「おい亞門、ネクロマンサーはこの街じゃないだろ?」 魔界の諜報長官の異名を持つカイムには前の村で逃したネクロマンサーの足取りを追うことなど造作もなかった。それを承知の上で亞門は別の街にやってきていた。 「見張りはつけてあるしな。それに、死後の世界は今の奴の自由には扱えん」 「だが泳がしておいても、何も出ないだろ?」 「出るか出ないかは、これからだ。それより変わった噂がないか調べてくれ」 「フッ・・・了解」 いつも通り、カイムは黒猫となって街の中へ駆け出して行った。それを見送って亞門は街外れの家へと入っていった。 「亞門、こんな小さな家でよかったのか? もっと、でっかい屋敷だって・・・」 「いいんだ、ソラス。長いをする気もないし目立つのも拙いしな」 魔界では土木の天才王子と呼ばれるソラスにとっては物足りない仕事ではあったが契約者がそう言うのであれば仕方ない。その姿をカラスへと変えて飛び立った。
「ハァ、ハァ、修道会ったら何でゾンビ使い追わないで、こんな街に行けなんて、ハァハァ」 「おやおや、お疲れのようだねぇ」 覚えのある声にセラフが辺りを見回すと見覚えのある少年が立っていた。 「カ、カイムさん?」 「どうやら人の顔と名前の覚えはいいようだね。ま、人じゃないけど」 思わずセラフは辺りを見回した。人ではないなど簡単に言って大丈夫だろうか・・・だが、街の人は他人の話を聞くほど暇ではないらしい。 「で、あんたんとこの修道会は何だって?」 「え、あぁ、コレです」 セラフは素直に修道会からの手紙を見せた。まぁ、隠しても無駄なことくらいは理解していたのだろう。 「なんだ、こりゃ? この街に行けってことしか書いてないじゃん」 「はい、前の時も神父さんが消えたから行けってだけでゾンビなんて聞いてませんでしたし・・・また、何か出るんでしょうか?」 「そりゃ僕達が動いていて、何も出ないってことはないからね」 「・・・ですよねぇ・・・ハァ」 セラフ半ば諦めたように溜息を吐いた。 「それで、今回は何が出るんですか?」 「そいつは、まだ調査中だよ。どうやら、亞門のやつ、事の起きる前に感づいたみたいだしな」 「は・・・はぁ・・・?」 セラフに細かいことを言って理解出来るとも思っていないし、言ったところでどうなるものでもないのは判っていた。だがシスターであれば亞門の仕事に首を突っ込んでくるのは見えている。一応、動きは抑えておきたかった。
「先回りされている?」 夜の屋敷で薄明かりの中で男は起き上がった、柩から。 「同じ柩の中の住人でもゾンビとは、えらい違いだな」 「当たり前だ、あんな土塊の出来損ないと一緒にされては困る。それより先回りとは楽しませてくれそうだな」 「・・・予定を変更する気はないのか?」 「フッ、人間相手にこの私が逃げる訳はない。貴様の主こそ、手下を逃がすべきだったのではないか?」 柩の中の男を残して会話の相手はその場を後にした。 「ゾンビごときが・・・生身の人間であれば、その血を一滴残らず吸い尽くしてやるものを」 男は柩から出ると、その姿をコウモリに変えて夜の闇へと飛んでいった。闇夜にコウモリ、しかし猫の瞳を持つカイムからすれば見落とすことはなかった。 「やっとお出ましか。この手の相手は本来お嬢ちゃんの方が専門なんだろうけどねぇ」 ぼやいていても仕方ない。カイムはそのままコウモリの後を追った。
コウモリは餌を求めていた。眠りから覚めたばかりで空腹だったのだ。だが、街に人影はなかった。夜とはいえ、まだ街灯も点いている。そんな中で一人の少女を見つけた。建物の影に舞い降りると元の姿へと変わり少女の前に踊り出た。 「お嬢さん、こんな時間にお一人かな?」 だが、少女は突然笑い出した。 「フフ・・・フハハ・・・フハハハハ・・・」 「何がおかしいっ?」 「いや・・・ヴァンパイアといえど、俺の変身は見破れなかったようだな・・・」 「何っ?!」 「そいつは千変万化のダンタリアン、俺の悪魔だ。カイムも御苦労だったな」 「き、貴様・・・御子神 亞門かっ?!」 ここでヴァンパイアは自分が罠に掛かったことに気づいた。 「チッ・・・だが、私のような末端のヴァンパイア一匹に、こんな手間をかけるようでは底が見えたな」 「こちらも色々と都合があってね。親玉が動き出すまで指を咥えて見ているほど悠長でもいられない。Lord Of Soul Thirteen・・・LOSTがそう簡単に出てくるとも思えないしな」 「な、何故LOSTのことを・・・」 「俺を誰だと思っている? アブラメリン神聖魔術とソロモン王の秘宝を継ぐ者に隠し事など不可能だということだ」 亞門は白銀の銃を取り出すと同時に引き金を引いた。 「純銀のロザリオを溶かして作った銃弾だ。貴様のような雑魚には勿体無いがな」 その言葉を聞き終える前にヴァンパイアの体は灰と化していた。
「ふぁ〜よく寝たぁ〜」 宿屋で目を覚ましたセラフの枕元に一通の手紙が置かれていた。 「あれ・・・この街での用は済んだ、修道会からも知らせが来るだろうが今回のように寝てろ・・・追伸、寝相はもう少しマシにしろ・・・・御子神亞門・・・でぇ〜寝顔見られたぁ〜」 そして部屋のドアがノックされた。 「シスター・フローレン、お目覚めですか。修道会からお手紙が届いております」 「あ、はい・・・」 身なりを簡単に整えて手紙を受け取ると亞門からの手紙の通り用件は済んだので次の街へ行くよう指示がされていた。 「はぁ・・・あたし、何しに来たのかしら・・・」 などとぼやきつつも荷物を纏めて早々と出立した。 「今度こそ、ちゃんとお勤め果たさなきゃ・・・」
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