聞いたことないし」 猫がしたら悪いかよ。まぁ、感謝されてぇ訳でもねぇから、いいんだけどな。 「さてと。もう学校行かないと。お願いだから、いたずらしないでね」 千穂のやつ、俺に言葉が通じると、思って言ってんのかねぇ? さてと、昼寝でもするかね。ここなら、ドラ猫や、犬と喧嘩んなる心配も、無ぇし、起きたら散歩にでも出掛け…ん? おい、この家、猫扉ってのは無いのか? げ〜っ、一日この家に閉じ込められんのかよぉ〜。俺は室内用の愛玩ペットじゃねぇぞ〜…ん、なんだ? 忘れモンか? 「簡単な鍵だったな。さぁてと」 なんだ? 千穂の奴、鍵掛けてってたハズだろ? 合鍵か? でも簡単とか、ぬかしたな。 「タンスの引き出しとは、無用心だな…」 ありゃ、千穂の通帳! やべぇ、空き巣じゃねぇかっ! 「な、なんだ、この猫は…痛ぇっ! くっ、こ、このやろう…痛ててててっ…ちぃ…」 ふぅ…通帳は落としてったか。千穂の作品、踏んづけていきやがって…大した作品じゃねぇが、千穂が一所懸命書いてたのによぉ。 「あれ? やだ、鍵、掛け忘れたのかしら…」 やっと、お帰りかよ。 「きゃぁ…キャッチ、あんなに、いたずらしないでって言ったのに…せっかく、もうちょっとだった課題もボロボロ〜あんたなんか、拾うんじゃなかった。もう、出てってよね」 なんだぁ? 手前ぇの通帳守ってやったってぇのに、何でぇ、その言い草は。ま、所詮、野良は野良ってことかね。別に人恋しかった訳でもねぇし。鍵、付け替えた方がいいぞ…って言っても、判りゃしねか。 「もう…あれ、通帳? 印鑑も? キャッチが? でも、猫がねぇ…なんでだろう? 昨日は出した覚え、ないんだけどな」 『六時のニュースです。今日、午前十一時、M市の連続窃盗犯が逮捕されました。犯人はピッキングで鍵を開け、堂々と玄関から出入りして、空き巣を行うと云う大胆な手口で犯行を重ねてきましたが、警視庁の発表によると、今朝、侵入した家で、猫に顔中を引っかかれ、何も取らずに逃げ出した所を、不審尋問に合い、自供したとのことです。なお、その侵入した家宅までは、犯人が自供しておらず…』 「え…猫が…まさか…キャッチ? あれ、何処行ったの? キャッチ〜 まさか、本当に出てっちゃったの? どうしよう…酷いこと言っちゃったなぁ…」 ピンポ~ン 「警察です。こちら、空き巣に入られた…」 「あ、おまわりさん! ちょうど良かった。キャッチが…いえ、猫が家出しちゃったんです。すみませんが、留守頼みます」 「えっ、あ…ちょ…現場検証を〜」 「は〜ぃ。勝手にお願いしま〜す」 「今時の子は、よく判らんねぇ」 「キャッチ〜キャッチ〜…もう、何処行っちゃったんだろ…」 おやおや、今頃、俺をお探しかねぇ。別に今更、千穂ん所に戻る気ゃ、ねぇしな。しばらく放っときゃ、諦めるだろ。 『おい、野良三毛。あのキャッチってのは、お前ぇのことだろ? 帰らねぇで、いいのかよ』 『ドラ猫に心配されたか、ねぇよ』 『誰が手前ぇの心配なかするかよ。俺が心配してんのは、あのネェちゃんの方だ』 千穂の? 何で、ドラ猫が千穂の心配なんかすんだ? 『俺だって捨てられるまでは、飼い猫だったんだ。その家の娘がアパートで一人暮らしを始めたとたん、俺の面倒を見る人間がいなくなってな。ま、そんな、こんなで捨てられちまったんだが、後で、その娘が帰ってきたときに、凄い勢いで怒って、そして泣いてたそうだ。俺なんかの為に泣いてくれる人間も居たんだ。