ようやく二人は目的の街に辿り着いた。だが休んでいる暇はない。この街にはソウル・イレイザーのネクロマンサーが隠れているハズなのだから。セラフも疲れているだろうが、これだけ時間があったのだから相手も何かしら策は立てているだろう。迂闊に宿屋に行かせる訳にもいかなかった。 「カイム、奴の居場所は墓場だったな?」 「あぁ。確かに奴は居るんだがゾンビの気配はない。っていうか別の気配があるんだけどな」 「今回は本気だということだろ。セラフ、大丈夫か?」 「だ、大丈夫れふ・・・」 溜息を吐き出すと亞門は首を横に振った。 「ソラス、目立たない程度のを一軒、頼む。カイムは街の方を。ホラスはセラフを診てやってくれ」 「亞門、お前は?」 「会いたい奴がこの街に居るんでね」 それだけ言い残して亞門は何処かへ行ってしまった。
かなり大きなターミナルシティである。人も物も集まってはくる。だからと言って会いたい相手がやってくるとは限らない。だが亞門はその相手が居ると確信していた。亞門が訪れたのは小さな教会だった。派手な大聖堂とは異なり質素な作りである。扉を開ける音が軋んでいる。 「さすが亞門だね。すぐここが判ったかな?」 中では金髪碧眼の青年が待っていた。別に約束をしていた訳ではないが、間違いなく亞門を待っていた。 「あのセラフって娘を修道会に引き取らせろ」 「いきなり本題か。久々の再会だというのに・・・」 「俺の用件はそれだけだ。俺には足手纏いでしかない」 「つれないねぇ。返事はノーだ」 「それなら、奴等の相手をお前がするか?」 「LOSTの? おいおい、僕等は導くだけで直接人間に手出しは出来ないってことは知ってるだろ。君には彼女一人くらい、ハンデにもならないと思っているんだけどな」 「フッ・・・どこへ導こうとしているか知らないが人は人の道を歩む」 「誤まった方向へ進まぬように導こうとしているんだけどね」 「それにしては、だいぶ歪んで進んでいるように思うが?」 「痛いね・・・それは認めよう。だから君のすることも認めよう。君は強大な力と、それに匹敵する心の強さを持っている。多くの人間が力と引き換えに心を失うというのにね。彼女はいずれ君の役に立つハズだよ。もう少し成長が必要だけれどね。それまで面倒を見てやってくれ」 青年は白い翼を広げ、教会に差し込む光の中へ飛び立った。 「待てっ、何しに降りてきたんだっ?!」 「君に直接、彼女を頼むと言いに来ただけさ」 声だけを残して気配も消えた。もう青年はこの場には居ない。 「ちっ・・・わざと俺にだけ判るように待っていたくせに、頼むと言いに来ただけ? あいつが役に立つとは思えんがな・・・」 亞門が外へ出ると、そこには無数の亡者が待ち構えていた。 「随分と数を揃えたな」 「つい今しがたまで強力な聖気が溢れていたので、こいつらが近づけなかったんで外で待たせて貰ったよ」 それは声だけだった。本体の気配はない。この場に居るのは亡者だけのようだ。亞門は呆れたように白銀の剣を抜くと亡者の群れへと突っ込んだ。襲い来る亡者を物ともせず切り払う。払われた亡者の魂は浄化されて消えてゆく。これが時間稼ぎなことは明白だ。それに付き合うつもりもない。最短ルートを選択し正面の亡者だけをなぎ払って進んだ。天界、魔界、地獄の霊を操ることを封じられたソウル・イレイザーにとっては現世に留まっている霊を集め物量攻撃でしか時間の稼ぎようがなかった。亞門は亡者の群れから抜けると振り向きざまに左手を翳し亡者を消し去った。360度取り囲まれた状態と違い、これなら一方向。周囲に掛けるより亞門にとっては楽だった。そして亞門はセラフを休ませる為にソラスの建てた家へと戻った。
「詠唱破棄ね・・・詠唱中を狙うって訳にもいかないし手駒は・・・」 ネクロマンサーにとっては厄介な状況だった。呼びたい霊が呼べない・・・。 「おやおや、大丈夫かな?」 「ソウル・メイカー・・・」 「君は、まだ僕の出来ない事が出来る・・・だから僕としては勝って欲しいんだよね」 「まだ、か。貴様がこの術を覚えたら用はないってことだな」 「そりゃそうさ。だから今のうちは頑張ってよね。じゃぁね、応援してるよ」 それだけでソウル・メイカーは姿を消した。手伝う訳ではない。元々LOSTに協力関係などないのだから当たり前なのだが。
家の周りを注意深く監察したが、どうやら亡者もゾンビも気配はない。 「亞門、おかえりなさい」 「変わったことは?」 「何もありませ〜ん」 良くも悪くも隠し事は出来ないようだ。たとえ隠し事をしてもバレてしまうのだから意味はないが。調子の心配はしない。ホラスが診たのなら悪いハズがない。 「カイム、街の様子は?」 「平穏そのものだな。街がデカイ分、多少利権もありそうだが聖職者たちが真面目に務めを果たしているから奴が今扱える手下でどうこう出来る状況じゃない。逆を言えばそれだけ霊界封鎖されたのは痛手であり、お前が邪魔になってくるだろうな」 「そうか。俺が来るまで奴が居た・・・大きな動きは出来なかったろうしな」 「奴? あぁ・・・」 セラフには意味不明だったが二人にはそれで通じていた。 「なんか秘密ですかぁ?」 「・・・お前のところのTOPだ」 「枢機卿ですか?」 「もっと上の奴だ・・・どうやら向こうも痺れを切らしたらしいな」 セラフが首を傾げている間に家の周りには亡者が蠢いていた。 「どうやら魔力の兵糧攻めってとこか? 物量作戦でお前を倒せるとでも思っているのかねぇ。どうせなら先に用意していた奴を出してくれば手間が省けるのに」 カイムの言う用意していた奴、それが出てくるまでの魔力より体力の消費と時間稼ぎというところだろう。 「俺がここに戻るのを待っていたんだろうが・・・無駄なあがきだな」 亞門は外へ出ると白銀の剣を取り出した。すると待ち構えていたかのように亡者たちは一箇所に集まり始めた。そして、やがてそれは一つの形を成していった。
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