亞門は当初の目的たる街に向っていた。つまりゾンビを操っていたネクロマンサーの居る街である。しかし、その道中が安全である訳もなかった。LOSTはいまだ翳での動きとはいえ、亞門からすれば、それは翳であって翳ではない。だからこそ危険性は承知している。ましてセラフを連れての旅となると自分の身を守ればいいだけではない。だからといってセラフのことを放置しないからこそ、修道会も亞門にセラフを任せたのだろう。
一方でLOSTとしても本気で亞門を止めねばならぬ状況だということは否定出来なくなっていた。 「参ったねぇ。神も悪魔も恐れぬ男ってだけのことはあるね」 「感心している場合じゃないっ」 「それは僕も承知してるさ。君たちがこれほど頼りないって方が想定外だよ」 ソウル・メイカーの言葉にソウル・ブレイザーは憮然とした。が、それ以上は何も言わない。それはソウル・メイカーの実力を承知しているからでもあった。 「次は我等兄弟が出向く」 それはブレイザーの兄、フリーザーだった。 「そうだね。この際二人掛りでも仕方ないかな。君たちのレベルじゃね」 ブレイザーの怒りを煽るメイカーを無視するようにフリーザーはブレイザーを連れて、その場を後にした。 「ソウル・メイカー、確かに貴様はLOST最強かもしれないが我等に上下関係は存在しないハズだ」 「動かぬ魂・・・ソウル・ホールドか。確かに立場に上下はないけど実力の上下はハッキリしているハズだろ? どうやら個々で当たっていても仕方ない気がしてね。ならば序列をハッキリさせて組織だって当たる方が賢明だとは思わないかい?」 「ならば、そう言えばよいではないか?」 「・・・僕って口下手なんだよねぇ・・・」 ソウル・メイカーは薄笑いを浮かべて立ち去った。
「兄者っ、なぜ奴の横暴を放っておくっ?!」 「我らで御子神 亞門を倒す。それが出来ればソウル・メイカーとて倒せるハズだ。そうすれば我等兄弟がLOSTの頂点に立つ」 「おぉ、なるほど。さすが兄者だ」 LOSTは一枚岩でもなければ仲間意識もない。そして獲物である人間も墓場も無い場所では活動をしない。だが結束は固く助け合うこともなければ裏切ることもない。この暗黙の了解が亞門の存在によって崩れ出していた。
「何をしている?」 せっせと何かを書いているセラフを目に止めて亞門が声を掛けた。 「ハイッ、修道会への報告書です。毎日提出なんて面倒なんですけどね。でも郵便代もお手当てに入ってますし」 笑顔でセラフはそう答えた。この時代にに郵便などという報告手段も何だかという気はしたが口には出さなかった。別に報告されて困る事もなかった。修道会は亞門の能力は承知しているハズだからだ。 「でも、交通費は打ち切られちゃったんですよぉ。御一緒してから徒歩だから」 「下手に電車や車を使って巻き添えを作ると御免だからな」 実際、LOSTも場所を選んでいるとは思えなかった。むしろ、これからの方が危険性は増すと思われる。 「御子神さんって優しいんですね」 「亞門でいいと言っただろ。くだらない事を言っていうrと置いていくぞ」 「それは困ります〜」 セラフは書き上げた報告書を封筒に入れると慌てて筆記用具を荷物にしまい込んだ。宿を出るとあまりいい天気とは言えない。 「なんか、どんよりどよどよですねぇ」 確かに、どんよりとした曇り空だが・・・。 「少し急いでここを離れたほうが良さそうだな: 「え、また襲われるんですか?」 「そういう事だ。バシンっ!」 瞬間移動を得意とする魔界の大公爵。亞門たちを移動させる事くらい簡単なことだった。 「え、あの、あれ?」 「そうか、瞬間移動は初めてだったな」 「これ、普段の移動には使えないんですか?」 「大公爵クラスになると、軽軽しく喚ぶのもな。別の魔法陣でも移動は出来るんだが、それはお前が通れない」 「へぇ・・・色々と面倒なんですねぇ」 「そうだな。面倒なのはこいつ等もだが」 亞門が上空を見上げると二つの巨大な翼を持った影が舞っていた。 「氷炎の双竜・・・ソウル・フリーザー、ブレイザーだな」 「ほう、よく勉強してるじゃないか。俺たちドラグナイト・ブラザースに始末されることを光栄に思うんだな」 ブレイザーの言葉に亞門は少々呆れていた。 「今日は魔法陣描かないんですか?」 「相手が相手だからな。今日は・・・イポス、こいつを頼むっ」 亞門の声に呼応するように絵に描いたような白馬の王子が現われた。 「なるほど、竜を相手にするのなら僕が適任かな。お嬢さん、安心してください。爪1本触れさせませんから」 「・・・はい」 「僕、天使の姿にもなれますけど・・・悪魔だからね」 亞門が喚んだのだから判ってはいたがセラフは少々ガッカリだった。悪竜や悪者退治を得意とする騎士団の王子、それがイポスだ。白魔術専用とはいえ悪魔は悪魔である。 「これでセラフはいいな。さぁ、相手をしてやるよ」 亞門は空に向って身構えた。相手は空を飛び炎と氷を操り二人掛りときている。一見すれば亞門が不利そうだがイポスは手を出す気配すらない。 「いいんですか?」 「僕は貴女を守る為だけに喚ばれたのだからね。余計なことをすると彼が怒るしね」 そう言ってイポスは悪戯っぽく微笑んだ。 「それに奴等の狙いは俺だけだ。イポスの傍に居れば問題ない」 亞門は右手に白銀の剣を持ったまま、左手に白銀の銃を持ち上空の相手に威嚇射撃をした。この距離で当たってくれる相手ではない。 「貴様など地を這って逃げ回るしか出来まいっ」 ブレイザーの炎が亞門目掛けて飛んでくる。が、そこに姿はなかった。 「上だっ」 兄の言葉で上空からの攻撃を間一髪ブレイザーは躱すことが出来た。 「すまねぇ」 「油断するな。奴はソロモン王の秘宝とアブラメリンの神聖魔術を扱う・・・ゲーティアさえ扱える男だということだ」 ゲーティアは禁断と言われた魔道書。その存在も知る者は少ないかもしれない。 「フッ、さすがに竜を相手に銃や剣では分が悪いか」 亞門は白銀の得物を収めると、一振りの日本刀を取り出した。 「結局剣ではないか」 ブレイザーの爪が振り下ろされた。亞門が抜刀すると爪を受けるのではなく切り払った。 「うぎゃぁっ」 「だから油断するなとっ」 「俺の装魔刀に断てぬ物など存在しない」
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