亞門が訪れたのは小さな観光地だった。巨大な観光施設がある訳ではなく風光明媚な景色が売りなのでホテルにしても景観を損なうような大きなものではない。 「珍しいな、ホテルに部屋を取るなんて」 「こんな町だからな。館を建てて景観を崩すのも悪かろう?」 「俺は景観を崩すような建物は建てんがな」 ソラスからすれば不満そうだが、確かに見事な自然の景色であった。なのでカイムは館を建てない事には納得していたのだが、納得のいかないこともあった。 「何故、この町なんだ? この町にLOSTの気配は無かったハズだろ?」 「だから、だ。あのセラフって子は修道会の指示で動いている。そして何故、俺の行き先に現れる?」 「LOSTを追っているか・・・」 「俺を追っているか、だ。それがどちかは・・・」 「ここに現れるかどうか、か」 「それに、お前が調べて判らないってことは、あの修道会の背後に居るのは・・・アイツだ。それが、あんな小娘を使っているってことは・・・」 「獅子身中の虫を抱えているってことか・・・」 突然、部屋の扉がノックされた。カイムが扉を開くとそこには肩で息をするセラフの姿があった。 「ハァ、ハァ、やっと追いついた・・・」 「・・・これで決まりだな。追っているのは俺か・・・」 「な、なんのことでしょう?ハァ、ハァ、あ、あたしは修道会からここへ来るように・・・ハァ」 「修道会ね・・・お前の会ったことの在る一番上って誰だ?」 「え・・・枢機卿ですけど・・・」 それを聞いて亞門は軽く頷くと部屋の奥へと行こうとした。 「あの・・・修道会から、ここからはあなた達に同行するようにって・・・」 「アイツ・・・押し付けか・・・。まぁ手元に置いといた方が余計なことをしなくていいか。だが、俺たちと一緒に行くってことが危険なのは理解しているな?」 それを聞いてセラフは修道会からの手紙を広げて見直した。 「あの・・・こ、ここには御一緒するのが一番安全だからって書いてあるんですけど・・・」 亞門は溜息を吐いた。カイムはといえば呆れていた。その理由がセラフには判らない。そもそも、シスターに悪魔を扱う亞門と同行しろという修道会も如何なものか。セラフ自身は何も疑ってはいないようだが。
「ほう・・・このLOSTの存在に気づいた者が居るか・・・それも二人・・・」 ネクロマンサー。ゾンビを操りし陰の存在。 「まぁ、修道会の奴は正体が人間じゃないからな。だが、直接我々と事を交える訳にもいかない立場だ。厄介なのは・・・御子神 亞門」 自らの配下のヴァンパイアを倒されたマスターも、同じ思いでいた。 「ソウル・イレイザー、ソウル・イーターが手玉に取られたとあっては無視しいてる訳にもいくまいな」 手玉という表現には不満があったが亞門に邪魔されてしまったのは事実。二人とも反論は控えた。 「それでは、ソウル・シェーカーのお手並み拝見といこうか?」 「フッ、恐怖というものを教えてやるか」 そう言い残してソウル・シェーカーと呼ばれた男はスッと姿を消した。
不意にカイムの耳が動いた。 「どうやら向こうからお出ましのようだ」 「忙しないな・・・というより、向こうも俺が邪魔になってきたってことか」 亞門はセラフの周りに悪霊避けの魔方陣を描いた。 「今回の奴はこれで防げるハズだ。片付けてくるからそこに居ろ」 セラフを一人残して行ってしまった。 「また置いてけぼり・・・でも行っても何も出来ないしなぁ・・・。なんで私が選ばれたんだろ・・・」 そう、セラフィーヌ・フローレンは修道会の枢機卿によって選ばれた、と思っていた。実際に選抜したのは、もっと上なのだが。亞門たちはそれが誰なのか気づいているようだ。その修道会で新人シスターが枢機卿に呼ばれるなど珍しいことだったので周囲でも色々と言われたがセラフは気にもせず亞門の元へと旅立ったのだった。
亞門たちが着いたのはまたも墓場。それもペット・セメタリーだった。しかし漂う気配は低俗な動物霊ではない。動物霊には違いないのだが異質なものを感じていた。 「どうやら、掛かったな・・・」 亞門・・・の姿をした男は呟いた。
ホテルのセラフの周りではラップ音や異様な揺れが続いていた。 「なんなんですかぁ〜」 やがては雑貨が飛び始め家具さえ動き始めた。 「さすがポルター、騒がしいな」 これだけの揺れをものともせず普通に亞門は立っていた。 「なぜ・・・貴様、ペット・セメタリーに誘き出されたんじゃ・・・」 「手に乗ったと思わせた方が出てくるのが早いと思ったんでね。ダンタリアンに身代わりをさせた」 誘き出したと思わせて誘き出されたのが自分だというのは面白くなかった。 「“騒がしい幽霊”が“騒がしい”だけの“幽霊”だと思うなっ」 雑貨が床に落ち家具が静まると妖しげな気配は実体化した。それは中世の甲冑のようでもあった。 「ソウル・シェーカー、ガイスト・リッター。そこいらのポルター・ガイストと一緒に考えると痛い目を見る」 「魂を揺さぶる幽霊騎士か。だが幽霊には違いあるまい」 亞門も白銀の剣を抜く。一見すると騎士に剣で挑むのは不利そうでもある。が、亞門の剣の腕はリッターに遅れをとるものではなかった。 「やるな・・・」 「魔界にも腕の立つのが多いんでな」 次の一閃がリッターの鎧を切り裂いた。本物の金属ならいざ知らず霊的なものであれば術の刻まれた剣を防ぎきれるものではない。 「この神の手先めが・・・」 「誰が何の手先だ? そいつは、そこの女の親玉に言ってやれ・・・ここで地獄に落ちる貴様には無理な話だな」 次の一撃がリッターを貫いた。 「なぜ・・・ならば、なぜ我等の邪魔をする・・・」 「そいつは、貴様等が人に害を成すからだ・・・」 その返事を聞き終える前にリッターの姿はこの世からは消えていた。 「俺は・・・人間だ・・・人ならざる者から人を守る・・・それだけだ・・・」 その言葉はセラフには自分に言い聞かせているようにも聞こえていた。 「あ、ありがとうございます・・・」 「気にするな。こちらも囮に使ったんだしな」 「え、あ、ひど〜い・・・」 膨れるセラフを尻目に亞門は次の街へと向う準備をした。
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