LOSTの中で残るは三人。ソウル・ホールド、ソウル・メイト、そしてソウル・メイカーことアルケミストのアクレイスター=スカルクロイツ。残りが少なくなったからといって結束を堅くするようなメンバーではなかった。 「それで、僕にどうしろと?」 「亞門を倒してもらいたい」 「おいおい、今まで僕を邪険にしておいて今更頼るのかい?」 この返答はホールドにしても想定していた。 「そういうことだな。ある意味、責任を取れということでもあるが」 「責任? 何の? 僕はLOSTのリーダーでも何でもないんだよ」 「我々の暗黙の了解を無視した行動、言動。それは許容範囲を越えている」 「冗談じゃないね。僕が何をしたって言うのかなぁ。君たちこそ、何もしなかった責任はないの?」 スカルクロイツの言動は、もはや大体の予測はつく。口は達者だし実力もある。だが人望もなく他人を信用もしない。だからこそ人間以外の者の多かったLOSTに加入したのであろう。 「だったら、競争といこうか? 三人のうち誰が最初に亞門を倒すか」 スカルクロイツからの提案。これはあきらかに本心ではない。二人のうちどちらかが倒せばよし、倒せなくとも弱ったところなり、隙を突くなりして漁夫の利を得られればそれもよし。亞門と正面から戦おうなどとは決して考えていないだろう。それもまた、見え透いている。 「いいだろう。ならば先に行くがいい。顔が知れている分のハンデだ」 これがハンデなどではないことはスカルクロイツ自身が一番よく判っている。 「これはこれは、お優しい配慮。お言葉に甘えて先に行かせていただきますよ」 そう言ってスカルクロイツは姿を消した。 「ソウル・メイカーの奴め、相変わらずだな」 「あいつは一生変わらんだろうな。だが、我々はここで人間に消される訳にはいかんのだ」 ソウル・メイトはソウル・ホールドの言葉に何も反応を示さなかった。
「お前等もLOSTのように個別なのか?」 ランディは亞門と別行動を取る星司に疑問をぶつけてみた。 「俺たちは最初から組んじゃいないからな。敵の敵は味方、そんなとこだ」 一緒に戦ってはいても連帯感の無さはその為かとランディも納得した。結局はLOSTを敵対視している者が複数いるということだ。 「LOSTは組まなければ貴様等に狙われることも無かったのか・・・」 「いや、それは違うな。俺たちは組んでいようが、いまいが人の手に負えぬ悪しきは断つ。それだけだ」
そしてLOSTに刃を向ける者がもう一人・・・ 「どうもLOSTというのは敵を作りすぎたようだな・・・。修道会とも御子神亞門や風切星司とも違う・・・貴様、何者だ?」 「我が名は神威・・・神威 龍斗。邪悪なる者を消し去る者」 「・・・こうも東洋人ばかり、よく我等の前に立ち塞がるものだ。まぁいいだろう、貴様の魂、ここで塊に変えてやろうぞ」 龍斗はソウル・ホールドと対峙すると鞘から刀を抜いた。抜けば珠散る氷の刃・・・とでも言うのだろう。 「見事な剣だな。だが、それで切れるかな?」 「降魔の利剣、聖琉刀・・・。魔を降すための刀だ」 龍斗が一閃するとソウル・ホールドの裾が切られた。 「ほう・・・その刀、手に入れれば亞門の装魔刀や星司の銀河とも渡りあえよう。気に入った。その剣、貰い受ける」 ソウル・ホールドの瞳から飛び出した光の玉を龍斗は聖琉刀で弾き返した。 「我が幻魔光を弾き返すとはますます気に入った。このソウル・ホールド・・・いや、このイツラコウリキの得物に相応しいっ」 「イツラコウリキ? アステカの神とは名前負けだな。貴様にはそれほどの力はないっ」 「それはどうかなっ」 イツラコウリキもまた得物を手にした。その名が現す通り、黒曜石のナイフを。 「星より落ちし魂の刃・・・って奴か。