■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

Hideland Hill 作者:凪沙 一人

第13回   mt & behemoth
「フッ・・・どうやら、お前の事はどうでもいいらしいな?」
「たかが死神一匹、俺一人で充分だ」
「一人? 悪魔を何匹引き連れて言っている?」
「いや・・・一人だ。貴様を相手に悪魔の手も天使の手も使いはしない」
「アブラメリンの神聖魔術とソロモン王の秘宝・・・その根源は強大なる召喚術にあると思っていたんだがな」
 モートの言うことは間違ってはいない。だが亞門の力はそれだけではない。そもそもアブラメリンの神聖魔術にしろソロモン王の秘宝にしろ、それを継承する為には強靭な肉体と精神力を要する。見た目に筋肉質ではないが亞門はその二つを持っている。そして白銀の剣と銃、それに装魔刀。こと異なる者と戦うに当たっては亞門の実力は認めざるを得ない。むしろ人間が相手よりは楽なくらいだった。
「神も悪魔も・・・もちろん死神とて恐るるに足らぬ」
「別に恐れて貰わずとも結構・・・貴様の命運はここで終わることになっている」
「生憎だが俺の予定では、ここで散るのは貴様の方だ」
 相容れる筈なき問答。それを続けても無意味なことは双方が承知している。モートの死神の鎌。それは亞門の装魔刀をもってしても簡単に砕ける代物ではなく逆もまた真である。モートの暫撃は装魔刀を握る両手が痺れるほどであった。だが同じだけの反動を受けていることがモートには脅威であった。
「貴様・・・一体・・・本当に・・・」
「俺は御子神亞門。アブラメリンの神聖魔術とソロモン王の秘宝を継ぐ人間だっ」
 亞門は人間という言葉に力を込めて言い放った。その名の通り魔力を装う刀である装魔刀は亞門の叫びに応じるように力を増していった。
「バカな・・・死神の鎌が刃こぼれだと・・・」
 モートは亞門を見縊っていたことを悔いざるをえなかった。
「小癪な・・・いや、さすがと言うべきだな。LOSTを壊滅させようというだけの力はあるということか。だが運命に抗うなど無駄なことだ」
「生憎と諦めは悪い方でね」
 あきらかに装魔刀の纏う魔力が上昇していた。それは死神であるモートでなくとも判るほどに。しかし死神が人間に敗れるようなことがあっては今後の死神の存在意義そのものを問われかねない、モートはそう感じていた。だからこそ退く訳にはいかなかった。そして全力を込めた一撃を放つ。それを待っていたかのように亞門もまた全力で切り返した。二つの刃が鈍い音を立ててぶつかり合い、そして一方が力なく折れて弾けとんだ。
「死神の鎌を人間がへし折るなど・・・」
 さらに亞門がとどめの一撃を放とうと身構えた時だった。
「亞門、そこまでにしてくれるかな?」
「今頃、何をしに来た? 人間に干渉する訳にはいかないんじゃなかったのか?」
 それは以前、ターミナルシティにあった小さな教会で会った相手だった。
「確かに人間に干渉する訳にはいかないんだけどね。彼も一応神を名乗る身。それを人間に討たせるというのも主にとっては拙いんだよ」
「それで・・・どうするつもりだ?」
「あらためて神界から追放するところだけど・・・それも二度手間だからね。僕か他の誰かが処断することになると思うよ」
「・・・貴様の主は相変わらず自らの手は汚さないんだな」
「そう言われてもねぇ。僕も仕える身だから。それじゃモートは引き取らせてもらうよ」
 純白の大きな翼を広げるとモートを連れて光の中へと消えていった。
「これで残るはスカルクロイツ・・・」

