スカルクロイツが作り上げた化身。だが、それはスカルクロイツとは似ても似つかない姿であった。 「どれも傑作だね。君たちに比べればベヒーモスたちも失敗作に見えてくるよ」 「お前が創造主か。我等に何を望む?」 「いいね・・・そう、僕が創造主。クローン技術とホムンクルス製造技術とキメラ製造技術を融合することに成功した唯一の存在。御子神亞門が最強の魔術師ならば、僕は最高の錬金術師だ。僕が望むのは世界の再構築だ。そして、その最大の障害を排除しろ。御子神亞門、風切星司、神威龍斗、ランディ・フィスティルトを倒し、共に修道会を壊滅させるのだ」 スカルクロイツの言葉に化身たちは黙って頷くと、それぞれに飛び立っていった。
「待っていたぞ」 スカルクロイツの元へ向う亞門たちの前にスカルクロイツの化身たちが立ち塞がった。亞門が前へ出ようとしたが、それを龍斗が制した。 「お前は先へ行け。こいつらは纏めて俺が面倒を見る」 「?」 「化け物共よりは手応えがありそうだからな。気にするな」 その様子を黙って見ていた化身の一体が笑い出した。 「ファッハッハ、纏めて面倒を見る? 甘く見られたものだな。俺の星斬刀の餌食にしてくれるっ」 一番、巨体を誇る化身は大地から自分の身の丈を越える巨大な刃を作り出した。 「それで俺の聖琉刀と渡り合うつもりか?」 「グランド、後は任せたぞ」 他の化身たちは亞門たちを追った。自分に全て向ってくればよかったのだが、そう龍斗の思うようにもならない。 「俺はヴォルグ・グランド。大地とスカルクロイツの化身だ」 「貴様の名前なんかどうでもいいし興味もない。新種の魑魅魍魎くらいのものだ」 聖琉刀を構え、自らの親指を傷つけ、その血で刀身を覆った。 「オン アボキャベイロシャ ナゥマカボダラマニハンドマヂンバラ ハラバリタヤ ウン ナゥマクサマンダ バザラダン センダ マカロシャダ ソハタヤウンタラタ カンマン」 龍斗の一撃は光と共にグランドを包み込む。だが、それで消失するような相手ではなかった。 「クッ・・・やってくれるな・・・訳の判らん呪文だが・・・」 「タントラ・・・だ。ヴォルグ・グランド、だったな。その名くらいは覚えておくに値すると認めてやろう。ハラ ドボウ オンボッケン シュタン シリー」 それでもグランドは耐え切った。 「・・・意外だな・・・。ここまで耐えるとは。ホムンクルスとクローンのキメラ・・・というだけではなさそうだな。本気でいかせてもらう・・・オン ボロンっ」 龍斗の気が蒸気のように立ち昇る。しかし、グランドも怯む様子はない。 「知っているか・・・ホムンクルスとは生まれながらにして全てを知っているということを・・・。つまり我等は覚者なのだ」 「貴様らが仏陀だとでもいうのか? 笑止っ。仮にホムンクルスが覚者だとしてもスカルクロイツのような煩悩を取り込んだ時点ですでに覚者たりえん。ナゥマク サマンダ ボダナン・・・バクッ」 龍斗の気が聖琉刀へと集約された。 「天駆っ咆龍戟っ!」 聖琉刀から一気に放出された龍斗の気は、雷鳴の如き轟音と共に龍の姿を成してグランドに襲い掛かった。 「出でよ、ランドドラゴンっ!」 グランドの叫びに大地から巨大なドラゴンが現われ咆龍戟を受け止めた。いや、正確には受け止めきれずに、かなりのダメージを負った。 「なるほど、貴様の奥の手は地竜か」 「おぅよ。今から、こいつと一体になって貴様を蹴散らしてくれるっ。ランドドラゴンよ、俺の血と知を得て一つになれっ」 グランドとランドドラゴンが巨大な砂嵐に包まれたかと思うと、そこには一体化したランドドラゴンが現われた。 「フッ・・・識無き知など、恐るるに足らず。識無き力など、我が前には風の前の塵と変わらず・・・」 龍斗の気の質が一変したことにランドドラゴンは気づいていなかった。燐気・・・それは龍の立ちこめる気。 「貴様は作られた者にして竜にもなれず人にもなれず・・・儚き泡沫の魂よ。偽りの命よ。再び無に帰さん・・・真・咆龍戟っ!」 それはあまりにも一瞬の出来事であった。ランドドラゴンは自らを貫かれたことさえ気づかず、何が起きたのかと呆然としていた。徐々に、そして鈍く痛覚を刺激される感覚に襲われる。それは巨体故ではなく、瞬時のことに身体が反応しきれていないからだった。 「な・・・何を・・・」 「音速を超え高速を超え神速に達する真・咆龍戟・・・。止めること能わざりて、防ぐこと難き真の龍の咆哮・・・」 「ランドドラゴンより・・・龍が優るというのか・・・」 「少なくとも混ざり物の入ったランドドラゴンよりはな」 ランドドラゴンの細胞の結合は徐々に解除され崩壊が始まった。 「そうか・・・そうだな。ヴォルグ=グランド・・・それが敗因か・・・」 「敗因は・・・アクレイスター=スカルクロイツだな」 ランドドラゴンは苦笑しながら消えていった。そして龍斗もまた膝をついた。 「燐気を使い過ぎたか・・・。俺が行くまでもないかもしれんが・・・とりあえず、だな」
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