あのネェちゃん、似てんだよな。お前は、まだ帰れるだろ。帰ってやれよ』 ドラ猫に、そんな思い出があるとは意外だった。けど、それとこれとは関係ねぇ。 『悪ぃが、俺は帰る気は、ねぇよ』 「キャッチ〜私が悪かったわ〜謝るから、帰ってきて〜」 『おら、あんなに探してんだぜ。帰ってやれよ』 へん、冗談じゃねぇやな。何も知らねぇで、いきなり俺の所為にしやがって。そんな家に、なんで帰らなきゃなんねぇんだよ。 『お断りだね。あばよ』 ったく、しつこいドラ猫だぜ。結局、また、ここに帰ってきちまったな。この橋で、千穂と出会ったんだよな。2、3日前のことが、随分と昔に思えるぜ。 「キャッチっ!」 ちっ、見つかっちまったか。 「雄の三毛なんて、そうそう居ないんだから、キャッチに間違いないわよね」 あぁ。 「ゴメンね。空き巣だったんだって。鍵、変えた方がいいんだろうけど、私の居ないときに、お父さんが帰ってきたら困るでしょ」 そういや、千穂の親父さんは、単身赴任だとか、言ってたな。 「ね、帰ってきてよ」 ゴメンだぜ。 「あ、今首振ったよね。さっき、キャッチに間違いないよねって聞いた時は、頷いたよね。もしかして、キャッチ、私の言葉…判るの?」 やべぇ…猫が人間の言葉が、判るなんてバレたら、面倒じゃねぇか。 「キャッチ、お願いだから帰って…あ、鍵っ!」 ったくドジっ! この下の川に落としたら見つかる訳ねぇだろ。 「キャッチっ」 反射的に、跳んじまったぜ。まぁ、高い所から跳ぶってな、お手のもんだけどな。着地の足場が小せぇってのは、ちと焦ったけどな。 「ありがと、ナイス・キャッチ」 …それって、下手な駄洒落か? 「猫って、クルクル回るんだと思ってたら、捻るんだね」 そんなの、当たり前だろうが。人間の猫に対する認知度ってのは、そんなもんかよ。 「ね、一緒に帰ろうよ」 今さら帰れるかよ… 「帰ってくれないと、千穂特製トイレと爪磨ぎが無駄んなっちゃうよ」 なんでぇ、千穂の為かよ。 「買った猫缶も、無駄んなっちゃうしさぁ」 あれは、確かに味は良かったよな。 「帰ったら、ふかふかの、お布団も用意してあげるから」 確かに、ダンボールん中は、これからの時期、寒いかもしれねぇな。土管ってのは好きじゃねぇし… 「ね、帰ろ!」 しゃぁねぇな。 「あ、今、頷いたよね? ね? ね?」 しつこいと、嫌われんぞ。 「おいしょっと。あ、今、飛び降りた時にすりむいたのね。帰ったら手当てしてあげるからね」 今度こそ、団子の包帯は、やめてくれよな。
我輩は猫である。名前は…とりあえずは、キャッチだ。千穂って子が付けた名前だが、大してセンスはないようだ。これでも、コピーライター目指して、専門学校に通っているのだそうだ。千穂は一軒家に独り暮らし。父親は単身赴任、母親は他界したようだ。 「ねぇ、キャッチ、こんなんで、いいかな?」 下手なりに、千穂は色々と作ってくれる。トイレや爪磨ぎも、千穂が作ったものだ。で、今回は何、作ったんだ? 「ジャ〜ン! 千穂特製キャット・ドア!」 おいおい…この間、空き巣に入られた、ばかりだろ。これじゃ、大きいぞ。猫なんてな、耳と髭が触らないだけの穴があれば、通り抜けられるんだから。 「なんか不満そうね。でも、キャッチは私の言うこと、判っても、私はキャッチの言うこと、判らないんだからね。ズルイぞ〜」 ズルイって言われてもなぁ。俺の所為じゃねぇだろ。 「そ〜だ、連休だし。大掛かりなもん作っちゃうぞ〜。