「残りは二人か・・・まぁ、上々かな。こっちも二人だし」 「向こうは二人って言っても、一人は員数外だろ?」 「そうとも言い切れん・・・。ソウル・クレイドルのロザリオを手に入れた小娘にヴァンパイアは遅れをとったと言っても過言じゃない。それに背後の修道会も侮れないしね」 「何を臆してんだから知らないけど、ロザリオも修道会も本人の力じゃない。あたしの相手じゃないね」 「だといいけどね。でも油断はしないでね」 「それは命令?」 「そう取ってもらって構わないよ」 「・・・了解っ」 スカルクロイツとマリナは亜門とセラフの元へと向った。
荘厳なる空間。おそらくはスカルクロイツの錬金術で創られたものだろう。 「悪趣味だな」 「おや御子神君には気に入って貰えると思ったんだけどね」 「フッ・・・様式美も造形美もない・・・成り上がり趣味だな」 「そちらのお嬢さんはどうかな? 気に入ってくれたかな?」 不意に振られてもセラフは困って答えに詰まっていた。 「どいつもこいつも芸術を理解しないねぇ。まぁ、もうじき消えて居なくなるんだから関係ないか」 急に亞門とセラフの間に水柱が立ったかと思うとセラフの姿が消えていた。 「?!・・・人質のつもりか?」 「まさか。彼女も僕からすれば危険人物だからね。マリナにはその危険性が理解出来ていないようだけど。彼女が目覚める前に消すだけさ」 「・・・貴様も気づいていたのか・・・まぁいい。セラフがここで目覚める方に賭けるしかないな」
何処に流されたのか。流されたのが自分の方なのか、亞門の方なのかもセラフにはよく判らなかった。判っているのは、この場に自分とマリナだけが居てマリナは自分を狙っているということだった。 「大人しく教会で無駄なお祈りでもしてりゃ良かったのにね。何で御子神亞門なんかに関わったのか知らないけど、それが運の尽きと諦めてもらおうかな」 「お断りしますっ」 即答だった。それはマリナが得ていた情報から描いていたセラフとは別物だった。 「・・・なんで? あんた、なんでやる気満々なのさ?」 「龍斗、星司、ランディ、そして亞門。ここまで来て私だけ逃げるなんてことは出来ないんです」 「別に逃げようったって逃がさないけどね。でも、いいや。無抵抗な相手よりは張り合いも出るってもんよ」 とはいえ、セラフには武器らしい武器はない。 「どうやって戦うつもりか見せてちょうだい」 マリナの放った波は巨大な壁のようにセラフに迫っていった。その巨大さはセラフにも逃げ道が無いことを自覚させるに充分。セラフは思い切り息を吸い込むと息を止めてロザリオを握りしめていた。 「は? そんな事したって無駄なのに」 しかし、マリナの嘲笑が驚きに変わるまで、そう時間は掛からなかった。壁のような津波は二つに割れてセラフを避けていった。 「な、何をしたの?!」 (シスター・セラフィーヌ=フローレン、時は来た) セラフの頭の中に中性的な知らない声が響いた。その瞬間、セラフの背中に三対、六枚の光の翼が広がった。 「あ、あんた・・・何者よ・・・」 それはセラフにも何が起きたか判らなかった。セラフが手を翳すと無数の光がマリナに襲い掛かる。 「あうっ・・・」 津波以上に避けようのない攻撃は簡単にマリナを貫いていった。 (さぁ、とどめを刺すのだ) 「嫌っ」 謎の声をセラフは即答で拒否した。 (人の手によって作られた、この世に在らざる者。無に帰すのが理であろう?) 「この世に在らざる命なんてありません。人の手によって作られた命でも、それを人が奪っていいことにはなりません」 (ならば、自らが無に帰すというのか?) 「待ちなっ」 セラフの頭に響く声にマリナが待ったを掛けた。 「あんた、その娘が言う事聞かなきゃ、その娘を乗っ取ってでもあたしを殺る気だろ? 悪いけどあんたの思い通りにはさせないよ」 セラフを中心に六本の水柱が上がったかと思うと、吹き上がった水が結晶となって雪が舞ってきた。 「その六芒の結晶が消える前に亞門の所まで走りな。あんたの中で煩い奴もアイツには逆らえないハズだからね」 「えっ?!」 マリナの言葉はセラフにとっては意外なものだった。 「勘違いするんじゃないよ。自分の意思じゃないものに操られるってのは嫌いだし、操られる奴を見るのも嫌いなんでね・・・」 「あ、ありがとうございます」 セラフは礼を言うと亞門の元へと走り出した。それを見送るマリナの姿は徐々に透けていった。 「あぁあ、なんでかねぇ・・・こんなことする気になったのは・・・」 その先は何かを呟いていたようだが声として誰かに届くことはなかった。
対峙する亞門とスカルクロイツの元にも雪がちらつき始めた。 「ヘキサのダイヤモンド・ダスト? まさか・・・」 そう思った矢先にスカルクロイツの視界に入って来たのはセラフだった。 「何故・・・あいつらはホムンクルスでありキメラであると同時に僕のクローンでもあるのに・・・。なんで僕の思う通りに動かないんだっ。僕の与えてやった命を無駄にしやがってっ」 「命を無駄にしているのは、あなたの方ですっ!」 それはセラフの叫びだった。 「ぼ、僕はソウル・メイカーだ。命を生み出す者なんだ。それが命を無駄にしているだって? これだから凡人は困るよ」 「お前が生み出しているのは悲劇に過ぎない・・・」 それは亞門の声だった。 「ち、違う・・・悲劇にしているのはお前等だっ! お前さえ・・・お前さえ居なければ・・・」 「悪いがいつまでも子供の戯言に付き合う気はない」 亞門が身構えた。 「悔い改めて懺悔なさい・・・」 セラフの視線は冷静だった。 「誰が悔いるものかっ 僕は子供じゃないっ! 僕は創造主になるんだっ」 亞門の視線は冷ややかに、スカルクロイツを見据えていた。 「こんな子供には過ぎた力だな・・・消させてもらう」 「僕はアルケミストだ。貴様なんかに負けるもんか」 「能力的レベルはそれなりだが・・・思考のレベルが低すぎる。これで終わりだ」 亞門の放った閃光はスカルクロイツを飲み込んでいった。 「なんか、最後はあっけないねぇ」 白き一対の翼を広げて舞い降りて来た男はそう言った。
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