装魔刀・・・その名が示す通り、魔を装いし刀である。俗に呼ばれる妖刀などというものではなく魔力を持った刀である。 「なめるなぁっ」 ブレイザーの怒りが炎となって亞門に襲い掛かる。が、装魔刀をかざしただけで涼しい顔をしていた。間髪を入れずフリーザーの凍気が亞門に襲い掛かる。が、結果は同じだった。先ほどまでの剣であれば、その温度差で破壊されていたかもしれない。だが装魔刀は違った。刀そのものには炎も凍気も届いてはいない。 「炎も凍気も届かない。空にも逃げ場はない。その爪牙も通用しない。貴様等に勝機はあるまい?」 攻め手を奪われた格好の竜人たち。だが狼狽している訳ではなかった。そして諦めた眼もしてはいなかった。それは亞門にも判っていた。 「御子神亞門、貴様は不思議な生き物だな。それだけの力があれば天下を狙いそうなものだ」 「天下? そんな小さな物には興味はないんでね」 一瞬、姿を消したかと思うとブレイザーの背後に現われ一撃で気絶させた。 「どういうつもりだ?」 「貴様の方が話しは出来そうだからな」 間合いなど意味はない。それはフリーザーにもハッキリしていた。打つ手はないか。 「それで、何の話し合いだ?」 「二つに一つ、LOSTから蟄居してもらうか俺に封印されるかだ」 「蟄居か封印? 甘いのではないか・・・ここで生かしておけば我等は貴様より遥かに長き寿命を持っている。また復活して人間に仇なさんとも限らんぞ?」 「その時は奴が・・・なんとかするだろ」 「奴? あぁ、修道会の・・・そうか・・・そうかもしれんな。だが、まだ引き下がるには早すぎるんでな」 そういうとフリーザーは自らの胸に拳を突き立てた。傷口から噴出した氷のように冷たい血が気絶しているブレイザーの上から注がれた。 「つ、冷てぇっ」 眼を冷ましたブレイザーは、その全身をフリーザーの血に染まっていた。 「兄者っ・・・兄者ぁ〜っ」 すでにフリーザーは事切れていた。 「貴様か・・・貴様が兄者をっ!」 怒りに任せたブレイザーの攻撃に亞門も大きく下がった。その手には深紅の竜戟が握られていた。 「亞門っ」 「判っている」 さすがに声を掛けたイポスだが亞門も承知していた。竜の血を浴びた者は不死身の体を手に入れる。昔から言われてきたことだ。そんなことは百も承知していた。そして亞門にとってはブレイザーが不死身となったからと言って何も状況は変わってはいなかった。 「この竜戟から逃げ切れると思うなっ」 無尽蔵に繰り出される突きだが亞門は涼しい顔で躱していた。 「無駄だ。貴様の防御は鉄壁になったかもしれないが攻撃に関しては何も変わっていない。貴様に俺を捉えることは出来ない」 「黙れ黙れ黙れっ体力的には俺の方が上、貴様を疲労させれば勝機は来るっ!」 どうやらフリーザーの血を浴びたことにより知識も上昇したようだ。いや、フリーザーがブレイザーを守ろうとしているのか。ともかく竜人の方が人間より体力が上、それは紛れも無い事実だ。 「ならば、こちらの体力が尽きる前に貴様を封じるまでっ」 しかし不死身の体となったフリーザーには装魔刀といえど簡単にはいかない。狙いは封印。それは変わらない。もともと殺す気はないのだから不死身でも構わないのだ。問題はどうやって封印できる場所へ追い込むか。時間と共にフリーザーの体が大きくなっていた。それは亞門も気づいている。時間が経てば経つほど不利になる。それも判っている。だがセラフの守りを外す気はなかった。 「さすがにソロモン王の指輪は持っていてもニーベルングの指輪は知らないか?」 不意な声だった。だが声の方を向いてはいられない。ブレイザーから視線を切る訳にもいかないからだ。声は更に続いた。 「竜の血が不死身をもたらすといえど、掛かった場所だけ。奴の体の大きさなら口から貫いてやれば勝てるだろ。あまり時間を掛けていると竜人じゃなくて竜になるぞ」 「部外者は引っ込んでいろ。倒すならそうしているっ」 瞬間移動を繰り返しブレイザーの攻撃を避けてはいるが糸口が見つからないでいた。 「なるほどね・・・倒す気はないか。イポス、今度の主人は難儀な性格のようだな」 「そうかな? 僕は好きだよ」 イポスの返事に声の主は苦笑した。 「悪魔にも好かれる男か。面白い、手伝ってやるか」 「余計なことすると怒るよ」 「亞門が負けることはないけど・・・このままじゃ倒さないって希望は叶いそうもないからな」 声の主は亞門の背後へ飛び出すと背から抜いた木刀を一閃させた。するとどうだろう、ブレイザーの動きが止まった。 「今のうちに封印しろっ」 亞門が装魔刀を縦に一閃すると大地が裂け、身動きの取れないブレイザーとフリーザーの遺骸は飲み込まれていった。更に横に一閃すると再び大地はその口を閉じていった。そして閉じた大地に亞門は装魔刀を以って巨大な魔法円を描いた。 「その木刀・・・イグドラシルか?」 「御名答。北欧神話に登場する宇宙樹イグドラシルの枝から作った唯一の木刀、それがこの銀河だ。相手が結構大きかったんでね。俺の力を増幅するのに使ったけど。今日は偶々俺が通りかかったけど今度、こんな事が起きたら知らないぜ」 亞門としては面白くない相手だった。 「貴様も奴の回し者か?」 「奴? あぁ、修道会の彼か。もし、そうならカイムから君の所に報告が来るハズだろ? 俺は彼とは関係ない。っていうか、彼とは君同様相容れない存在かもしれないけどね」 明らかに亞門とは異質の能力だった。 「そうか・・・そうだろうな。取り合えず今回は礼を言っておく。だが俺の向いに立つことがあれば・・・」 「そうだな。覚えておくよ」 「待て」 立ち去ろうとした男を亞門が呼び止めた。 「名前くらいは名乗っていけ」 「名前ねぇ・・・風切星司、そう覚えておいてくれて結構」 次の瞬間、突風が吹いたかと思うと星司の姿はどこにもなかった。 「どうする、奴のこと・・・探るか?」 「いや、いい。いずれ会うことになるだろうしな」 カイムの問いに亞門はそう答えると再び次の街へ向けて歩き出した。
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