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Hideland Hill 作者:凪沙 一人

第10回   Vampire II
「ソウル・メイカー、自分の招待を御子神亞門に明かしたそうだな?」
「別に構わないだろ? どうせ、彼に隠し事なんて無駄なんだし」
 それが事実なのは承知していた。しかし、自ら明かすという行為がLOSTの中には許せない者も居た。
「それにソウル・イレイザーにトドメを指したのは貴様だそうだな?」
「別に構わないだろ? どうせ、能力を失った役立たずなんだし」
 たとえ、そうだとしても仲間の命を奪った行為が許せない者が居た。
「なんだか、僕が悪者みたいだねぇ。もうLOSTは7人しか居ないんだよ? 仲違いしている場合じゃないんじゃないの?」
 その元を作っているのはソウル・メイカー、スカルクロイツ自身なのだが本人は判っているのか、いないのか。
「暫くは大人しくしていてもらおうか。少々、疑念もあるのでね」
「はいはい、お手並み拝見させてもらいますよ」
 スカルクロイツが退席したところで残る6人で会議となった。
「それでソウル・ホールド、今後の対応だが・・・」
「奴が我々の壊滅を目論む以上、避けては通れぬ相手だしな」
 それが最大の難問なのかもしれなかった。こちらが手出しをせねば向って来ない相手ならば無視を決め込めばいいのだが。そしてホールドには、もう一つ気がかりな存在があった。
「亞門と行動を共にする小娘のバックについて何か知っているか?」
 ホールドの問いに答えたのはソウル・ブレイカーだった。
「あの小娘は修道女、ある修道会の使いっ走りというところだろう。修道会のつけた亞門のお目付けというところか」
「ある修道会?」
「心配するな、あの修道会のTOPは亞門並に手強い相手だが・・・決して我々に手出しをすることはない」
「なぜ言い切れる?」
「奴は・・・神の側の存在だからだ。直接、手をくだすことを禁じられたな」
 なぜブレイカーがそんなことを知っているのか、今は詮索している暇はなかった。対御子神亞門に集中すればいい。それはLOSTにとって朗報なのだから。
「亞門はこれまで、霊属のソウル・シェーカー、ドラゴン属のソウル・ブレイザーとフリーザーは倒してきたがソウル・クレイドル、バスター、イレイザーの人間属は手に掛けていない。ここは人間を差し向けるべきではないか?」
「ソウル・イーターの言う事は判る。だが、能力を封じられては何も出来まい?」
「次は私が行く。今度こそ奴の息の根を止めてくれる」
 ソウル・イーターは姿をコウモリに変えると夜空へと飛び立った。
「まだ会議中だというのに・・・魔物は人の話など聞けぬか・・・」
 ソウル・ブレイカーは夜空を見上げてそう呟いた。

 亞門たち一行は村が見えて来たところで立ち止まった。
「どうしたんですか?」
「嫌な気配がする・・・カイムっ」
「了解っ」
 カイムは黒猫の姿となって村へと走っていった。ソラスを呼べば家は建つ。たとえ村に入れずとも野宿の心配はない。ほどなくしてカイムが帰って来た。
「あの村はソウル・イーターが支配してやがったぜ」
「イーター・・・ヴァンパイアの親玉か」
「あの村の住人は既に半吸血鬼だ」
「半?」
「あぁ。どうやら、お前を襲わせる為に従属させる程度に留めたらしい。どうする?」
「姑息だな・・・。奴自身はこの村に居るのか?」
「それは間違い無い」
「ならば乗り込むまでだ。奴を倒して村人を解放する」
「お嬢ちゃんはどうする?」
「セラフはここで待たせておくか・・・」
「えぇ〜っ」
 文句を言いたげなセラフを残して亞門は村へと向った。カイムも一緒に残して。

 村に一歩足を踏み入れるとそこはヴァンパイアのテリトリー。油断はならない。亞門の感性が研ぎ澄まされる。予想通り取り囲むように村人が現われたが瞬間移動で、その輪を抜け出す。詠唱せずに飛べる距離はそう遠くはなかった。
「出て来いっヴァンパイアっ」
「はい、ここですよと出て行く訳がないだろう? 貴様はそこで村人に葬られるのだよ」
 ヴァンパイアの声だけが何処からともなく聞こえてきた。
「確かにな。だが声を出したのが運の尽きだっ」
 亞門は的確にヴァンパイアの元へと踊り出た。
「どうやら伯爵の縁者じゃなさそうだな」
「あんな小国の串刺し公がヴァンパイアの代名詞のように思われるのは不快だな」
「なら生粋の魔物ってことだな。ならば遠慮はしないっ」
「どうせ承知の上であろうがっ」
 亞門が白銀の剣を抜くとヴァンパイアも血塗られた剣を抜いた。ブラッドソードなど珍しくもないが、そこへ村人たちがやってくる。攻めてくる村人自体が人質となっていた。
「考えたな・・・」
「あも〜ん」
「バカっ来るなっ」
「でも心配で・・・」
 走ってきたセラフを・・・襲う村人は居なかった。それは亞門だけを襲うように命令されていたからではなかった。近づけなかったのだ。
「そうか・・・お前、シスターだったっけな」
「はぁ〜い、シスター・セラフィーヌ・フローレンで〜す」
「お前のフルネームなんてどうでもいい」
「あ、酷〜い」
 亞門はセラフの胸元へ手を伸ばした。
「キャァッ」
「騒ぐな、用事はこっちだ」
 それはセラフがソウル・クレイドルから貰ったロザリオだった。
「それは・・・クレイドルの・・・」
 ヴァンパイアが怯んだ。そして村人たちの動きも止まっていた。
「どうやら、こいつが苦手らしいな?」
 亞門の言葉にヴァンパイアは狼狽していた。並のクルスであれば近場の村人の生き血を吸って力を得るところだが、それもままならない。
「これで終わりだな」
 亞門の装魔刀がヴァンパイアの心臓を貫いた。
「普通なら昼間に杭でも突き立てて灰にして川に流すところだがな・・・今回ばかりは灰すら残さない・・・。汝の魂とその身、灼熱の中に葬りたまえ」
 装魔刀の魔力が亞門に呼応し地獄の業火のように炎を上げた。
「やっと・・・眠りにつけるな・・・永久の眠りに・・・」
 ヴァンパイアの姿は煙となって天へ登って行った。
「天上界までは届かないだろうが・・・ヴァンパイアか・・・。セラフ、今回は助かった」
「えっ? えぇっ???」
 セラフは亞門に礼を言われるとは思ってもみなかった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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