買い物してくるからね。半日待っててね」 って…あ〜あ。猫扉、このまんまかよ。これじゃ、危なっかしくて、猫扉が、あっても散歩にも、行けやしねぇ。 「ただいま〜。作ろうと思ったら、オモチャ売り場で、いいもの見つけちゃった〜」 なんだかな…。一体、何を見つけたんだ? 「ジャ〜ン! これはね、踏むと音が出るのよ」 これって、幼児用の玩具だよな。 「順番に踏んでみて」 「 “あ”“い”“う”」 なんだ、こりゃ… 「どう、これで何とか、会話んなるハズよね」 バカなこと、考えやがる…猫と会話してどうすんだ? 千穂が話すのは勝手だけど、いちいち返事しろってのかよ。 「どう? いい考えでしょ〜」 「 “め”“ん”“ど”“く”“せ”“え”」 「わ〜通じた〜…って、キャッチ、口悪いのね」 大きなお世話だぜ。だいたい周りの人間の口が悪いから、そう覚えるんだ。俺の所為じゃねぇ。 「なんか、言いたそうですねぇ。せっかく、買ってきたんだから、お返事していただけますか?」 これから、いちいち、これで返事させられるのか? やっぱり出て行った方が正解だったかな。 「 “おれの”“せいじゃ”“ねぇ”」 「うわ〜凄い凄い。さっきより、踏むのが早くなってる〜」 これでも学習能力ってのは、あるんだよ。でなきゃ、人間の言葉なんぞ、誰が覚えるか。 「 “めし”」 「あ、ごめんね。お夕飯、まだだったもんね」 忘れんで欲しいな。 「はい、キャッチお気に入りの猫缶だよ」 …めんどうだがな… 「 “サンキュー”」 「キャッチ…うん!」 人間てのは…変な生き物かも、しれねぇな。 「ねぇ、キャッチ。ペットと一緒に泊まれるホテルとかって、行ってみたいと思いません?」 「 “きょうみ”“ねぇ”」 「そんなこと、言わないでさぁ」 なんで、ペットとなんだ? 友達とか、彼氏とか居ねぇのか? 「他に一緒に行く相手なんて、居ませんよ」 しょうもねぇな…って? えっ? あれ? 俺は踏んでねぇぞ。 「あれ? どうかしました?」 「みゃぁ〜」 「踏んでくれないと、判りませんってばぁ〜」 そ、そうだよな。脅かさねぇでくれよな。まったく。 「ね、行こうよ! 決まりっ!」 「 “いやだ”」 「え〜なんでですかぁ〜」 何でじゃねぇよ。だいたい俺は、千穂のペットになった、つもりは、ねぇんだぜ。 「そうか〜移動用の、籠とかも買わないと、いけませんよね」 ヲイヲイ、そう云う問題じゃないっつぅの。 「でも、旅行ってキャッチたち、猫さんにも楽しいんでしょうか?」 「 “のー”」 「わ〜凄いっ! 英語も出来るんですね〜」 この程度を英語と言うか。こんな機械じゃ、橋と端と箸の区別も、出来やしないのに、英語じゃ余計に区別つかんだろ。単に踏む数が、少なかっただけだ。 「そうですよね…キャッチたちには、景色が変わっても、気分転換には、ならないのかも、しれませんよね」 そう、寂しそうにするなよ。俺が苛めたみたいじゃねぇか。 「あんな、籠に閉じ込めて、運ばれるより…この辺を散歩してる方が、自由でいいのでしょうか…」 俺たちは従順には、出来てないからなぁ。犬みたいに、連れられて散歩する訳でも、ねぇし。 「そうですよね…私なんかと旅行に行っても、楽しくなんか、ないですよねぇ…」 お、おい…なんか、言葉が、判ると思って…泣き落としかぁ? はぁ〜、参ったねぇ。 「 “いく”」 「え…ホントっ!」 仕方ねぇだろ。ったく…俺が人間の言葉が、判るってバレたのは初めてなんだから。