だが、そんなもので聖琉刀を受け止められると思うなよ」 イツラコウリキの周囲に煙が立ち昇り始める 「テスラトリポカ・・・煙を立てる者か。なるほど、結局のところ、トリックスターか」 本来のトリックスターよりは悪意に満ちてはいるが。 「もう少々、この世を混乱させてやりたくてな」 「それは貴様がせずとも充分混乱した世の中だと思うがな」 「この程度の混乱、歴史の中では埋もれてしまうだろう。我が望むは歴史そのものの混乱。人類が滅亡するほどのな」 「・・・貴様に説法しても馬の耳に念仏だな。とっとと地獄へ落ちてもらおう」 一閃した直後、イツラコウリキの黒曜石のナイフは粉々に砕け散っていた。返す刀でイツラコウリキを断とうとしたが、かわされた。 「ちっ、余計な手出しを・・・」 「ソウル・ホールドを簡単に倒されても困るんでね」 「・・・貴様、死神か?」 「ソウル・メイト・・・モート。お前の国ではそう呼ぶのかもしれんがな」 小脇にイツラコウリキを抱えたモートはもう一方の手で巨大な鎌を構えた。先ほどまでと違い迂闊には踏み込めない。 「貴様のような奴が何故、こんな奴等と組んでいるのか・・・」 「無駄な人間どもを纏めて冥界に連れて行くには手っ取り早かろ?」 「死神が人の要、不要を決めるものでもなかろう?」 「人の命運など、この手の中のゲームに過ぎない」 「なるほど、最悪の死神だな」 「人間が神に最悪だのと罰当たりなことだ」 「フッ、神がどうしたって?」 そこに姿を現したのは亞門だった。 「・・・貴様が神も悪魔も恐れぬ男か・・・」 モートとは初体面だった。そして龍斗とも初体面である。 「お前が、こいつらの言う装魔刀を持つ男か?」 「その手にしているのは聖琉刀か・・・。すると貴様が神威龍斗か」 「そして俺が風切星司」 「俺が知っているだろうが、ランディ・フィスティルトだ」 四面楚歌・・・そんな言葉が似合いそうな局面だ。いかに死神の鎌といえど簡単に刈り取れる相手ではない。装魔刀、聖琉刀、銀河、そして元ソウル・ブレイカー。それが簡単にいく相手ではないことは判りきっている。こんな状況にノコノコとスカルクロイツが乗り込んで来るとも思えない。 「モート、ここは我が・・・」 「イツラコウリキ、もはや貴様の一意に委ねていられる状況ではないのだよ」 2対4の状況であってもモートに怯む様子はない。むしろ、この状況を楽しんでいるようでもある。 「死神か。貴様等の目当ては俺だろ? 相手をしてやるっ」 身構える亞門に龍斗が待ったを掛けた。 「そいつは俺の獲物だ。余計な手出しは無用だ」 「じゃ、その二人はお前等に任せるとしよう。ランディ、行くぞ」 「何だよ、俺たち賑やかしか?」 「本命が残っているだろ?」 「ソウル・メイカー・・・アクレイスター=スカルクロイツかっ!」 納得してランディは星司について姿を消した。 「神威・・・龍斗と言ったな。貴様はこのイツラコウリキが倒すっ」 「という訳だ。御子神亜門、貴様の相手はこのモートだ」 この組み合わせに不満そうなのは龍斗だけだった。だが、文句を言っている暇はない。イツラコウリキの幻魔光が次々と龍斗を襲う。一撃であれば弾き返すところだが、こう連続されるとかわした方がいいだろう。 「トリックスターが俺を倒そうなどと考えるのが甘いんだよっ。己の弱さを悟るがいいっ」 蒼白い焔を纏った聖琉刀を龍斗が一閃するとイツラコウリキの姿が一気に燃え上がった。 「そいつは只の焔じゃない。悪しきを焼き払う地獄の業火。骨まで残さず灰になるがいい」 「ふっ・・・いい気になるな・・・モートやスカルクロイツは・・・こんな・・・もの・・・で・・・は・・・・・・」 そこまででイツラコウリキの姿は崩れ去った。龍斗は聖琉刀を収めるとその場から姿を消した。
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