「ふむ…。なるほど…。」
腕組みしつつドムルが唸る。 やっと終わった長い長い自己紹介に内心少しほっとしている。 ハリュウなど待ちくたびれてすっかり夢の中だ。
「つまり…。お前さんは大地の精霊の剣で、数百年間ここで主が来るのを待ってた、って訳だ?」
数百年分の思い出話と共に語られた中から要点を抜き出す。 なかなか骨の折れる作業だ。
「左様でございます。」
刀身が曲がって会釈したように見えたのは気のせいであったろうか。
「で。うちのハリュウを主に選んだってのか?」
「はい。ハリュウ様はとても強い大地の精霊力を持つお方とお見受け致します。地下の祭壇に来られたのがなによりの証拠。私が思いますに…。」
黄金の剣はいちいち説明が長い。 ドムルは適当な所を見計らって相槌を打つ。
「そかそか。二歳八ヶ月にして主か。さすがは俺の息子だ。」
顔のしまりがなくなっている。 親バカ全開である。
「ハリュウもお前さんになついてるようだしな。前に魔法で喋る人形ってのを買ってやったら大泣きされたもんだが…。」
ドムルは遠い目をしている。
「ありゃあ、高かったんだがなぁ…。」
しばらく物思いに耽った後、おもむろに声を上げるドムル。
「よし!んじゃ、一緒に行きますかぁ。」
んせ、とハリュウを抱き上げる。 すっかり眠りこけていたハリュウだが目を覚ましたようだ。
「じぶんであるく〜。」
「おぉ、そかそか。よし、えらいぞ。」
下ろしてもらったハリュウはツテテ…、と歩き始める。 手には身の丈ほどの剣。
「さっきから不思議なんだが…お前さん、軽いのか?」
ハリュウが軽々と剣を振り回しながら歩いているのが不思議なのだ。
「ハリュウは同じ年頃の子と比べれば力がある方だとは思うがね。それでも剣を軽々と振れるほどじゃあない。」
「主にとっては軽い剣です。そもそも重さというのは…。」
聞かなきゃよかったかと後悔を覚えるドムル。
「あ〜。わかったわかった。とにかくハリュウには軽いってこったな?」
「はい。左様で。」
少し落胆の色が見えるのは話の腰を折られたからだろうか。
『感情の見える剣なんてな。不思議なヤツだ。』
クスリと笑いながら、出口へと向かうハリュウについていくドムル。
「いい剣を持ってるなぁ?坊主。」
出口を出てすぐに声がかかった。 いかにもガラの悪そうな男たちが待ち構えていたのだ。
「なんだ?貴様ら。」
ドムルの問いに男たちは‘デザートリザード’と名乗った。 最近この辺りを荒らしていると噂の野盗の一団だ。
「さぁ、坊主。その剣を渡しな!」
「いや〜!」
叫ぶハリュウ。 その声に応えるように地面がうねる。 男たちは尻餅をついてしまった。
「あはは^^ なんかコケたなぁ。」
ケラケラと笑うハリュウ。 ハリュウは天下の二歳児だ。 感情の変化がすこぶる激しい。
「このガキ…なめやがって!」
「こんといてよ〜。」
闇雲に剣を振り回すハリュウ。 男たちが膝をついてしゃがみこむ。
「なんだ?体が重い…。」
先程、黄金の剣がドムルに説明しようとしたのがこれである。 大地の精霊は重力をも司る。
「なにやってんの〜?」
動かなくなった男たちを見てハリュウがトテテ…、と近づいていく。
「ハリュウ!こら…。」
止めようとするドムル。
『ポテッ』
あ、コケた…。 その拍子に剣が地面に突き刺さる。
『ゴゴゴゴ…!』
地響きが鳴り響き。 みるみるうちに地面に裂け目が走っていく。 あっという間に男たちは地面の裂け目に飲み込まれてしまった。
「なんかおちたなぁ。」
その無邪気さに末恐ろしさを感じずにいられないドムルであった…。
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