 スカルクロイツの前には1ダースのロウソクが立っていた。そして、最後の1本が今、消えた。
「おやおや、死神までが敗れるとはね。まぁ勝てるとも思ってはいなかったけれど、もう少し頑張ってくれると思ったんだけどね」
 そのスカルクロイツの背後に黒い影がいくつも控えていた。
「やっぱり、寄せ集めじゃ僕の戦力にはならないみたいだ。皆、頼りにしてるよ」
 スカルクロイツの声に影は無言で頷くと消えていった。
「厄介だよね・・・御子神亞門だけでも面倒なのにさぁ。次から次へ手強いのばっかり増えて。こっちは戦力減ってくばっか。あれだけの能力のある面子が揃ったら僕の計画なんてすぐ達成出来るのにな。まぁ、僕を手伝うような奴等じゃないから倒しちゃうけどね」
 亞門、星司、龍斗、ランディが相手だとしても負けることなど考えていなかった。モートを連れ去った相手についても見当はついていた。それだけに人間である自分には手を出さないと踏んでいた。

 四人のうち一緒に行動しているのは星司とランディだけだった。セラフもさすがに今回はソラスの建てた家の中でおとなしくしている。何が起こるか判らない状況ではさすがに亞門でも守りきれるか判らないからだ。しかし、そのソラスの建てた家に一匹の巨大な獣が近づいていた。
「おいおい・・・ソラス、随分デカイお客さんのようだが大丈夫か?」
「相手が何であろうと俺が手を掛けた建物が壊れることはない」
 カイムもそれは承知しているハズなのだが相手は尋常とは思えなかったし、セラフも不安そうだった。そして、巨大な獣が二、三歩下がったかと思うと猛然とダッシュしてきた。が、突如、獣と家の間に城壁が現われた。
「どうやら、間に合ったようだな?」
 そこには、また別の悪魔が立っていた。
「サブナック?!」
「相手が相手だ。ソラスの腕を信じてない訳じゃないが許せ」
 まさにそれは鉄壁の城壁を思わせる強固な壁だった。さすがの巨体を二度三度と繰り返しぶつけてはみるがビクともしない、落雷の如き咆哮を挙げ、更に体当たりを繰り返す。それでもヒビ一つ入ることはなかった。
「クッ・・・ビクともしやがらねぇ・・・」
「そいつは本物のベヒーモスで壊れやしない・・・まして模倣品では尚更だ」
 壁の前に立ち尽くすベヒーモスの前に亞門が立っていた。
「貴様・・・スカルクロイツ様の元へ行ったんじゃ・・・」
「何も正直に全員で向うこともあるまい? 俺が向こうへ行けばセラフを人質にする気で、俺が戻れば向こうの攻めが手薄になるとでも考えたんだろうが甘いな。俺一人抜けたくらいで奴とあいつらの実力差は埋まらん。そして貴様にこの城壁を破壊することも俺を倒すことも時間稼ぎすら出来やしない」
「何をっ!」
 ベヒーモスの巨体は亞門目掛けて走り出した。サブナックの築いた城壁と違って生身の人間、当たれば無事では済まない。そう、当たれば、の話である。
「遅いな・・・模倣品。所詮コピーはコピー、そこまでだな」
 次の瞬間、亞門は大地ごとベヒーモスを薙ぎ払った。大地は割れ、切り刻まれたベヒーモスはその隙間へと落下すると再び大地はその口を閉じていった。
「亞門、大丈夫?」
 家の中でセラフが心配そうに声を掛けて来た。どちらが大丈夫なのやら。中に居るのが亞門や悪魔たちならばソラスの家に居るだけで充分だったのだがセラフが居たからサブナックを喚んだというのに。
「問題ない。行くぞ」
「え、行っていいんですかぁ?!」
 やや上ずったトーンのセラフが嬉しそうに声を挙げた。
「一々助けに戻ってもいられん。眼の届く所に居た方が楽だからな」
 決してソラスやサブナックの建てた物に不安があった訳でもないし、その中の方が安全かもしれない。だが亞門は連れて行った方がいいと判断した。
「大丈夫かねぇ・・・」
 ソラスは怪訝な表情だったがカイムはそうでもない。
「向こうに死神も居なくなったことだし、いいんじゃないかな。契約者がそう望むのであれば僕等が口を挟むことじゃない。それに・・・」
「それに?」
 だがカイムは返事をせずに笑みを浮かべていた。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections