「あぁ〜あ、ベヒーモスもやられちゃったかぁ。結構、いい出来だったんだけどなぁ」 相変わらずスカルクロイツには焦りも動揺もなかった。 「まぁ、厄介って言えば厄介だよね・・・装魔刀、聖琉刀、銀河・・・後々面倒だと思ってメンバーにしておいたランディにクレイドルのロザリオを持つ、修道会のシスターか。でも、やっぱり一番厄介なのは御子神亞門だよなぁ。僕が五人居ればなぁ・・・いくら僕でも僕は作れないし・・・いや、僕自身は作れなくても僕の化身くらいなら作れちゃうかも? やっぱり僕って天才だね」 高笑いを挙げながらスカルクロイツは研究室へと入っていった。
イツラコウリキを倒した後の龍斗の前にもベヒーモスに勝る巨体を誇る一匹の龍のような生き物が立ち塞がった。 「リヴァイアサン・・・モドキだな」 ベヒーモス同様にスカルクロイツの作り上げた伝説の巨獣のイミテーションである。 「モドキとは言ってくれる。だが力はそのものであることを見せてやろう」 そんなリヴァイアサンの言葉など龍斗は聞いていなかった。リヴァイアサンの放った巨大な津波が龍斗へと迫る。龍斗も聖琉刀を一閃、巨大な蒼き龍が津波を突き破る。津波は左右に割れ、勢いを少しも衰えさせることなく蒼き龍はリヴァイアサンに襲い掛かる。何とか避けたものの触れてもいないリヴァイアサンに傷を負わせた。思った以上の威力、今まで聞いていない攻撃にリヴァイアサンは焦りを感じていた。 「人間にこのリヴァイアサンを越える力があるというのかっ?!」 「リヴァイアサンも本物ならば、このくらいで傷を負うようなことは無かっただろう・・・。スカルクロイツも容姿と能力は知っていてもデータだけでコピー出来る相手じゃなかったということだ」 自らの存在を否定されたリヴァイアサンは怒りという感情を覚えていた。そんな感情が本物にあるかは知らない。 「たとえ劣化コピーであろうが粗悪品であろうが、俺はリヴァイアサンだっ!」 先ほどの数倍の威力の津波を放ってきた。 「気構えが遅いっ 最初から自分として挑んでくればよいものをっ」 龍斗も渾身の一撃を放った。強大な蒼き龍は神速でリヴァイアサンを貫いていった。 「クッ・・・貴様も気構えが遅いんじゃないのか・・・最初から・・・この威力なら・・・もっと早く片付いただろうに・・・」 「そいつは・・・」 龍斗が答える前にリヴァイアサンの肉体は霧散していった。
「あぁ〜あ、リヴァイアサンもやられちゃったかぁ。これもいい出来だったのになぁ」 ベヒーモスの時と同様にスカルクロイツからすれば焦りも動揺もない。 「陸のベヒーモス、海のリヴァイアサン・・・この分じゃ空のジズも時間稼ぎになるかだな」 ジズが他の二匹と違うとすれば、それは空を飛べることだった。人間は泳げても歩けても自力では飛べないからである。しかし、それさえも覆しかねない相手であることはスカルクロイツも承知していた。
星司の上空に現われたのがジズだった。 「相手が悪かったな。貴様が空を飛ぶなら、俺は星を司る。上には上が居るということだ」 上空から無数の火球がジズ目掛けて降り注いだ。 「流れ星・・・実際には天空から降り注ぐ火球だからな」 「だが、その軌道は直線だからな。避けるのは簡単だ」 「直線? 地球の自転と重力ってものがあってね。直線ではない」 緩やかに弧を描きながら、やがて火球はジズの周辺を回りだした。 「鳥は自由に空を舞ってこそ鳥なのだろうけれどな。貴様にはその鳥篭が似合いだ」 縦横に舞う炎の篭にジズは閉じ込められていた。 「きっとスカルクロイツもジズの知識が薄かったのだろうな。本当のジズの能力の半分も貴様は発揮していない」 事実、ベヒーモスやリヴァイアサンほどの情報は持っていなかったのだろう。 「これで終わりだ」 炎の鳥篭は収縮しジズごと消失していった。
スカルクロイツの予想通りジズもまた、敗れていった。再び作り出すことも出来たであろうが、そのまま再生したところで同じ運命を辿ることは目に見えている。 「やっぱり組成が違ったかなぁ。生物なんだから材料は普通かと思ったんだけどねぇ。僕の化身はもう少し時間が掛かりそうだし・・・今更キメラじゃ手も脚も出ないだろうし・・・あんな強いのが寄ってたかって卑怯だよなぁ」 確かに現状の戦力は卑怯という程についていた。亞門一人でも互角と言えたか怪しいというのに星司、龍斗が現われた。ランディについては然程気にしてはいないが。 「僕の化身が誕生するまで・・・もう一回、一つに生まれ変わって行ってこいっ!」 スカルクロイツはベヒーモス、リヴァイアサン、ジズを一体の魔物として錬成した。地上の動物のキメラではダメでも魔物同士のキメラであれば時間稼ぎくらいは出来るだろうと。とはいえ、この巨体を錬成するには材料も要ればスカルクロイツの力も要る。一体を錬成するのがやっとであった。 「ふぅ・・・僕の化身作りに力は残しておかないとならないんでね。面倒なもんだよ」 放たれたキメラは研究室に一番迫っていた星司の元へと向った。しかし、キメラが最初に出くわしたのはランディであった。 「なんて化け物だ・・・」 星司がジズを相手にしている間に先へ来ていたランディにとっては予想外だったかもしれない。 「なるほど、アルケミスト、アクレイスター=スカルクロイツといえど手駒が薄いようだな」 眼前の化け物が複数の魔物から出来ていることは見て判った。となれば単体の魔物はすでに敗れたであろうことは簡単に推測がついた。ランディに対してキメラの放った攻撃は大地は揺れ地割れからマグマが覗き巨大な津波が押し寄せ天空から雷が降り注いだ。足場も不安定な上に逃げ場などない。それでもランディは怯むことはなかった。 「上等じゃねぇか。手前ぇがソウル・メイカーなら、こっちはソウル・ブレイカーだったんだ。手前ぇが作った偽りの魂、俺が打ち砕いてやるよっ」 軽いフットワークで雷を躱しながらキメラへと向って走り出した。地面の揺れを素早く判断し瞬間的に大地を蹴り突き進む。正面から津波へ向うとその波に乗った。 「この程度のビッグウェーブ、驚きゃしねぇっ」 寄せる波があれば引く波もある。キメラに向って退く波に乗ったランディは加速しながらキメラに近づいていった。 「この腕が届きさえすれば我が拳に貫けぬ物無しっ!」 ランディの突上げた渾身の拳が引いた波もろともにキメラの巨体を突上げた。それはまるで竜巻のような螺旋を描きキメラの巨体を宙に放り上げていた。波に揉まれた巨体はジズの翼を広げることもなく、落下した巨体はベヒーモスの足を踏ん張ることもなく、リヴァイアサンの巨大な体を大地へと叩きつけられた。 「さすがだねぇ、ソウル・ブレイカー、ランディ=フィスティルト。その力を亞門に叩き込んでくれると助かったんだけどね」 横たわるキメラの遺骸の上に人影が現われた。 「スカルクロイツっ」 「君は装魔刀、聖琉刀、銀河のような強大な武器もなく魔力もない。それなのに、それだけのポテンシャルは恐れ入るよ。今からでも僕の元に帰ってこないかい? 歓迎するよ」 薄笑いを浮かべながら、そう言ったスカルクロイツの言葉に誠意などない。そのくらいはランディにも判っていた。 「そこで待ってろっ、俺がブチのめしてやるっ」 そんなランディの返答を予想していたスカルクロイツは高笑いをした。 「ハッハッハ。そう言うだろうね、君という男は。まぁいい、君たちのデータは取らせて貰ったからね。僕の化身がもうすぐ完成する。研究施設ももう要らないから好きに破壊してくれて結構だよ。それじゃ、また会おうね」 そしてスカルクロイツは姿を消した。
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