「スカルクロイツの力は失われた。もはや俺の出番でも貴様の出番でもないはずだ」 「そうだね。そして次は・・・」 「俺・・・いや、俺たちか?」 「人を超えた人ならざる力・・・それは人には不要なものだ」 「天界にとって邪魔なもの、だろ?」 「・・・そうだな。主にとって予定外の力だ」 「人の可能性を否定するか?」 「それが天に仇成すならばな」 「やはり何千、何万年経とうが相容れないな」 「らしいな」 亞門は右手に装魔刀、左手に白銀の剣を構えた。白き翼の男も左手に盾、右手に剣を構えた。 「昨日の友は今日の敵・・・というよりは、本性を表わしただけか」 それは銀河を携えた星司だった。やや遅れて聖琉刀を持った龍斗も辿り着いた。 「おやおや・・・お揃いかな?」 「俺も居るから揃いだな」 それは足を引き摺りながら現われたランディだった。 「魔、神、仏、人・・・なぜ主に無駄に抗うのか理解に苦しむな」 「それは貴様の主であっても俺たちの主じゃないからな」 「セラフィーヌ、君はこちらの人間のハズだ。どうする?」 そう問われたセラフィーヌの背が光りだす。そして三対の翼を広げかけた時、亞門の放った閃光はスカルクロイツの時と同様にセラフを飲み込んでいった。 「・・・セラフィーヌからセラフィムを抜いたところで修道女たる彼女の立場は変わらない。どうする?」 「真に主たるならば・・・何故、子たる人を枠に閉じ込めようとなさるのですか?」 「それは主の御意志、私の問うても意味はない」 「しかし、それに直接答えることは決してないだろう」 亞門の言葉に白き翼の男は冷笑した。 「貴様とのケリを着けるだけなら二人でいいな。ランディ、スカルクロイツとセラフを連れて元の世界へ戻れ」 「なん・・・」 なんで、と問おうとしたランディを龍斗が止めた。 「お前は普通の人生をまだ送れるだろ?」 「?」 ランディには龍斗の言葉の意味が判らなかった。 「奴の言葉を借りれば魔でも神でも仏でもない・・・お前は人だからな」 「何言ってんだ? あんたらも人じゃねぇか」 「・・・そうだな・・・。お前等もこれから何かあったら任せる」 「そうか・・・」 星司が銀河を振るうとスカルクロイツの作り上げた空間が裂けた。 「作り手が居なくなれば、この空間も長くはあるまい。とっとと片付けろ」 それだけ言うと星司は裂け目に飛び込んだ。龍斗もスカルクロイツを担ぎ上げると後に続いた。 「亞門・・・」 セラフの声に亞門は振り向くこともなく、セラフもランディに手を曳かれて姿を消した。残されたのは白き翼の男と亞門。 「御子神亞門・・・我等の洗礼を受ける気はないか?」 「・・・何の冗談だ?」 「・・・そうだな」 対峙しただけで二人の気が衝突していた。 「いくぞ」 二人の剣と意地が交差した。
「きゃぁっ」 セラフが悲鳴をあげた。地震・・・いや、空間そのものが揺れたようだった。 「時空振か・・・。スカルクロイツの空間が変に役立ったな」 確かに通常空間で時空振を起こしていたら大変なことになっていただろう。その意味ではスカルクロイツの錬金術で作られた空間に被害を留められたのは幸いだったかもしれない。 「亞門は?!」 「あいつは殺されても死ぬような奴じゃない」 「えっ? それは・・・」 セラフには星司の言葉に意味が理解出来なかった。 「あいつは・・・神も悪魔も仏も恐れず死神でも冥王でも喧嘩を売るような奴だ」 「つまり、あの世に奴の行き場所はないってことさ」 ランディが口を挟んだ。龍斗も頷いた。それを聞いたからと言ってセラフの不安が拭えるものでもないことは三人共承知している。
「フッ・・・意外と丈夫な空間だな」 亞門はまだ揺れ続ける空間に居た。それは対峙する相手もまた、この空間に居るのだから。 「君との戦場としては少々耐震性が弱いがね」 「奴の力にしては、よくやった方だ」 「そうだな。だが、次の一撃でこの空間も終わるだろう・・・君の命運と共に」 「命運尽きるのは貴様の方だ」
「さてと、そろそろ行くか」 「そうだな」 龍斗と星司の会話にセラフは驚いた。 「行くって・・・亞門の事は・・・」 「言ったろ? あいつは大丈夫。俺たちがガタガタしても仕方ない」 「で、でも・・・」 「俺たちは日本に帰る。奴もそのうち帰ってくるだろうしな」
結局、セラフ一人が残された。修道会にも帰ることはなかった。そして、二度と御子神亞門に出会うこともなかったという。それでも亞門が負けたなどと思ってはいない。 「最強のウィザードだもん」
「キャーっ」 東京には眠らぬ街もあれば、暗闇な通りもある。そんな暗い道にこだまする悲鳴。それが人間相手にあげた悲鳴ならば警察の仕事だが。 「逃げろ」 「は、はいっ・・・」 男の言葉に悲鳴をあげた女は慌てて逃げ去った。 「この妖魔に逆らうとはいい度胸だな。何者だ?」 「俺はソロモン王の秘宝とアブラメリンの神聖魔術を継ぐ者、御子神 亞門っ」
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