■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

Hideland Hill 作者:凪沙 一人

第9回   Chimera
 多くの亡者が一つとなって、やがて見慣れぬ異形へと変わっていった。
「ちっ・・・塵も積もれば、ってやつか」
 亞門は左手に白銀の銃を取り出し引き金を引いた。だが、命中した場所の亡者の霊は浄化するものの焼け石に水。すぐに別の亡者が埋めてしまった。
「少しは考えて来たみたいだな。ならば纏めて消し去るまで」
 左手を翳したところで亞門は止まった。
「考えたな・・・この大きさを消そうとすれば、家の中の連中にも・・・ならば」
 亞門は装魔刀を抜いた。

「亞門を手伝わなくていいんですか?」
「用があれば奴が呼ぶ。呼ばれない限りは俺たちは何も出来ないんでね」
「そんな・・・」
「奴の力はあんなもんじゃない。それは俺たちが誰よりも判っている」

「亡者というか・・・もはや悪霊だな。ベルゼブブ・ルキフェル・アディロンソリモル・サロイル・セロイ・アメクルロ・セグラエル・プラレドン・アドリカノムル・マルチロル・チモン・カメロリアル・フォルシン・フベルトロリティル・ベルゼブブよ、来たれアーメンッ!」
 亞門の召喚に答えて羽に髑髏を描いた蝿魔王が姿を現した。
「ベルゼブブっ、そっちは頼む」
「ほう、随分と纏まったもんだな。まぁ、死霊、悪霊・・・操られているうちに善悪混濁してしまったとは不幸な。地獄送りだけ分離するのは面倒だが・・・契約者がお前では仕方あるまい。纏めて引き取っていくぞ」
「チッ・・・消滅させずに冥界にあの数の霊を送り込む・・・こんな手を使うとはな」
「やっと姿を現したか、ネクロマンサー」
「あぁ。こっちも用意が出来たのでね」
「ベルゼブブ、後はこっちでやる。手間掛けたな」
「契約だからな」
 ベルゼブブは亡者の塊を連れて冥界へと帰って行った。そして、そこにはまたも異形の姿があった。だが、これは亡者ではなかった。
「まさにデッド・ストックか。よくストックがあったな」
「フッ、こっちも必死だよ。貴様を倒さねば、こちらの存在価値が失われるんでね」
「存在価値? それはソウル・メイカーにとってのだろ?」
 それには答えずに苦笑するしかなかった。ネクロマンサーの用意していたのは魔物の魂を寄せ集めたソウル・キメラとでも呼ぶべきものだった。
「そうか・・・いくつか封印されし魂をも取り込むのに時間が要ったのか・・・」
「出来ればブレイザーと一緒に封印されたフリーザーの魂も取り込みたかったんだが、さすがに無理だったよ」
 亞門が封印したのだから今後数年や数十年で解けるものではない。ネクロマンサーは手持ちの天国へも地獄へも行かれぬ彷徨える魔物の魂を集めたのだった。亞門は装魔刀と白銀の剣を左右に持って身構えた。
「こいつを片付けたら、すぐに貴様の相手をしてやるからな」
 そうは言ったがソウル・キメラの体力は無尽蔵と言っていい。長引けば不利である。瞬間的に周囲を飛び回り攻撃をかわし続けた。
「逃げてばかりでは疲れるだろう」

「亞門・・・大丈夫でしょうか・・・」
「あいつは逃げてばかりいる訳じゃないからな」
「えっ?」
 セラフには亞門が何をしているか見えていなかった。しかしカイムからすれば、このくらいの距離は目の前と変わりがない。
「あいつからすれば相手が亡者より魔物の方が躊躇いがない」

 カイムの言葉通りだった。亞門はソウル・キメラの周囲を飛びながら無数の呪文、呪符を刻み付けていった。その数が増えるにつれてソウル・キメラの動きは徐々に鈍っていた。そしてキメラとしての結合すら崩れ始めていた。
「やってくれる・・・」
「凝ったつもりらしいが、生憎だったな」
 装魔刀を一閃すると刻まれた呪符が反応しソウル・キメラは完全に動きを止めた。そこへ白銀の剣を投げつけると分離が始まった。一匹、また一匹とキメラを成していた魔物の霊が剥がされていく。こうなると普通の魔物の霊にすぎない。浄化するのにそれほどの手間は掛からなかった。
「ネクロマンサー、これで終わりか?」
「これで打ち止めだ・・・相手が悪すぎたな。御子神亞門、LOSTの天敵のような奴だな・・・。それで、どうする?」
 亞門は装魔刀で空中に紋章を描いた。
「それだけか?」
「これだけだ。お前の心臓に死霊避けの紋章を刻んだ。これで一生、死霊を扱うことは出来ない」
 ネクロマンサー・・・だった男は苦笑した。
「これで俺もお払い箱だしな。後のことは、まぁ頑張れ・・・グフォッ」
 心臓に死霊避けを刻まれた男は吐血してその場に倒れた。すでに顔には血色がない。
「・・・どういうつもりだ?」
 亞門の視線の先に居たのはソウル・メイカーだった。
「だって、用済みだしね。一応、自己紹介しておこうか。Lord Of Soul Thirteen・・・のソウル・メイカー、アルケミストのアクレイスター=スカルクロイツ。だいぶメンバー減っちゃったんだけど君、LOSTに入らない?」
「寝言は寝て言え」
「じゃ、そうさせてもらうよ。帰って寝ようっと」
「いいのか・・・奴をこのまま帰して・・・」
 家から出て来たカイムの質問に亞門は視線を落とした。
「今はネクロマンサーを葬ってやる方が先だ」
 結局、急病という扱いでネクロマンサーだった男はこの町の教会に葬られた。ただ、身元を証明するものが無かった為に縁者無き者として。
「アーメン・・・でも、この人の魂の行き先は天ではないのですね・・・」
「そいつは俺の管轄じゃないからな。シスターとしてこの街に残るか?」
「いえ、まだ修道会からは予定変更は入っていませんから」
 二人はこの街をあとにした。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections