「お姉様方が襲われたというのは本当ですか?」
久方振りに家に帰ってきたサラ。 だが、休む間もなく父マクシミリオン卿に詰め寄る。 先日受け取った父からの書状には姉二人が襲撃を受けた、と書いてあったのだ。 サラにとっては叔父にあたるハティ・ド・マクシミリオンの動きがおかしい、とも。
「おぉ。よく戻った。そうなのだ。クレアもキーナもさらわれた。婿は二人とも亡き者とされた。なんと言ったか…。ウィリアム、説明を。」
ウィリアムはマクシミリオン家の従者である。 見ると傷だらけになっている。 襲われた時に一緒にいたのだろう。
「はい。‘草原の鷹’と名乗っておりました。」
「ふん。ハティのやつの仕業に違いないのだ。野盗なんぞ使いおって…。」
わなわなと震えている。 悲しみよりも怒りを強く感じる。
「ハティ叔父様が…?」
「間違いない。やつの息子がもうすぐ15の成人を迎えるこの時期だからな。」
「そんなわかりやすい事をするのでしょうか?」
「やつならやる。そういう男だ。我がマクシミリオン家の財産を根こそぎ持っていくつもりなのだ。」
「身内同士でなぜそのような…。」
サラの顔が苦悩に歪む。
「とにかく、だ。やつの息子レクトの成人の儀まであと10日ほどしかない。それまでにお前の婚儀を済まさんといかんのだ。相手は用意してある。いいな?」
返事を聞くつもりなど最初からないのだ。 強制である。
「お姉様方がさらわれたというのに。婚儀などと…。」
戸惑うサラ。
「事情が事情だ。そんな悠長な事を言っている暇はない。」
父マクシミリオン卿はきっぱりと言い放つ。
「わかりました。では、一週間ください。必ずお姉様方を連れて戻ります。」
「ふん。よかろう。但し、その約束が叶わん時は…わかっているな?」
「はい。」
サラはそのまま家をあとにした。
「サラさん、どうなっちゃうのかなぁ?」
リノが呟く。 エルストイの冒険者の店‘翼竜の翼亭’。 アル・リノ・リーファの三人はサラを送り届けた後、ここに滞在していた。 実入りがよかったので次の仕事を見つけるまで少しのんびりしているのだ。
「そうだな。なにやら大変な事になってるらしいし。」
マクシミリオン家を取り巻く不穏な噂はアルたちの耳にも入っている。
「気になるね。行ってみようか?」
ガタ、と椅子を鳴らして立ち上がったリーファに聞き慣れた声がかかる。
「その必要はありません。」
ニコリ、と笑顔で立っている人物…。
「サラさん!?」
「よかった。まだここにいらして。実は相談があるのです。」
サラから持ち掛けられた相談はもちろん姉二人の捜索を手伝って欲しいというものだ。 三人は二つ返事である。
「アタシ、盗賊ギルドに顔出してくるね。」
冒険者として旅をしている盗賊たちはみな盗賊ギルドに所属している。 上がりの何%かは持っていかれるが所属せずに仕事をするのは得策ではない。 無断で仕事をしようものならその報復は…、考えるだけで恐ろしい。 それに強力なネットワークを持つギルドの情報網は冒険者には必須でもある。
しばらくして帰ってきたリノは‘草原の鷹’についての事細かな情報を握っていた。
「もうすぐ着くよ。」
先導しているリノが声をかける。 野盗‘草原の鷹’は名前に反して山奥の小さな古城をアジトにしているらしい。 聖戦士サラがいるので隠密行動を取る訳にもいかず正面からアジトに向かっている一同である。 最初は襲ってきていた野盗たちだが途中から姿を見せなくなった。 おそらく待ち伏せしているのだろう。
「あれね?」
リーファが指差す。 城といっても非常に小さい。 山奥にひっそりと隠れるように立っている。 確かにアジトとしては最適だろう。
サラが門前に歩み出て見張りに声をかける。
「お姉様方を返しなさい!」
「残念だったなぁ。ここにはいないぜ?」
見張りはニヤついている。
「なんですって!?」
サラに焦りの表情が浮かぶ。 エルストイからここまで三日。 はたして再探索の時間はあるだろうか…?
|
|