「パパ〜!ぼうけん、いくか〜。」
随分低い所から声が聞こえる。 冒険者ドムルの息子ハリュウである。 背がドムルの半分ほどしかない。 後に‘ゴールドホライズン’の通り名で呼ばれるようになる彼も今は二歳児である。
「ん〜?よっしゃ、行くかぁ。」
親子仲良く冒険ゴッコをする、訳ではない。 この親父、本当に冒険に息子を連れて行くのだ。 ちなみに妻のミズルは『子守りをしてもらえて助かる』くらいにしか思っていなかったりする。 華奢な容姿に見合わず豪快な女性だ。
「ちょっくら行ってくらぁ。」
ドムルが家の奥にいるミズルに声をかける。
「いってくら〜。」
ハリュウも真似をしている。
「は〜い。」
見送りに出てきたミズルは魔除けの軽い儀式を行う。 エルフ族に古くから伝わる儀式だ。 彼女はこの二人が無事に帰ってくる事を信じて疑わない。
もちろん、危険が少ない場所を選んで行くのだ。 近場で既に冒険者たちに開拓されている場所。 詳細がわかっているような洞窟や古代遺跡に少し入るだけだ。 そういう意味では冒険ゴッコの延長と言えなくもないのかもしれない。
「ハリュウ。今日は洞窟に行くか?」
「どうくつ、いく〜。」
「よしよし。」
二人は自分たちの街エルストイから程近い所にある『祭壇の洞窟』へと向かった。 洞窟の奥に小さな祭壇の間がある。 全体的にこじんまりとした感じの洞窟だ。 魔物といってもたまにでっかいムカデ(ジャイアントセンチピード)が顔をみせるくらいで危険は少ない。 罠も無ければ宝物も無い。 あるのは祭壇だけ、である。 なんの為の祭壇なのか。 何が奉られていたのかさえ定かではない。 一説によると古代魔法帝国時代よりも古いものであるらしい。
「よし。今日は祭壇を見に行こう。」
「さいだん〜。」
ハリュウを片手に抱き剣を構えるドムル。 危険は少ないとはいえ、無い訳ではない。 一応の備えは必要だ。
「灯りよ。」
一言かけると指輪が光り剣に灯りがともる。 灯りをともす呪文『ライト』の力が封じ込められている指輪だ。 決して安い買い物ではなかったが、どうしてもハリュウを冒険に連れて行きたいドムルには必需品なのだ。
洞窟の奥へと進むドムル。 特に魔物と出会う事もなく祭壇の間に到着した。
「ほら。祭壇だ。」
そう言いながらハリュウを下ろす。 祭壇の間は洞窟部分と違って明るい。 永続的に灯りをともす‘コンティニアルライト’の呪文がかかった燭台が壁にかけられているのだ。
「さいだん〜。」
ぺた、とハリュウが祭壇に手を触れる。
『ズボッ!』
突如として床にハリュウが飲み込まれる!
「ハリュウ!」
ドムルが手を延ばすが間に合わない。 ハリュウを飲み込んだ床は瞬時に元に戻ってしまった。
「どうなってるんだ?罠があるなんて聞いてないぞ。」
ドムルは祭壇を隈なく調べ始めた。
ハリュウは地下にいた。
「さいだん〜。」
ぺたぺた…。 地下にも同じ形の祭壇があるのだ。 ひとつ違うのは、地下の祭壇には黄金色の剣が刺さっているという事。
「パパ〜?パパ、ないなぁ。」
キョロキョロと辺りを見回しドムルの姿がない事に気づくハリュウ。
「ようこそ。我が主よ。」
祭壇の上から声がする。 黄金色の剣が喋っているのだ。
「だれ〜?パパ、ちがうなぁ。パパ、ちがうわ。」
「私ですよ。」
地面が隆起し、ハリュウを祭壇の上へと運ぶ。
「お待ち致しておりました。」
喋る黄金色の剣。 冒険者の店で喋りまくり、店の名物になるのはこの二十年ほど後の事だ。
普段のハリュウならたじろいでいたかもしれない。 しかし、この剣に何か感じるものがあるのだろう。 迷う事なく手を延ばす。
「なんだ?コレよぉ。」
ケラケラと笑いながら剣を抜く。 スルリ、と簡単に抜ける剣。 自分の身の丈ほどもある剣だがハリュウは軽々と扱っている。
「さぁ。戻りましょう。」
再び地面が隆起しハリュウを地上へと運ぶ。 祭壇を調べつくしたが何も見つからず落胆しているドムルの目の前にハリュウが競り上がってくる。
「ハリュウ!?」
一気に力が抜け、その場にへたりこむドムル。 ふと、ハリュウが手にしているものが目についた。
「ハリュウ?その剣はどうしたんだ?」
「これはこれは、お初にお目にかかります。私は…。」
それから、長い長い自己紹介を聞く事になるドムルであった…。
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