こう云う時に、どうリアクション取ればいいのか、判りゃしねぇんだよな。なんか、結局、泣き落としに弱い人間の男みたいで、嫌な気分だけどな。 「それじゃぁ、籠も買ってこないとねぇ。それにペットの泊まれるホテルも探さないと。あとは、電車のダイヤも調べないとね〜」 もしかして…これから、予定を立てるのか? なんだかな…やられたって感じだぜ。 「 “ねる”」 「えっ? 夜行性じゃないの?」 昼間、戸締りが心配で、寝ちゃいねぇんだからよ。寝かせろよ。 「でも、眠いときは、仕方ないよね。うん、お・や・す・み」 千穂が、学校から帰ってきて、俺は驚いたね。ちょっと遅いと思ったら、両手一杯の旅行のパンフレットを抱えて、帰ってきやがった。 「へへ〜7件も、旅行会社とか代理店回ってきたんだよ。結構、ペット同伴のホテルとかって、あるみたいでね」 …でも、同じホテルのチラシも、結構、混ざってるじゃねぇか。 「代理店の人の話だと、結構、不景気で、何かとホテルも大変なんですって」 そりゃ、そうだろう。最近、捨てられた猫とかも、事情を聞いたら、飼い主がリストラされたとか言ってた奴が居たもんな。俺みたいに野良でも生きていける奴が、千穂の世話んなってるのも贅沢かもしれねぇよな。 「やっぱり、どこも洋間よねぇ」 そんな、畳の部屋に、ペットなんか入れたら、後が大変じゃねぇか。畳の張替えと、カーペット敷き替えるんじゃ、手間が違うだろ。 「あ、和室だって。爪切りした猫なら、いいみたい」 冗談じゃねぇ… 「 “いやだ”」 「そっか。爪切るのは嫌だよね」 当たり前だろうが。自分で爪切る動物なんて、人間ぐらいのもんだろうが。まったく。 「ペンションとかもいいよね。でも、小型犬のみってのも、多いのね」 まぁ、やつらは、そうそう柱とかを、引っ掻いたりはしねぇからな。せいぜいクッションや座布団に噛み付く程度だろうし。 「決めました〜小型犬、猫オーケーのペンション」 なんか、決断力があると云うか、思い込みが激しいと云うか… 「もしもし、はい、予約したいんですけど…来週の…あ、満員ですか…判りました…」 来週って…千穂の学校が休みなら、世間だって、大体は休みなんだぞ。来週なんて、人気のある所は、大概満員だろう? 「うぅ〜ん、どこも苦しいって云うから、空いてるかと思ったんですけどねぇ」 そりゃ、閑散期に客が入らないから苦しいんだ。連休でも客が集まらないようじゃ、潰れるぞ。 「う〜ん、残念。今回は見送るしかないかな…」 そうガッカリすんなよな。この先、機会が無い訳じゃねぇだろうし。相手が、俺かどうかは別にしてな。 「 “げんきだせ”」 「うん…ありがとう」 なんで、猫が人間慰めなきゃ、ならねぇんだよ。かといって、千穂が滅入ってるのも、見たくはないけどな。 「ジャ〜ン! 今回は流れたけど、準備はと思ってね、首輪、買ってきたの」 げ〜っ。いよいよ、俺もそんなもんされるのかよ〜 「つけてるだけで、蚤が寄らないんですって。でね、聞いて聞いて!」 なんだか、妙に元気だな。 「お店のオープン記念の、くじ引きが、当たったの〜。一等宿泊券!」 何? それって、まさか… 「ペット・ショップの出す宿泊券だもん、キャッチも一緒に泊まれるんだよ〜」 はぁ〜、結局行くのか。でも、まぁ、千穂がこんなに嬉しそうにしてるんなら、行ってやってもいいかな。
で、どんな旅行だったかって? そりゃ、また機会があったらな。
|
|