亞門は達は、すっかり黒猫連れた男女二人連れとなってしまった。特に不満がある訳でもなかったがあまり機嫌が良くもなかった。原因の一つはセラフの性格にもあるのだろうが。 「御子神さん、あの・・・」 「亞門でいい」 「あ、はい・・・」 それ以上セラフの言葉は続かなかった。セラフとしてもやり難いのだろう。シスターとして悪魔を操る者と同行するというのは。それでも、明るさは失わない所はセラフの強さであり鈍さかもしれない。 「で、何の用だ?」 「い、いえ・・・」 口ごもってしまった。それ以上、亞門も追求はしない。する気もない、というよりどうでもよかったのかもしれない。亞門がセラフを同行させるのは監視されているのが面白くないからであり、セラフが同行するのは修道会の指示によるものだ。修道会の指示にしては妙な指示ではあるが。 「亞門、次はどうするんだ?」 カイムとしても次の情報は掴んでいても、それをどう使うかは亞門次第である。 「SOLTは一枚岩でもなければ仲間意識もない。そして得物である人間も墓場も無い場所では活動をしない、だったな?」 「そうだ。だが、結束は固い。助け合うこともないが裏切ることもない」 それはそれで面倒が少ないかもしれない。助け合うことがないのなら、その相手だけを考えればいいのだから。
「やはり、200年以上も昔のソウルってのは進歩がないねぇ」 リッターの敗北を知ったLOSTの一人はそう言った。 「だってそうだろ? 恐怖を教えるとか言っていたけれど相手を舐めすぎだよ。あの御子神亞門だろ? 神も悪魔も恐れぬ男が古臭い幽霊なんか恐怖する訳ないじゃん」 「ならば貴様が行くか、ソウル・メイカー?」 「嫌だなぁ、奥の手は最後まで取っておくもんだよ?」 「貴様っ!」 「待て、ソウル・ブレイザー」 喰って掛かろうとしたソウル・ブレイザーを別の一人が止めた。 「次はわしが行くとしよう、このソウル・クレイドルが」
亞門達の行く手に巨大な寺院が見えてきた。 「あれ? こんな所に寺院なんてあったかなぁ・・・?」 セラフからすれば見慣れない作りではあるが、宗教や宗派が違えば作りは変わる。まして土地が変われば建築様式とて一様ではない。 「待っていたよ、御子神 亞門」 寺院の扉が開き、出て来た老人はそう言った。 「ソウル・クレイドル、元プリーストの・・・」 「その先はよい。LOSTに加わった時から人としての名は捨てた。今はソウル・クレイドル、そのものがわしの名だと思ってくれ。それにしても、さすがだな。よく調べている」 「確かな情報源を抱えているんでね」 魔界の諜報長官カイムが居るのだから、これ以上確かな情報源は無いかもしれない。 「その情報を記憶し、整理、分析、処理する君の頭脳、賞賛に値する。だが君のような人間は稀有だ。誰でもが君になれる訳ではない。アブラメリンの神聖魔術をその年齢でマスターしただけでも奇跡的なのに、ソロモン王の秘宝まで手に入れたとなると、これは努力などではどうにもならない才能であり運であり選ばれた者としか言いようがない」 「何が言いたい?」 亞門はクレイドルの出方を待った。 「わしは疲れ切った人々の魂のゆりかご・・・ソウル・クレイドル。君のように強い人間ばかりではない。心の弱い人々のゆりかごなのだよ。それを何故邪魔をする?」 「貴様の思想が悪いとは言わないが方法論が間違っている。人の魂を現世と切り離すのがゆりかごか?」 「どうやら君にとっては、わしと殺人鬼は変わらんらしいな」 「当たり前だ」 亞門は即答した。人ならざる者が人に仇なすことも許せないのに人が人に仇なすなど亞門にとって許せるものではなかった。 「どうやら話し合っても平行線のようですな。もう少し人の話を聞くものだ」 「人、ならばなっ」 懐から取り出した短剣が空を切った。 「まだ、人ですよ。本体は生きてますからね」 生霊、と呼ぶべきだろう。だが霊であれば亞門の範疇である。どうせ知られているのであれば隠す必要もない。 「あまり長く離脱していると霊糸が切れるぞ」 「どうせ長くはみたない身です。気にしませんよ」 「世の中、諦めが肝心とは限らないっ」 その言葉の意味を図りかねたが、それも一瞬のことだった。 「な・・・ばかな・・・うぐっ・・・な、なにを・・・」 そう言いながらもクレイドルの姿は薄れ、やがて消えていった。 「行くぞっ」 「え、どこへですか?」 「本体の所だ」
町の小さな診療所。そこにクレイドルの本体が居ることはカイムが調べてあった。だが、そこに人間の医者の姿はなかった。 「ホラス、手間を掛けたな」 「この程度、魔界一の名医に掛かれば簡単なものだ」 「フッ、人間の生死まで操るか・・・。勝手なものだな」 人間としてのクレイドルは普通の老人であった。 「別に貴様等のように生きられる人間を死なせたり死んでる人間を操ったりはしていない。助かる人間を助けたにすぎない」 「だが、助けられた人間にとってそれが幸せかどうかは判らんぞ」 「それが元プリーストの台詞か?」 そう言われてクレイドルは苦笑した。 「そうだな。しかし、そこに疑問もなければLOSTなどに身を投じてもおらん」 「ダメですよ。死ぬ為に生まれてくる人なんて居ないんですから。幸せ探さなきゃ」 クレイドルは大きく溜息を吐いた。 「フゥ・・・孫ほどの子たちに説教をされるとはな。まぁ身体が治ったとなると命が惜しい気もする。それで、どうするね? 警察に突き出すか?」 「そいつは俺の仕事じゃないんでね」 「もう失職されているので私にも報告義務はありませんし」 「甘いのぉ・・・これも慈悲と思うとするか。礼をしたいところだが、情報なんぞは全て掴んでおるのだろ?」 亞門は無言で頷いた。 「ならばシスター、これを差し上げよう」 クレイドルはセラフにロザリオを渡した。 「安心しろ。魔術も呪いも掛かっていなければ盗聴機や発信機なんぞも付いとりゃせん」 そう言われて逆に不安になったセラフが亞門の方を見ると、軽く頷いたので安心して受け取った。 「道中、気をつけてな」 「はいっ」 セラフが元気に返事をするとクレイドルはプリースト時代の優しい笑顔で見送った。
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