グランドに続いてブリッツの敗北はスカルクロイツの本体にも残る化身にも伝わった。 「僕の化身ともあろうホムンクルスたちが負けるなんてね・・・。あと2体しか残ってないけど大丈夫かねぇ」 自らの化身といえども信用ならないのだろう。それも連敗の後では尚更だ。スカルクロイツにとって信用出来るのははやり自分のみだった。そのスカルクロイツのクローン細胞を内抱しているホムンクルスもまた、本体のスカルクロイツを信用していない部分はあった。
「どいつもこいつも・・・役に立たないねぇ」 「そういうな、マリナ。奴等が強いから俺たちが誕生したんだろ?」 「フレアー、あんたは生まれてきて良かったのかい?」 「そんな事は奴等を倒してから考える。気に入らなければスカルクロイツも倒す。世の中が気に入らなければ滅ぼすまで。それだけだ」 「いいねぇ、あんたは単純でさぁ」 「何っ?!」 「あんたが倒すのは、あたしじゃなくて奴等だろ? ほら、来たよ」 マリナの言う通り、亞門たちが追いついてきた。 「先回り成功ってとこだな。とりあえず倒す。今言ったこと、覚えておけよ」 「あんたが勝ったらね」 「当たり前だ」 フレアーが亞門たちの前に飛び降りると星司が前に出た。 「予定通り、というか情報通りというか・・・カイムの情報は相変わらず正確だな」 「当たり前だ」 まるでカイムを代弁するように亞門は言った。 「それじゃ、こちらも予定通りに行く・・・後は任せた」 亞門たちは先に向かい星司だけが残った。 「なにが予定通りだ・・・そう何でも予定通りに行くと思うなよ」 「フッ・・・貴様の予定は貴様が勝つ予定なのだろ?」 「そ、そうだ・・・」 「ならば、お互い様ということだ」 静かに星司は銀河を取り出した。宇宙樹イグドラシルから生まれし唯一の木刀。その威圧感は相当なものであった。 「凄まじい剣圧だな。木刀がこれほどのプレッシャーを掛けてくるとは思ってなかったぜ」 「本当にプレッシャーを感じるのは、これからだ」 星司の言葉通り、徐々に威圧感は高まっていった。 「このバーン=フレアーが・・・押されているだと・・・たかが木刀に・・・」 ただ身構えているだけの相手にフレアーは徐々に後退りつつあった。 「この剣圧を感じることが出来るだけの力量は認めてやろう。力無き者ならば剣圧に気づく事もなく銀河の前に散りゆくのみだからな」 構えた星司の手の中で銀河は木刀から星の煌きへと変化してゆく。光の剣。 「それが・・・貴様の得物の真の姿かっ」 「真の・・・か。それは正しくもあり誤りでもあるな。真実は貴様の思慮の及ばぬところ」 瞬時に星司はフレアーの横をすり抜けた。フレアーも躱したつもりだったが致命傷を避けるのが精一杯だった。 「下手に避けねば苦しまずに済んだものを・・・」 「生憎と、こっちも生まれてすぐにあの世へ行く気はない」 「生まれた? 貴様等は作られた、だ。自然の摂理の中で誕生した者ではない」 「奴はソウル・メイカー・・・魂を生み出す者だ・・・」 「ソウル・メイカーか。偽りの命を作りし罪な者だな。虚より生まれし者は無へと還れ」 「勝手をぬかしやがる。人が生み出そうが神が生み出そうが生まれた側に選ぶ権利はないんだよっ! バーニング・ブレイドっ」 フレアーは燃え盛る炎の剣を取り出すと星司に切りかかった。キメラとしての力は人間の数倍に達していた。星司も切り合っては不利と躱した。フレアーの目にさえも残像を見せながら移動する星司の姿を捉えるのは至難であった。 「ちょこまかとっ・・・バーニング・ドラゴンっ」 フレアーの剣から放たれた炎のドラゴンが一直線に星司めがけて飛んでゆく。が、星司の一振りで切り返された。 「力も技も悪くはない。それでも作り物だ・・・自らを鍛え上げた経験から生まれたものでなければ技さえも虚ろなもの・・・」 「何をっ」 「悠久の時の中、天と地の間、修練の末、生まれたる技を見せてやろう・・・煌封剣っ」 煌めく光がフレアーの周囲に集まりやがて全身を包み込んでいった。 「な、何を・・・」 「星の煌めき瞬きも遥か太古の耀き・・・その光に包まれて消え行くがいい」 星司の言葉通りにフレアーを包み込んだ耀きは消滅するかのように収縮を始めた。しかし、耀きは途中から再び膨張を始めた。やがて元よりも大きく、そして赤く膨らんでいった。 「赤色巨星?!」 まるで風船が破裂するように耀きを内側から炎の渦が吹き飛ばした。 「ぜぇ、ぜぇ・・・驚いたかっ」 「確かに・・・驚いた。貴様にも命の輝きはあるのだな」 「当たり前だ」 「しかし・・・この天と地の狭間に貴様の居場所はない・・・余所へ行け」 「余所だ?」 星司の言葉にフレアーは一瞬戸惑った。 「貴様を葬るには惜しくなった。炎の精霊としてならば居場所も見つけられよう」 「フッ・・・俺はクローンでキメラでホムンクルスだ・・・。生憎だが貴様の期待には応えられねぇ」 「そうか・・・残念だな」 「ま、貴様に葬られるなら実力差として諦めてやるよ」 「・・・さらばだ・・・銀河砕斬っ」 放たれたのは無数の閃光。眩い光の強大な刃はフレアーを飲み込んでいった。 「ったく・・・対した野郎だ・・・。後は亞門、任せるぜ・・・」 星司はそう呟くとその場に座り込んでしまった。
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